
約1400万人が暮らす大都会・東京。さまざまなモノやヒトが集まるこの街には、自動販売機(自販機)でも、多種多様な「モノ」が売られている。
電気街・秋葉原らしいけど……商品がピンポイントすぎる自販機
都内でも、変わった自販機が集う屈指のスポットが秋葉原。この地にはフィギュアやカードゲーム、中身が隠された謎の自販機まで並ぶのだが、特にニッチなものが秋葉原UDXの地下2階にある。
路地裏や街の外れではなく、こんな街の中心部にあるとはにわかに信じがたいが、エレベーターで降りていくと……
地下の薄暗さに溶け込む黒い筐体から放たれていたのは、まるで対照的なまばゆい光。中をのぞくと、光ファイバーケーブル、OAタップなど、電気やITの街・秋葉原らしいアイテムが並んでいる。
とはいえ、地下という場所柄、人目にはつきづらい。そしてUSBケーブルなどは外の店でも手軽に入る。はたして利用者はいるのか、そもそもなぜターゲットが絞られそうな自販機を設置しようと思ったのか……。運営元の「愛三(あいさん)電機」を直撃した。
「設置は2022年9月からで、利用者は月平均30~50人ほどです。弊社は18時45分閉店・日祝定休なのですが、お客様から『もう営業が終わっていた…』『日祝しか行けない…』といった声をいただくことが多く、『自販機なら24時間買える!』と思いまして。
秋葉原って、開店が遅く閉店は早い店が多い“朝遅く、夜早い”街なので、必要なときに専門部材を購入できる場所を目指しています」(愛三電機担当者、以下同)
実際、通信関係者らにとっては勝手がよく、「いざというときに購入できる」との声が多いそうだ。
「ケーブルとかはデータセンターのかたが買っていきます。
商品の補充は週1回で、ラインナップは季節ごとに変更しているそう。気になる売れ筋は、大田区の町工場が造る金属フィギュア・ネジマルシリーズと、オリジナル商品のLANケーブルキーホルダー。キーホルダーは愛三電機公式Xでバズったこともあり、売上はこれまでで315個と自販機内トップだという。
このように一般向けのグッズも扱っているが、担当者は“現場”をキーワードにする。今後については「根本にあるのは“現場”です」「現場に寄り添った自販機にしたい」など、プロが喜ぶ自販機を目指すと意気込んだ。
黄色と亀、縁起が良さそうな見た目の自販機で売っているのは……
業界御用達の自販機は、山手線で一本の新宿駅周辺にもある。訪れたのは、都庁などの高層ビル群にたたずむ、亀のイラストと黄色い外壁がひときわ目を引く作業服店。
敷地内の自販機で売られているのはなんと、現場作業用やタクシー運転手用の手袋。かなり客層を絞った商品だ。
運営する萬年屋の取締役・八木智子氏いわく、同店は「1番都心にある作業服店」とのことで、新宿駅周辺の工事や再開発事業の関係者がよく訪れるという。
自販機は昨年10月に設置したばかりで、愛三電機同様、ニーズをふまえた結果だという。同店は18時閉店、土・祝定休のため、店舗営業だけでは商品を手に入れにくい客もいたことから導入したそうだ。
「当初からラインナップに入れている寅壱タオルはよく売れますね。外国のお客様が多いので、漢字の入ったものが人気なんだと思います。まだ8ヶ月ほどですが、商品は2~3回入れ替えました。利用しなくても、自販機自体の写真をSNSに上げてくださる方も多くて、けっこう宣伝になってます」(八木氏、以下同)
同自販機のニッチさを際立たせるタクシー手袋も、当初からのラインナップだという。
じつはこの周辺、都庁などがあるためか、かなりのタクシーが走っている。こうした環境もあり、タクシー手袋は店頭の売れ筋商品で、八木氏も「消耗品に近く、使っていると汚れたり破けたりします。周辺にホームセンターや作業服店もないので、需要に繋がっているのかと」と語っている。
とはいえ、店側にもわからない“謎”もあるそうで……。
「じつは、店頭では売れているんですが、自販機ではあまり売れていないんです(苦笑)。この差がなぜかは我々もわからなくて……。まだまだ自販機の存在が知られていないんでしょうか」
この6月、企業では従業員の熱中症対策が義務化され、冷感グッズの需要は増加が予想される。
「時季的にも、これから冷感グッズは増やしていきたいですね。ただ、設置してから初めての夏になるので、どういったものが売れるかは本当に探りながらという感じです」
まだ設置から日が浅く、稼ぎを出すのも“これから”といったところの萬年屋の自販機。しかし、八木氏は「売上だけじゃなく、働く人が安全・快適に働けるような商品を考えていきたい」と、利用者のための存在でありたいと語った。
ブームは下火? 昆虫食の自販機の現在
ここまでは専門的な自販機を回ったが、続いて訪れたのは、高田馬場にある食べ物の自販機。だが、その品ぞろえはただものではない。並ぶのは、コオロギやイモムシといった“昆虫食”だ。
運営するのは、同じ敷地の居酒屋・米とサーカス。高田馬場と渋谷に展開する同店はジビエと昆虫食が目玉で、2019年から自販機も始めた。
「店で扱うジビエの種類が増えていき、2015年頃から昆虫食も出すようになったら、『こんなに求められてたんだ』と驚くほど反響がすごくて! 当時は店舗がここだけで営業も夜のみだったので、『昼も買いたい』『お土産にしたい』との声に応えられるよう、ここと秋葉原に自販機を設置しました。
売れ行きは秋葉原のほうが良かったんですが、設置場所の都合で撤去し、今はここだけです。台数は増やしたいんですが、補充もスタッフでやるので、近場以外だと難しくて」(PR担当・宮下慧氏、以下同)
好評を受けて導入した自販機だが、昆虫食は数年前の注目が一変、昨今は関連企業の破産や撤退が相次いでいる。
「この1台で月に100~120個くらいは売れてます。でも、昆虫食自体ちょっと元気がないですね。ブームのときは、わっと買いに来る方が多かったんですが……。
今は客層が変わって、YouTubeで知ったという海外の方がけっこう来られます。日本人でも、夏休みや春休みなど、東京に来る人が増える時季は特に売れますね」
売れ筋を聞くと、「まんべんなく売れているんですが、安定して人気なのが『タガメサイダー』、海外の方がよく買って行くのは、いろいろな昆虫が入った『バグミックス』です」とのこと。おすすめの食べ方は、「スナック感覚でそのまま食べられます」などと教えてくれた。
そこで、人気のタガメサイダーと、ご当地シリーズから広島産コオロギを購入。サイダーのアテにコオロギを楽しんでみた。
おそるおそるコオロギを口にすると意外にも、広がるのはアーモンドの風味。裏面を見ると、エサにアーモンドを使っていた。
その効果か虫の臭みはなく、感覚はミックスナッツに近い。
続いてはサイダーを飲んだが、こちらはさらに違和感がない! タガメエキス入りだが感じるのは梅のような風味で、ラムネと言って出されれば、疑いなく飲んでしまうような味だった。
昆虫食について宮下氏は、「栄養価が高く環境にも優しい食材なので、もっと広まると嬉しいです」と語っている。味は悪くないため、先入観さえ払拭できれば普及するかもしれない。
都内だけでも、これだけユニークな自販機に遭遇できるとは……。全国には、さらなる変わり種の自販機があることだろう、お近くにある方はぜひ試してみては。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班