〈増える男性のDV被害〉暴力を振るった妻が「殺される!」と被害を偽装、さらに子供を連れ去り…行政に相談も「あなたも同罪だ」
〈増える男性のDV被害〉暴力を振るった妻が「殺される!」と被害を偽装、さらに子供を連れ去り…行政に相談も「あなたも同罪だ」

近年、パートナーから暴言や暴力を受ける「男性のDV被害」が顕在化しつつある。その一方で、男性のDV被害は社会的にまだ認められにくく、多くの被害者が苦悩している。

30代医師が妻から受けたDVとは?

警察庁によると、2024年に寄せられたDV(ドメスティック・バイオレンス)相談件数は女性からが6万6723件、男性からが2万8214件と、いずれも過去最多を記録した。女性の相談が多数を占めているものの、男性の件数は5年間で約9000件増加し1.5倍となっている。

数字の上では男性被害者の存在も明らかになりつつあるが、社会の偏見や理解不足から、実際には声を上げにくい現実がある。今回はその実情を知るべく、DV被害に悩み、離婚をすることになった30代の医師・Aさんに話を聞いた。

「私は大学時代の同級生と27歳で結婚しました。交際していたときから彼女のヒステリックな一面は感じていましたが、“付き合ってるとこういうこともあるのかな”と深く考えていませんでした。また、彼女は私より先に社会人になっていたので、仕事のストレスが原因だとも思っていました」(30代医師・Aさん、以下同)

Aさんの元妻には、DV加害者にしばしば見られる「過剰な愛情表現」と「突発的な暴力」のギャップもあったが、「いつか落ち着いてくれる」と信じて、Aさんは結婚に踏み切った。

しかし、Aさんが医師として働き始めると、元妻の言動はさらにエスカレートしていく。

「彼女は独自の衛生観念が強く、たとえば、病院から持ち帰ったカバンは“汚いもの”とされ、家に持ち入れるだけで怒る。カバンを触った手で別の物に触ると、『触るな!』と怒鳴られ、怒りのスイッチが入ってしまう。医師として衛生管理には気をつかっていたし、『それは医学的に根拠がないよ』と伝えても、まったく聞く耳を持たず、むしろ火に油でした」

そうした状況の中で、Aさんの頭には「離婚」の二文字がよぎり始めた。子どもを望んでいたAさんは、あるとき元妻に対し「このままの関係が続くようでは、子どもに見せたくないし、結婚生活の継続は難しい」と率直に伝えた。

すると元妻は、「子どもができれば私は変わる」と主張。

その言葉を信じ、Aさんは30歳のときに第一子の男の子を授かることとなった。

しかし、変化はなかった。元妻は専業主婦となったが、家事は8割ほど放棄状態。子どもの世話もほとんどせず、Aさんが夜9時に職場の病院から帰宅すると、3歳の子どもがまだ夕飯を食べていないこともあったという。

包丁を取り出そうとした妻が叫んだ言葉

「そこから私がご飯を食べさせて、お風呂に入れて、寝かしつけて……という生活が2年ほど続きました。彼女は浪費もひどく、月に30~40万円ほどカードで使ってしまう。それを指摘すると怒鳴られる。“これはもう子どもにも悪影響だ、結婚を続ける意味があるのか”と真剣に考えました」

元妻の行動で特に印象的だったのは、皿を投げつけられたことだという。

「理由はもう覚えていませんが、彼女が激昂して1枚、2枚と台所から皿を投げてきたんです。さらに包丁を取り出そうとするので、たまらず抑えようとすると、今度は突然『助けて!殺される!』と叫び出した。逆にDVをでっちあげられそうになったのです」

そんな中、Aさんの周りでも家庭をもつ人が増え、それぞれの話を聞くうちに、「自分の家庭は異常な状況なんだ」とハッキリと気付くことができたという。そして、離婚を切り出した。

元妻は離婚を拒否したが、Aさんは意思を変えず、まずは別居を選択。

しかし、ここで最大の誤算が起きる。元妻が子どもを連れ去ってしまったのだ。

Aさんは、元妻がひとりで子どもを育てるのは非常に危険だと考え、警察や児童相談所、行政など複数の機関に相談を持ちかけた。しかし、いずれの機関からもまともに取り合ってもらえなかったという。

「妻が怒鳴っている音声や、荒れた室内の写真・動画など、状況を記録した証拠を提示しました。それでも、『これは一部の切り取りに過ぎない』『怒鳴り声を止めなかったあなたも同罪だ』などと言われ、まるで私がクレーマーであるかのような扱いを受けました」

裁判においても、こうした証拠は十分に認められず、Aさんは深い無力感を覚えたという。

「全体として、“男性がDVを受けている”という事実そのものが、非常に軽視されていると感じました」

最終的に離婚は成立したが、親権は元妻が持つことになった。加えて、取り決められていた子どもとの面会交流も一方的に反故にされ、Aさんはすでに1年以上、子どもに会えていない。

そしてその間も、コロナ禍で残業が非常に多かった時期の年収を元に設定された養育費を、月に30万円近く支払い続けている。

「自分へのDVはまだ我慢できました。でも、子どもに会えない状況は本当に辛いです。ふと、“何のために働いているんだろう”と考えてしまう。

死を考えたこともあります」

「お前の頭がおかしい」――相談窓口の効果がない理由

その後、Aさんは適応障害と診断され、勤務先を辞めることになった。そして今は新しい職場で働きながら、多額の養育費と子どもと会えない寂しさを抱え続けている。

「行政もDV被害者向けの相談窓口を設けてはいますが、私の実感としては、そこに相談しても何も変わらないと感じてしまいます。結局のところ、加害者が変わらなければ状況は改善しませんから。

過去に元妻にカウンセリングを受けるよう勧めたこともありますが、その際は『そんなことを言い出すなんて、お前の頭がおかしい』と逆上され、むしろ怒りがエスカレートするだけでした。

私としては、男性がDV被害を受けているという事実が軽んじられている現状と、子どもを一方的に連れ去った側が親権を得やすいという、今の制度の歪みが見直されることを願っています」

2026年には共同親権制度の導入が予定されている。だが、制度が変わったとしても、こうした問題がすぐに解消されるわけではないだろう。

最後にAさんは「“子どもを取り上げる”というDVの形が存在していることが、世の中にもっと知られてほしいです。私は暴言や暴力を振るわれるよりも、別居後お金だけ取られて、子どもに会えないことがなにより辛いです」と話す。

男性のDV被害は、もはや特別なことではない。一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、性別にとらわれず平等に物事を捉える姿勢が、社会全体に求められている。

取材・文/集英社オンライン編集部

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