
RTA(リアル・タイム・アタック)とは、ゲームクリアまでの実時間を競うゲームの遊び方のひとつ。そんなRTAの大型イベント「RTA in Japan 2024 Winter」で、とあるプレイヤーが会場を沸かせた。
音楽ゲーム「ダンスダンスレボリューション(DanceDanceRevolution STRIKE)」(以下、DDR)を4時間弱にわたって踊り倒した元プロ・YUDAI氏は音楽ゲームへの愛が高じて博士論文を出し、健康さえもDDRに委ねているという。奥深すぎるあまりに知られざる、DDRの世界とは。
肩書きに偽りなし。音楽ゲーム”博士”なRTA走者
RTA(リアル・タイム・アタック)とはスタートからクリアまでの実時間を競い合うゲームの遊び方だ。アクションからパズル、はては音楽ゲームまで、どんなゲームにもRTAプレイヤーは存在し、日夜1分1秒を争っている。
そんなRTAイベントとしては国内最大級を誇る「RTA in Japan」。夏と冬、年に2回開催される同イベントで、2024年・冬、会場も配信のコメント欄もおおいに盛り上げたRTAがあった。
元プロゲーマーのYUDAI氏による「Dance Dance Revolution STRIKE」の約4時間にわたるRTAだ。そんなYUDAIさんに話を聞いた。
――「Dance Dance Revolution」(以下、DDR)90年代後半にゲームセンターで一世風靡した大ヒットゲームですが、その魅力はどこにありますか。
YUDAIさん(以下、同) DDRは非常にシンプルな音楽ゲームです。曲に合わせて上下左右の矢印が流れてくるので、適切なタイミングでボタンを押し、高得点を狙う。
足元に上下左右それぞれに対応したパネルがあり、画面の表示にあわせて踏んでいくわけです。足でやるからこそ、自然と体も動いて、高揚感も生まれてくる。それが楽しさにつながっているゲームだと思います。
――1998年にゲームセンターで稼働開始し、99年には家庭用も販売されました。
だいたいの友人がPlayStation(ソニー・コンピュータエンタテインメントから発売された家庭用ゲーム機)と家庭用DDRを持っていたような時代です。私も小学生のときに買ってもらいました。
家庭用のDDRは専用のマット型コントローラーが付属していて、それを踏んで操作するのですが、これがまた滑るし、ドスドスしたら下の階に響くし……大変だったな(笑)
――その原体験が、今につながっていると。
人生には確実に影響を与えていますね!一時期、プロとして大会にも参加させてもらいましたし、今の仕事にも関係しています。大学で助教授として勤めているのですが、修士論文や博士論文も音楽ゲームをテーマで書いていて、現在ではある大学の助教として教壇に立っています。詳細はここでは伏せますが、調べたらすぐに出てくるかもしれないですね(笑)
――ゲームで論文ですか!?そんな研究ができる場もあるんですね
大学院に進むまで、まさか音楽ゲームが研究の対象にできて、それを受け入れてくれる大学や学会があるなんて思いもしませんでした。
もし、進路に悩んでいる学生さんがいるなら、「君の趣味も、もしかしたら研究になるかもよ」と伝えたいです。
RTAの練習をしていたら、YouTubeのおすすめ欄がヒップホップだらけに
――音楽ゲームって、1曲の時間は決まっているわけじゃないですか。それで最速を競うって、なかなか想像が難しいのですが。
思いますよね? 私もそう思ってました(笑)。そもそもその疑問が、このRTAの出発点といえます。RTAの存在は前々から知っていて、自分でもやってみたいな、と。でも自分の得意分野は音楽ゲームで、はたしてRTAが成立するかどうかわかりませんでした。
でも、試してみると意外にタイムを短縮できるポイントは十分にあって、しっかりRTAできるんですよね。
例えばメニュー画面でのステージ選択。いかに精密な足さばきで操作するかがタイムを左右します。また、特定のタイミングで曲を中断する場面があるのですが、これも中断条件を満たしてしまえばいつでも終了操作を行っていいです。なんだか際限なくタイムが縮みそうな雰囲気がありますよね。
DDR RTAの中でもこのSTRIKEという作品に固有の事情としては、プレイスキルと同じくらい事前の準備が大切という点が挙げられます。
このバージョンのRTAレギュレーションでは、ゴールに至るルートが1通りではないので、自分の実力と相談しながら、どのステージに挑むのかのチャートをあらかじめ組むことになります。RTA in Japanに出場するにあたって、週1でフリースペースに通い詰めて研究と練習、チャートの調整を繰り返していました。
実は、その研究の結果諦めてしまった「幻の最短ルート」が存在するんですよね。終盤のエリアに、たった30秒と非常に速く終了するステージがあるのですが、普通のDDRでは考えられないような罠が二重三重に仕掛けられているんです。
今の私の実力だと数時間かけて1回クリアできるかどうか、という難易度なので、RTA的には迂回ルートに行かざるを得ないという現状です。ロマンあふれる理論上最速の世界、いつかは踏み入れてみたいですねえ。
ちなみに、STRIKE以外にもPlayStation/PlayStation2向けの家庭用DDRは発売されていて、その中にはSTRIKEとまた違った趣のあるRTAカテゴリが存在するものもあります。これもなかなか面白いですよ。
「1秒間で上パネルを7回踏むだけ(ただし曲に合わせてはいけない)」みたいなバラエティ豊かすぎるチャレンジを、いかに少ない試行回数で突破するかを競っていたりします。
――譜面を覚えるのは前提ということですか。
全部の曲の譜面を完コピしているわけではありません。特に私は丸暗記がどうも苦手でして...。ですが、おさえておかないとダメなポイントだけは把握するようにしています。家までの帰り道のようなイメージですね。
――体が覚えている?
反復練習で自然と体が覚えることもありますが、今回披露したRTAに関して言えば、むしろ「体"で"覚えにいった」場面もありました(笑)。1曲だけどうしても譜面の丸暗記が必要になる場面があって、それに対する対応策ですね。
実は、DDRほかダンスゲームには、スコアを競うだけではなく、プレイの華麗さを競う「パフォーマンス」という文化があるんです。踏む方向の指示しかないDDRの譜面に対して、どんな解釈でどんな振り付けを作るのか?という楽しみ方ですね。パフォーマンスの大会や披露会みたいなものもあって、そういう場面で画面を見ずに後ろ向きで踊って観客にアピールするようなプレイができると、ウケたりするんですよ。
以前、ダンスもゲームもできる友人と一緒に、そんな背面パフォーマンスに挑戦したことがあったんです。その練習の時、あんなに苦手だった譜面の丸暗記が、振り付けがあるだけでスルスルと頭に入っていく感覚があったんです。
その経験もあって、今回丸暗記に対する答えとして「自分で振り付けを作ってダンスで覚える」を採用しました。
「DDRをやめたら、病院に通うことになると思います」
――YUDAIさんはDDRの元プロとのことですが、プロの試合ってどんな風なんですか?
ざっくりと「自分と対戦相手が1曲ずつ指定して、計2曲をプレイして、より多くの曲で相手より高スコアを出した方が勝ち」という感じです。プロが出る公式戦は、チーム戦だったり試合ごとに使える曲が変わったりともう少し複雑なルールが決められているのですが、大体この理解で大丈夫です。プロ以外も出場できる大会でも、このルールが標準だと思います。
――当日に対戦する曲がわかるってことですか?
そうなります。ですが、対戦相手が多くの大会に出ているような人だと、戦歴から選曲の傾向が掴めるんですよ。歩数(1曲中に踏む矢印の数)が多い曲が得意なのか、リズムが独特な曲に強みがあるのか、など。時にはその人が好みの曲のジャンルや年代なんかも推理することがあったりします。
もちろん、相手も同じように自分の曲を予想してくるので、あとは読み合いですね。
自分が不得意な曲をこっそり練習したり、相手の得意曲を重点的にやりこんだり。プロの世界の「得意」ってほとんど「満点」を意味していることもあるので、強みが近い選手同士の戦いは度胸勝負でもあったりします。
――1日に数十曲も対戦していると、体力が保たなそうです。
足ガッタガタになりますよ!プレッシャーがかかる中での跳んだり捻ったりの全身運動ですからね。RTAとはまた違う難しさがあります。「DDRはeスポーツじゃなくてスポーツ」とか「eはeでもextremeのe」なんて意見もよく聞きますね。
――プロともなると、やはり普段の体力トレーニングも大切に?
どうでしょう。DDRで使う筋肉って、ほかの運動で使う筋肉とは違う気がするんです。DDR筋っていうのかな。僕自身、学校の体育は得意なほうではありませんでしたが、DDRは昔から得意でした。DDRに特化した体の動かし方があって、それはやはりDDRでしか鍛えられないんだと思います。
僕はDDRに健康を支えてもらっている節もありまして。コロナ禍ではゲームセンターに行くのも控えていたのですが、なんと10キロも太ってしまいまして。DDRをやめると、代わりに病院に通うことになると思います。
――あらためて聞くと、非常に運動になるゲームなんですね。
いろいろな遊び方ができて、健康の支えにもなる、すごくいいゲームだと思います。
クリアやスコアを追い求めるストイックな取り組み方も魅力的ですが、パフォーマンスやそれこそRTAみたいに、工夫して楽しみを見出すというのもとても楽しいですよ。
取材・文/笠木渉 画像提供/YUDAI