
昨今、すっかり市民権を得たアニメ文化だが、そこをさらに掘り下げると18禁美少女ゲーム、いわゆる“エロゲ”と呼ばれるディープな世界がある。そんなシーンで歌姫と呼ばれたのが、今年で活動25周年を迎えたKOTOKOだ。
知識ゼロで美少女ゲーム界へ
――歌手活動をスタートして今年は25年目の節目の年ですね。
KOTOKO(以下、同) 四半世紀も活動してるなんて、自分でもビックリです……(笑)。
――KOTOKOさんは美少女ゲームの主題歌も多数担当してますが、そもそもこの業界で歌うようになったきっかけは何なんでしょう?
当時通っていたボイストレーニングの学校の卒業制作でアルバムを作ったんです。それを思いつくレコード会社に片っ端から送りつけたんですが、箸にも棒にもかからない状態で……。
そのときにボイストレーニングの学校に臨時講師で来ていた、島みやえい子さんという方が「I've」さんのゲームソングを歌っていて、「あなたの声はきっと合うから、オーディションに行ってみない?」と言われたのがきっかけですね。
――「I've」といえば、多数の美少女ゲームやアニメの楽曲を手掛けるクリエイターチームですね。KOTOKOさんは当時、そういったカルチャーに詳しかったんですか?
まったくです。アニメすら子供のころに少し見てたってくらい本当に知識ゼロ。今でしたら最初からアニソン歌手を目指す人も多いと思うんですけど、私は歌手としてなんでもいいから仕事がほしい、世に出たいという気持ちでした。
――I'veに所属して仕事は順調だったんですか?
所属と言ってもみなさんフリーの歌い手なので安定して仕事があるわけじゃないんですが、ありがたいことに代表の高瀬(一矢)さんが私の声を「少年のような声がすごくいい」と気に入ってくださって。新人の頃から年間20本くらい歌わせてもらってました。
――20曲⁉ それはかなり稼げたんじゃないですか?
全然です。
ド新人でしたからね。でも歌を仕事にできてうれしかったですし、当時はバイトをしてましたが、歌だけで食べていけるくらいお仕事はいただいてたのでI'veさんには感謝しかありません。
持ち歌は約400曲
――歌手生活の中でターニングポイントになった楽曲は?
やっぱり「おねてぃ」(『おねがい☆ティーチャー』)ですね。2002年にWOWOWのノンスクランブル枠で放送されたアニメなんですけど、幅広い年代の方々からすごく人気が出て。
それで、コミケで私が歌っていた主題歌の『Shooting Star』のMVをパイオニアLDC(現NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン)の音楽プロデューサーの西村(潤)さんが見てくださってメジャーデビューのお話をいただいたんです。
――メジャーデビューのきっかけはアニソンだったんですね。
そうですね。「おねてぃ」がなければたぶん今はないと思います。
――一方で、当時はその美少女ゲーム界で歌姫として君臨していたKOTOKOさん。女性シンガーとして、正直、葛藤することはなかったんですか?
全然なくて、むしろ勲章だと思ってます。自分で歌姫というのはおこがましいんですが、新人の頃から私を知ってるファンからしたら「俺たちの歌姫がメジャーデビューした」って感じで応援してもらえてすごくうれしかった。
それに当時、美少女ゲームはアングラなカルチャーでしたし、それが徐々に市民権を得るようになって、ファンとともに成長していったみたいな気持ちでいます。
――25年間歌い続けてきて、持ち歌は何曲くらいになるんでしょうか?
自分でも途中から数えてないんですが、ゲーソンに限らずですと400曲近くにはなると思います。
――400曲⁉ もはや忘れている曲もありそうですね。
でもライブをたくさんやらせてもらっていて、満遍なく歌っているので意外と思い出す機会も多いんですよ。
――その中で一番思い入れのある曲は何になりますか?
難しいですけど、デビューシングルの『覚えてていいよ』でしょうか。この曲自体はノンタイアップ曲なのですが、みんなに伝えたいと思っていたことをストレートに表現できた曲。ファンの方から「この曲に救われた」と言ってもらえることも多かったので思い入れのある曲ですね。
「意外と凌辱ゲーの作詞が得意(笑)」
――KOTOKOさん自身も美少女ゲームはプレイするんですか?
いえ、PCゲームと言ってもほとんどWindowsでしかできないので、Macしか持ってない私はじつはプレイしたことがないんですよね……。
でもシナリオをいただいてそれを読み込んで歌詞を書くので、やったつもりではいます(笑)。
――シナリオを読んで一番お気に入りのタイトルはありますか?
ゲームだと、私もたくさんお仕事させていただいた『BALDR』シリーズですかね。バトルとキャラクターの物語がすごく作りこまれた作品で、やってみたいなと思いました。
――KOTOKOさんはどのようなことを意識して作詞をするんですか?
作品の世界観をうまく歌に取り入れることです。やはり主題歌は作品の一部なので、オープニング曲だったら本の表紙、エンディング曲だったら最後の1ページだと意識してつくっています。
――美少女ゲームも萌えゲー、燃えゲー、泣きゲー、鬱ゲー、凌辱ゲーといろいろありますが、作詞する上で得意なジャンルは?
意外と凌辱ゲーかも(笑)。例えば、『Lupe』(『凌辱制服女学園 ~恥蜜に濡れた制服~』エンディングテーマ)という曲だと、ゲーム自体が“監禁ゲー”なので、その設定を踏襲して自分が蝶の標本にされるという世界観で歌詞を書いたりとか。
――なるほど(笑)。
直接的な表現はしないけど、プレイした人ならわかるような歌詞を書くようにしてます。ただ、燃えゲーや泣きゲーより凌辱ゲーの発注のほうが資料が全然なかったりするんですよ。
ひどいときは作品タイトルと主人公のプロフィールしかないこともありました。まぁそれはそれで妄想の余地がたくさんあるので楽しんでますが。
でも、最近はご時世的に凌辱ゲーも少なくなっていますけどね。
――凌辱ゲーに限らず、美少女ゲームメーカーやブランドの倒産が相次ぐなど、苦境に立たされていますね。
そうですね。私もたくさんお世話になったブランドの「戯画」さんもなくなってしまって悲しいです。2000年代初頭、マイノリティだった文化を一緒に盛り上げた仲間でしたから。
――KOTOKOさん自身も最近は美少女ゲーム主題歌を担当することが減っていますね。
美少女ゲームもアプリなどソーシャルゲームとして開発されることが一般的になって、そういうタイトルは主題歌がつかないことも多いんです。昔を知ってる人からするとちょっと違うものになってるかもしれません。
でも、2000年代初頭のPCゲーム文化が現在につながる世界に誇れる日本のサブカルシーンの一端をつくってきたのは確かですし、発信の形態は変わっても、ゲームやアニメの世界と関わって歌い続けていきたいなと思っています。
――最後に今後の目標をお聞かせください。
とりあえずツアー(「KOTOKO LIVE TOUR 喜怒哀楽」)が2026年の春まで続くので精一杯がんばること。あとは現在レコーディングしている新曲が少し変わったおもしろい曲なので、この曲をできるだけ多くの人に聴いてもらうこと。
そして、何よりシンガーとして、ソングライターとして、生涯現役でいることです!
――本日はライブでお疲れのところ、ありがとうございました!
取材・文/武松佑季
撮影/二瓶彩