「このハゲーっ!」豊田真由子氏の政界復帰に疑問の声…暴行に触れず「まるで自分が被害者かのように…」陰謀論も吹き荒れるパワハラ騒動は何だったのか? 
「このハゲーっ!」豊田真由子氏の政界復帰に疑問の声…暴行に触れず「まるで自分が被害者かのように…」陰謀論も吹き荒れるパワハラ騒動は何だったのか? 

元衆議院議員の豊田真由子氏が9月、参政党のボードメンバー兼政調会長補佐に就任した。週刊誌にパワハラを報じられ一度は政治の表舞台から姿を消した豊田氏の永田町復帰は、社会に大きな波紋を広げている。

経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説する――。 

報道内容はパワハラそのものであった

8年前の2017年、秘書への暴言・暴行疑惑が報じられ、政治の表舞台から姿を消した人物の再登場である。一連の出来事はパワハラではなかったのか、過去の過ちはどのように扱われるべきなのか、多くの人々が再び問いを突きつけられている。 

今回の就任は、個人の更生と社会的制裁のあり方、能力を持つ人物の再起用について、日本社会が持つ価値観を映し出す鏡となる。

2017年6月、週刊誌が報じた音声データは日本中に衝撃を与えた。車内で秘書に対し「このハゲーっ!」と絶叫する豊田氏の声は、多くの人々の記憶に刻まれている。

音声には「死ね!」「私を陥れる気か!?」といった罵詈雑言、秘書を殴打したとされる音も含まれていた。

被害を受けたとされる秘書は、豊田氏のミスを秘書のせいにされることがあり、暴言や暴力は常態化していたと証言した。報道内容は、単なる厳しい指導の域を遥かに超える、パワーハラスメントそのものであった。

豊田氏は東京大学法学部を卒業後、ハーバード大学大学院を修了し厚生労働省のキャリア官僚を務めた経歴を持つ、いわゆるエリートであった。

有能な女性政治家として期待されていた人物による凄絶な言動の暴露は、世間に大きな失望と怒りを生んだ。

事態を重く見た自民党は離党を勧告し、豊田氏は離党届を提出した。豊田氏は後に謝罪会見を開き、涙ながらに反省の弁を述べた。

同年10月の衆議院議員総選挙に無所属で出馬するも、有権者の支持を得られず落選した。

このパワハラ問題を巡る議論には、別の側面も存在する。一部では、豊田氏は計画的に陥れられたとする見方、いわゆる陰謀論が根強く語られている。

音声データを録音した秘書が元週刊誌記者であった事実、仲間とのメッセージに「息の根を止める」「最後に刺してやる(笑)」といった記述があったとされる報道が、陰謀論の根拠となっている。

あたかも自分が被害者であったかのように語る姿勢 

出版社が録音データを他のメディアに貸し出して利益を得ていたという情報も、事件の背景に何らかの意図があったのではないかという憶測を呼んだ。

豊田氏自身も、最近出版されたとある書籍の中で、元秘書が意図的にミスを繰り返していたかのように主張している。

地元でめちゃくちゃをされパニックになったところを録音された、自分の信頼や評判を貶めるために意図的にやっていたとしか思えない、といった記述である。

豊田氏の主張に対し、元秘書たちは「歴史の改ざん」「心の底から怒りを覚える」と週刊誌などで強く反発している。暴行については一切触れず、あたかも自分が被害者であったかのように語る姿勢は許せないと憤りを隠さない。

一方、参政党の神谷宗幣代表は、豊田氏の厚生労働省官僚や国会議員としての経験と能力を高く評価している。

神谷宗幣代表は記者会見で「官僚の経験、議員の経験がある方を一生懸命探していた」「過去のいきさつはあるが、やはり能力と想いのある方」と起用理由を説明した。神谷宗幣代表はさらに「1回の失言やトラブルで政治生命が終わるというのは良くない」と述べ、豊田真由子氏の再起に期待を寄せた。

 「パワハラのイメージしかない」 

豊田氏自身も就任会見に臨み「8年前、大きな大きな失敗をした」「至らなさ、未熟さを恥じながら生きてきたが、反省の上でゼロからスタートしたい」と深く頭を下げ、地道に党の政策作りに貢献したいという意欲を見せた。

豊田氏の復帰に対する世間の反応は、賛成と反対に真っ二つに割れている。

「パワハラのイメージしかない」「弱い立場の人に強く当たる本質は変わらない」といった厳しい批判の声が上がる一方、「騒動後は反省して地道に頑張っていた」「知識や経験を活かせる場だと思う」という応援の声も存在する。

コメンテーターとして活動していた時期の物腰の柔らかい姿や、的確な分析力を評価する意見もある。豊田氏の就任は、参政党にとって政策立案能力の強化というメリットがある一方、党のイメージを損なうリスクもはらんでいる。

豊田氏が犯したパワハラという過ち 

豊田氏の行為は、間違いなくパワーハラスメントであった。

いかなる背景や事情が存在したとしても、録音された暴言や元秘書たちが証言する事実が消えることはない。陰謀があった可能性を考慮したとしても、豊田氏自身の言動が正当化されることは決してない。

99の良い行いをして、1つの悪い行いをしたからといって、1つの悪事が許されるわけではない。

豊田氏が持つ厚生労働行政に関する深い知見や、卓越した政策立案能力は疑いようのない事実である。だが、有能であるという事実が、秘書に対する人権侵害行為を帳消しにすることはない。

能力の高さと人間としての過ちは、それぞれ独立した事象として評価されるべきである。良いことは良い、悪いことは悪い、両方の事実を冷静に認識する必要がある。

一方で、逆の視点もまた重要である。99の悪い行いをして、1つだけ良い行いをしたとしても、1つの良い行いの価値が消えるものではない。

豊田氏が犯したパワハラという過ちは極めて重大である。だが、その過ちを理由に、豊田氏が持つ専門性や社会に貢献しうる能力まで、全てを否定し抹殺することが果たして社会にとって有益なのだろうか。

どのように社会と向き合い、どのように償っていくのか 

過ちを犯した人間は、未来永劫、公的な活動から排除されなければならないのか。問題の本質は、過去の過ちを許すか許さないかという単純な二元論ではない。

過ちを犯した人間が、どのように反省し、どのように社会と向き合い、どのように償っていくのかというプロセスこそが問われている。

豊田氏には、過去の行為に対する批判を生涯にわたって受け止め続ける覚悟が求められる。元秘書たちの心の傷が癒えることはないかもしれない。その事実から目を背けることは許されない。

パワーハラスメントは許されざる行為である。豊田氏の過去の言動は、その一点において断罪されるべきである。この前提は揺るがない。

豊田氏が公職に復帰することに対して、強い嫌悪感や不信感を抱く人々がいるのは当然である。しかし、反省し、過ちを償おうとする人間に、社会貢献の機会を永久に与えないという社会もまた、健全とは言えないだろう。

過去の過ちが消えるものではないからと言って、将来にわたって、公的な立場に就く資格が永久に剥奪されるという結論もまた、短絡的である。

批判を真摯に受け止める責任 

豊田氏には、自身が向けられる厳しい視線と批判を全て引き受けた上で、過去の自分を乗り越え、より良い社会の実現に貢献するという姿勢を行動で示し続ける責任がある。

私たち市民に求められるのは、感情的な非難に終始するのではなく、事象をありのままに受け入れ、個人が更生し社会に再び貢献するための道筋をどのように構築していくべきか、冷静に議論する覚悟である。

感情的な非難だけでなく、過ちを犯した人が社会に再び貢献するための道筋をどう作るかをよく見届けよう。

文/小倉健一

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