〈置き配促進〉「絶対嫌だ」「なんで税金で?」配達員の“オートロック解錠”にSNSでは怒りの声 防犯専門家が危惧する犯罪リスク
〈置き配促進〉「絶対嫌だ」「なんで税金で?」配達員の“オートロック解錠”にSNSでは怒りの声 防犯専門家が危惧する犯罪リスク

ネット通販の拡大に伴い、宅配便の再配達削減は社会的課題となっている。人手不足やドライバーの労働時間規制も重なり、国土交通省は対策の一環として、配達員によるオートロック解錠のシステムを支援する方針を示した。

置き配の利用拡大を通して再配達を減らすことが期待される一方で、防犯の観点からは懸念の声も少なくない。

SNSでは怒りの声が相次ぐ

国交省の発表直後から、SNS上では「絶対嫌だ。高い金払って安全と思われるオートロック住んでるのになんでそこぶっ壊しにくるの。しかも税金で」「なんで税金をつかってストーカーや勧誘促進、犯罪行為の加担をするのか?」といった声が相次いだ。特に実例として取り沙汰されたのが、8月に神戸市で起きた凄惨な事件だ。

20代の女性会社員が自宅マンションのエレベーター内で殺害された事件では、加害者の男がオートロックの玄関で住民の後を追い、ドアが閉まる寸前にすり抜けて侵入したとされる。いわゆる「共連れ侵入」と呼ばれる手口だ。容疑者は過去にも同じ方法で複数のマンションに侵入し、ストーカー規制法違反や傷害容疑で摘発されていたことが報じられている。

この事件をきっかけに「オートロックは万能ではない」という現実が広く認識され、そこのリスクをさらに上げてしまうような施策に対して懸念が噴出した。

確かに検討が予定されているシステムは、宅配便の再配達削減に一定の効果が見込まれるだろう。しかし防犯アドバイザーで犯罪予知アナリストの京師美佳さんは、その裏に潜むリスクを指摘する。

「最も懸念すべき点は、共通の解錠手段が外部に流出した場合のリスクです。従来のオートロックは物件ごとに異なる鍵管理を前提としていましたが、共通化により一度情報が漏れれば、複数のマンションが同時に危険にさらされる可能性があります。

また、配達員になりすました不審者が侵入しやすくなる懸念もあります」(京師美佳さん、以下同)

セキュリティの基本は「入口をいかに限定できるか」にある。しかし、共通コードの仕組みはその性質上、利用者の範囲を広げやすい。数分しか使えないワンタイムパスワード方式であればまだ抑止力になり得るが、管理体制が不十分だと犯罪者に悪用されかねないという。

「利便性と防犯性の両立は重要ですが、安易な共通化はオートロックの存在意義そのものを失わせるリスクをはらんでいます」

新しいシステムで懸念される犯罪被害

実際に、オートロックが犯罪の突破口として利用された事例も報告されている。

「オートロックは本来、防犯の要ですが、過去にはそれを悪用した侵入やトラブルも発生しています。たとえば、宅配業者を装ってエントランスを通過し、住民の信頼を得た上で侵入し、強盗や性犯罪に至ったケースがあります」

さらに近年では、暗証番号やICカードの管理がずさんな物件で、退去者や外部の者が不正利用する事例も確認されているという。

「共通解錠コードやバーコード認証が外部に漏れれば、犯罪者が正規の手続きを経ずに建物に立ち入る可能性が出てきます。オートロックは『心理的な抑止力』に依存している部分が大きいため、一度突破口が広まれば多数の住民が被害を受けかねません。こうした事例は、管理体制と併せてセキュリティ設計を見直す必要性を示しています」

利便性を優先するあまり、防犯性が軽視されれば「安全な住環境」というオートロックマンションの根本的価値が揺らぎかねない。

とはいえ、再配達削減は物流業界が抱える深刻な課題だ。国は宅配便の再配達率を6%以下に抑えることを目標に掲げているが、2024年時点で国内大手の平均は8.4%。年間で換算すると約5億個もの荷物が再配達されている計算になる。

では、再配達削減と防犯性を両立させる解決策は何か。

京師さんは「宅配ボックスの普及」を現実的な選択肢として挙げる。

「宅配ボックスの普及は、防犯と物流の両面で大きなメリットがあります。普及が進めば、荷物を玄関前に置く『置き配』に比べて盗難リスクが格段に下がり、住民の安心感も高まります。特に補助金支援などの後押しがあれば、管理組合や賃貸オーナーも導入しやすく、結果的に再配達削減やCO₂排出抑制といった社会的効果にもつながります」

再配達の削減に有効な手段は…

さらにボックスに鍵や暗証番号を組み込み、IoT技術を活用すれば、セキュリティは一段と強化される。

「ボックスに鍵や暗証番号管理を組み込むことで、配達員以外の第三者が触れられない仕組みが担保されます。利便性の面でも、住民は不在時に荷物を確実に受け取れるため、再配達に伴うストレスが軽減されます。

今後は『スマホ通知』や『履歴管理』と組み合わせることで、より高い安全性と利便性を実現できるでしょう。宅配ボックスは、防犯性・効率性・環境配慮の三拍子をそろえた現実的解決策です」

宅配の仕組みは、生活の変化に合わせて、これからも形を変えていかざるを得ないだろう。さまざまな課題を前に、便利さを求めるだけではなく、防犯や安心とのバランスをどう取るかが問われている。

取材・文/集英社オンライン編集部

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