〈自民総裁選〉高市失速の裏で「影の本命」が登場…ラスボスも陣営入り! 背景に「麻生VS古賀・武田連合」代理戦争
〈自民総裁選〉高市失速の裏で「影の本命」が登場…ラスボスも陣営入り! 背景に「麻生VS古賀・武田連合」代理戦争

自民党総裁選が告示された。届け出順で、小林鷹之元経済安全保障相(50)、茂木敏充前幹事長(69)、林芳正官房長官(67)、高市早苗前経済安保相(67)、小泉進次郎農相(44)の計5氏が立候補し、日々論戦を交わしている。

石破茂首相が退陣表明した直後から、新聞、テレビにはポスト石破は小泉、高市両氏が軸という見出しが躍った。女性初か?戦後最年少か?ところが、第三の候補が割って入ろうとしている。水面下で何が起こっているのか?長年政治を取材してきたジャーナリストの長嶋重治氏が追跡した。 

永田町では「影の本命だ」との声も 

「実があれば、今月こよい一夜明ければみんな来る」

林氏は22日、告示直後の演説会で、長州藩士の高杉晋作が「挙兵」したときに歌ったとされる歌を読み上げた。参院当選5回、衆院2回のベテランだ。淡々とした表情で読み上げながらも、総裁選3回目の挑戦とあって、覚悟がにじむ。

防衛大臣、農林水産大臣、文部科学大臣、外務大臣、官房長官。失言や政治とカネの問題で閣僚が辞任すると、緊急リリーフに指名されてきた。「1月19日生まれ」であることから「政界119番」と呼ばれようになった。

今回の総裁選も石破首相の総裁任期途中での辞任に伴う「臨時総裁選」だ。そのため本来は3年あるはずの総裁任期は石破氏の残りの任期である2027年9月までしかない。総理の座も緊急リリーフで登板するのか。ここにきて林氏が「影の本命だ」とする声が永田町に流れる。

林氏が今回の総裁選で「台風の目」とされる理由は三つある。

一つは、自民の大重鎮、古賀誠元幹事長(85)の存在だ。古賀氏と言えば、2012年に議員を引退してすでに13年が過ぎる。現役時代は野中広務幹事長とともに「加藤の乱」を鎮圧するなど、自民党きっての「武闘派」として知られる。お公家集団といわれた宏池会で異色を放った政治家だ。

そんな「武闘派」はいまでも国会近くの「砂防会館」に個人事務所を置く。砂防会館といえば、あの田中角栄元首相の後援会「越山会」や大勲位・中曽根康弘元首相の個人事務所があった政治史の主舞台だった建物だ。

そこに構えた個人事務所にはいまだに財務や国土交通の幹部官僚、また旧岸田派の中堅・若手や大手メディアの政治記者OBがひっきりなしに出入りする。その影響力はいまだ衰え知らずだ。

 「古賀さんは本気だ」林氏を宰相に押し上げるという執念

 そんな古賀氏は「宏池会政権をもう一度つくりたい」と周囲に語り、林芳正首相誕生に奔走している。最近は議員会館を歩き回る姿が目撃されるなど、「古賀さんは本気だ。林さんを宰相に押し上げるんだっていう執念を感じる」(旧岸田派中堅)と打ち明ける。

古賀氏が林氏にこだわるのは、同じ地元の福岡で長年にわたって覇権を争った宿敵・麻生太郎元首相への対抗だ。

二人の因縁は根深い。古賀氏が宏池会会長を岸田文雄氏に譲って、宏池会を古賀派から岸田派に代替わりさせて、政界を引退したのが2012年だ。古賀氏はまだまだ血気盛んだったが、「自分が生きている間に、宏池会政権を実現させたい」と語っていた。

宮沢喜一氏以来、およそ四半世紀ぶりに宏池会政権を作るために岸田氏に禅譲した。自らは議員を引退し、宏池会の「名誉会長」に落ち着いた。

ところが、岸田氏は安倍政権下で2度あった総裁選(2015年、2018年)には出馬せず、安倍政権を支え続けた。それどころか、古賀氏の政敵の麻生氏に接近。麻生氏から「俺の支持を得たければ古賀を切ってこい」と言われ、それを実行したとも。

岸田氏は2020年の総裁選で菅義偉氏に惨敗すると、麻生氏の言葉を実行に移す。古賀氏に向かって「私は独り立ちしたい。名誉会長を辞めていただきたい」と直談判。そして名誉会長の古賀氏を宏池会の名簿から外した。

それ以来、古賀氏は宏池会のパーティーを欠席するようになった。

「自分を頼ってくる林氏の方がかわいいに決まっている」 

古賀氏は周囲に「岸田さんのためだ」と言っていたが、実際に岸田政権が誕生しても「あれは宏池会政権と言えるのか」とこぼしていたという。九州地方選出の宏池会の議員は「内心で裏切られたことではらわたが煮えくり返っていたに違いない」と推し量る。

そのころ、頻繁に古賀氏の事務所を訪ねていたのが林氏だ。古賀氏にしてみれば、自分を見限って他でもない宿敵の麻生氏を選んだ岸田氏よりも、自分をいつも頼ってくる林氏の方がかわいいに決まっている。

総裁選の告示前には古賀氏は菅氏を訪問し、「小泉進次郎さんは総裁選は1回休みでいいのではないか」と持ちかけた。小泉氏に影響力のある菅氏をけしかけ、林氏への一本化を画策したのだ。

ベテランの政治評論家たちが当初「進次郎氏不出馬説」を流した情報源をたどると、この古賀―菅会談に行き着く。

 「麻生VS古賀・武田連合」 

小泉氏が不出馬で、反高市票を集めて林氏が勝ち上がるシナリオは、小泉氏の出馬への決意が固く実現はしなかった。ただ、古賀氏同様に麻生氏の天敵といえる武田良太氏が林氏と日本維新の会の会合を設定するなど、林支持で動いている理由も「反麻生」だ。

「麻生VS古賀・武田連合」

 林氏が浮上している背景には、二人の新旧武闘派の存在がある。今回の総裁選には政争激しい福岡の代理戦争の側面があるのだ。古賀氏と武田氏が「反麻生」で手を結び、林氏を押し上げようとしている。

林氏が「台風の目」とされる二つ目の理由が前回の総裁選より地方票を増やせる見込みがあることだ。

同じ宏池会から総裁選に挑んだ上川陽子氏が今回は出馬を断念した。上川氏自身はまだ、どの候補を推すのか態度表明をしていないが、前回総裁選で上川氏を支持した宏池会メンバーは林氏に流れている。

例えば、山梨2区の堀内詔子(のりこ)元五輪担当大臣。前回は上川氏を支持していたが、今回は林陣営に入った。堀内氏といえば、富士急のオーナーとも言える堀内家に嫁入りし、政界に入ることになった。

富士急の全面支援を受けているため、毎年のように党員の新規獲得数では党内ベスト3位内に入る。多くの党員票を動かせる数少ない議員の一人だ。

軽量級の小泉氏に対して「閣僚経験」の豊富さ 

また、前回総裁選で20万票以上にのぼった石破票にも照準を合わせる。総裁選における党員の投票率は6割程度。前回の党員数は106万人だったことを考えると、20万票は3分の1をしめる大票田だ。

林氏は石破氏の側近だった中谷元防衛大臣を推薦人に入れ、石破政権を官房長官として支えた実績をアピール。今回は行き場を失った「20万票」に照準を合わせる。陣営幹部は「小泉氏と分け合っても半分取れれば、2位以内の決選投票への通過がみえてくる」と鼻息が荒い。

三つ目が「豊富な閣僚経験」だ。外交安全保障から農業、水産、文部科学まで、豊富な大臣経験は他に類をみない。あらゆる政策を原稿がなくてもよどみなく話す。

小泉氏が環境と農水という「軽量級」の経験しかないことに比べ、外務防衛に加えて官房長官まで経験していることは大きい。討論会になれば、双方向で議論し、「小泉氏との経験値の違いが可視化されてくる」(林陣営)と期待を寄せる。

では、そんな林氏の弱みはどこか。一つは経験豊富なため、とがった政策など発言ができないことだ。 

 あの「ラスボス」も陣営に入り 

陣営には自民党税調の「ラスボス」として君臨している宮沢洋一党税制調査会長が入っている。林氏の18日の出馬会見でも最後列で腕を組んでにらみを利かせていた。

野党による「年収の壁」やガソリン税の暫定税率廃止などいずれも「代替財源がなければ認めない」とことごとくブロックしてきた。そんな「ラスボス」が陣営にいるために、思い切った減税などの物価高対策は打ち出せない。

林氏は東大から三井物産、ハーバード大ケネディスクールとエリート街頭を歩んできた。

父(義郎)は元大蔵大臣、祖父も衆院議員という世襲3代目だ。英語にも堪能、音楽もたしなむため、外務大臣時代は欧米の外相とも英語でコミュニケーションし、ピアノ生演奏でビートルズを披露するなど芸達者な一面もある。

一方で、「生粋のぼっちゃん。政策は完璧だが、いざってときに戦う迫力が足りない」(旧岸田派のベテラン)というのが身近にいる人たちの評価だ。

いまは少数与党に陥り、自民党は倒産寸前の破産会社のような状況だ。こうした大乱世に「政界119番」の出番は来るだろうか。決戦の10月4日に向けて注目が注がれている。

文/長嶋重治

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