昨年、競馬サークルを騒然とさせた「ベリーベリーホース」という“謎コメント”は、なぜ生まれたのか––––。このたび初の著書『やり抜く力』を発売した戸崎圭太が当時の舞台裏を振り返るとともに、「騎手人生で一番の手ごたえ」と語る名馬との出会い、そしてトップに立ちながらも「自信はない」と語る自身の本音を明かした。
「ベリベリ発言」と「騎手人生最高の手ごたえ」
――まずは初の書籍のご出版、おめでとうございます。初めて本を出すというのは、どんなご気分ですか。
オファーをいただいて、すごく驚いたんですけど、とてもいい機会なので喜んで引き受けたいなと思って、やらさせていただきました。
––昨年の競馬界における流行語大賞といってもいい、「ベリーベリーホース」発言(ドバイで国際GIを勝利した直後のインタビューで飛びだした、謎すぎる英語コメント)以降、ご自身の環境がかなり変わったと書籍にも書かれていましたが。
とてつもなく変わりました。それまではSNSとかもまったくやってなかったですし、YouTubeだったり、『ザ・ロイヤルファミリー』で俳優デビューもさせていただいて。
そうやって自分から発信するっていうことはまったくなかったんですけど、まさにあの発言が勢いをつけてくれたな、というのはありますね。
――「ベリベリ発言」は、昨年3月に行われたドバイシーマクラシックを勝利した直後の“事件”でしたが、あらためて戸崎さんからご説明いただいてもよいですか。
あのレースは勝利すると、直後に馬上でインタビューがあるんですが、それをすっかり忘れちゃっていたんですよね。で、全然準備もしてなくて「あ、やばい、インタビューあるんだった」と思って。しかも英語ですからね。
それで、これは知ってる単語をつなげるしかないと思って、「ベリーグッドホース」って言いたかったんですけど、緊張して「グッド」が抜けて「ベリー」を2回言っちゃった結果、「ベリーベリーホース」になってしまったんです(笑)。
――馬上インタビューを受けられるのは、あのときが初めてでしたか?
2回目でした。
後で知ったんですけど、今回も一部の人たちは僕が勝った後、「戸崎圭太のアレが来るぞ」と“期待”されてたみたいで。そんななかであの発言が出ちゃったんで、余計に話題になってしまったんだと思います。
――次にまた戸崎さんが馬上インタビューを受けるときには、皆さん、さらに期待するのでは。
ハードル高すぎますよね。これ、狙ってできるもんじゃないですし、狙ったら絶対につまらないと思うんでね。だから難しいなと思ってます。
――ちなみにこのとき騎乗されていたダノンデサイルは「騎手人生で一番の乗り味」と書かれていましたが、これまで数々の名馬に騎乗されてきた戸崎さんをして、こう言わしめる手ごたえとは、どのようなものなのでしょうか。
乗り味がいい馬というのは他にもいたんですけど、レースに行っていつでも弾けそうな手ごたえを、スタートして1コーナーのところで感じたことは、滅多にないことだったので。最初から手ごたえがいいので、道中も余裕を持って乗ることができましたし、直線の弾け方も気持ちがよかったですね。
――具体的に表現すると、どんな手ごたえなんでしょうか。
柔らかみがありつつ弾んでいて、手綱を放したら、いつでもバキューンと弾けるような感じっていいますか。あんな経験はなかったですね。
「今でも自分に自信はないです。馬乗りもうまくないし」
――日本のトップジョッキーですから、運動神経も抜群だと思っていたら、中学時代、野球部で補欠だったというお話が意外でした。
とにかくバッティングがダメだったんです。3年生のときはキャプテンなのに補欠でした。
――それでも当時の監督さんから言われた「お前が10人いたら強いチームになる」という言葉が印象的でした。
それを言われたときには、「いや、補欠ですけど」みたいな感じだったんですよ。でも、普段から、人がやらないような球拾いや練習後の片付けなども手を抜かず、一生懸命にやっていたんです。「勝負の神様は細部に宿る」じゃないですけど、そういうのは今の騎手人生にも生きてるなっていうのはありますかね。
――ご自身で、野球の才能はあまりないのかな、と感じていらっしゃいましたか。
正直、才能ないなとは思っていましたけど、それでも「いつかはレギュラーになるぞ」とか、「なれるんじゃないかな」と思っていて、それを疑うことはなかったですね。
――書籍のなかでは「自分に自信がない」という記述も何度も出てきますが、トップアスリートの方が書かれる本としては、すごく意外でした。
どんな世界でも、昔から「自信を持て」とかって言われるじゃないですか、でもその「自信」っていうのが僕自身はよく分かってなくて。馬乗りだって、自分では今でもまったくうまいと思ってないんです。ほかにうまい人なんていっぱいいるし。
――ご自身の騎乗フォームが嫌い、とも。
はい。一番はもう、背中が丸まっていて、見た目もかっこ悪いなって思うんですよね。かっこいい人ってピシッと背中を張って乗るんですけど、それができなくて。もうずーっとそれでやってきていて、我流ができちゃってたから、なかなか直しきれない。
なので、もうそこは諦めて、馬へのコンタクト、アプローチを高めていきたいなっていうふうに切り替えました。
――もう一つ驚いたのが、「調教が苦手」ということです。
馬乗りが上手じゃないので、どうしても調教もうまく乗れないんですよ。ただ、調教でうまく乗れない馬も、レースではうまく乗れたりするんですよね。
調教ってペースがやっぱりゆっくりなんですけど、レースだとそのゆっくりなペースっていうのはないので。そのゆっくりなペースで走らせ続けるのが、下手くそなんでしょうね。
馬ってキャンター(三完歩)とギャロップ(四完歩)で完歩が違うんですよね。そこでの乗り方の違いだと思います。リズムが違うので。でも、レースのほうが苦手じゃなくて良かった、とは思います。
自分と同じく「感覚派だな」と思う騎手は
――ご自身を「感覚派」という言葉で表現されていましたが、戸崎さんから見て、「この人は理論派だな」と感じるジョッキーはいますか。
すぐに思い浮かぶのは、現役時代の福永祐一さん(現調教師)ですね。レース前は競馬新聞をしっかり見て、書き込みとかもされていて。
――戸崎さんは、新聞などはあまり見ないのですか。
見ないこともないんですけど、あまり情報を入れすぎちゃうと臨機応変に対応ができなくなって、うまくいかないことが多いんですよね。だったらもう、できるだけフラットな状態でいって、感じるままに乗ったほうがいいっていうのは、自分で見つけたことかなと思いますね。
――それは、乗ってみて、動かしてみて、の感覚を信じるということですか。
そうですね。考えるっていうよりは感じてやる、みたいな。考えちゃうとだめなんですよね。
――逆に、戸崎さんと同じように「この人はすごい感覚派だな」という方はいらっしゃいますか。
岩田さん(岩田康誠騎手)ですかね。
――どのあたりでそう感じますか。
レース後に二人で話しているときとか、傍から聞いている人はまったく内容がわからないみたいなんですよ(笑)。「ドキュン」とか「バキュン」とか、感覚的な擬音が多いみたいで。
――それで通じ合うんですね。
それでしか通じ合えないです(笑)。逆に難しいこと言われてもわからないですからね。
(後編に続く)
取材/集英社オンライン編集部 撮影/村上庄吾
やり抜く力: 天才じゃなくてもトップになれた「ベリベリ」シンプルな理由
戸﨑圭太

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