「ベビーカーのためでもダメ?」区長に反論した町中華が大炎上…無言電話10件超、店主“悪者扱い”の裏で何が起きたのか(秋葉原)
「ベビーカーのためでもダメ?」区長に反論した町中華が大炎上…無言電話10件超、店主“悪者扱い”の裏で何が起きたのか(秋葉原)

東京都千代田区の樋口高顕区長と町中華の店主によるXのやり取りが注目を浴びている。発端は4月23日に秋葉原電気街のど真ん中にある中華料理店の2代目店主が投稿した内容だ。

 

同店主は、樋口区長が20日に投稿した「路上看板への警告や指導を行なった」という内容を引用する形で〈区役所よりスロープを撤去するように言われた。ベビーカーや車椅子のお客様の為と言ってても通じない〉と苦言を投稿したところ、店主はX上で凄まじい誹謗中傷を受け、店には迷惑電話も殺到する事態にまで発展した。区民と区長のX上の直接の対話は何を生み出したのか−―。

「段差解消スロープ」をめぐりSNSで行なわれた区長と店主のやり取りとは

日本最大級の電気街やサブカルチャーの聖地として世界中から観光客が集まる街・秋葉原。

中央通りをはじめ路上に置かれた看板、のぼり旗、商品陳列などが“ゴチャッとした秋葉原の魅力”である一方、通行の妨げなどで恒常的に問題になっていた。2021年に就任した樋口高顕千代田区長は秋葉原エリアの文化発信や再開発などにも意欲的で、その中でも秋葉原エリアの安全確保の一環で、路上障害物への警告・指導に力を入れてきた。

4月17日、千代田区は万世橋警察署、東京都第一建設事務所と合同で、都道である秋葉原中央通りの路上障害物への警告と指導を行なった。樋口区長はそれを引用する形で4月20日にX上に次のようにポスト。

〈今後もお困りのことなど安全生活課までお寄せください〉(4月20日の樋口区長のXのポスト)

これに対し、引用する形で電気街の中華料理店の2代目店主が次のように投稿した。

「昨日千代田区役所の人が来ました。スロープを撤去するようにと。ベビーカーや車椅子のお客様の為と言っても通じません。うちの店だけに限らず他の店舗やビルの方たちも大変だと思います。

一番大変なのは、台車で荷物を運ぶ人だと思います」

すると樋口区長は4月23日、この店主のポストを引用する形でこう投稿した。

〈所管と確認しましたのでご報告いたします。先日、近隣の方から「雨のとき雨水枡まで水が流れない」「水たまりがあって困る」とご相談いただきました。区職員が現地確認し、原因がスロープ・鉄板設置によるものと分かり、昨日、法令に基づき撤去を要請しました。お店の方からは「ベビーカーや車椅子の方、台車で運ぶ方が大変」とのご意見がありましたが、コンクリート段差解消・切り下げの手続きしていただくようにお伝えしています。水たまりのこともあり、近隣のご迷惑にもなりますので、ご理解をいただければ幸いです〉

「水たまりで近隣に迷惑をかけていることを聞いていたら投稿なんてしませんでした」

この“対話”は900万以上のインプレッションで注目を集め、4月24日にはXのニュースにも取り上げられた。この中華料理店はビルの地下1階にあるのだが、コメント内容のほとんどが「地下1階に車椅子もベビーカー客も店には入らないだろ」「公道に私物を置いてる時点でアウトだろ」「クレーマー相手に大変だと思うが区長がんばれ」などと店主を非難するものだった。

店主は「23日からランチ中とかにも無言電話が何件もかかってきて、営業妨害されて困っています」と言う。千代田区役所からどのような要請があったのか。店主はこう説明する。

「4月22日13時頃のランチタイム真っ最中の時間帯に、3人の千代田区の土木課かなんかを名乗る人が名刺も見せずにやってきました。

水たまりで近隣が迷惑して困っているなんて理由は言わず、ただ『スロープを撤去して下さい』と言うから『台車で荷物を運ぶ人などが困ると思います』と言っても聞いてくれなくて。私も仕事で忙しいから、その場は『わかりました』と言うほかありませんでした」

そもそも、スロープを設置したのはこの中華料理店ではない。

このビルは昭和41年に建てられた地下1階、地上6階のビルで、所有者は上階に事務所を構える別の業者である。

「秋葉原のビルなんてどこもスロープだらけなんですから、ウチだけ名指しで忙しい時間帯に急に来られて言われたことを思い返すとモヤモヤしました。

たまたま区長の路上障害物への警告や指導の投稿を見て、それと同様の扱いでいきなり撤去要請されても困るという思いで投稿してしまいました。でも水たまりで近隣に迷惑をかけていることを聞いていたら投稿なんてしませんでした」(中華料理店・店主)

「水たまりなんて見たことないですよ」

投稿の後、店はこんな対応に追われたという。

「樋口区長が23日に『近隣から水たまりの相談がきた』と投稿したことで、私は初めてそうした苦情を知ったわけです。でもその後『苦情が入っていたとはこの投稿で初めて知りました』と言い訳したところで後の祭りです。

X上は大炎上して区長がヒーローで私は悪者みたいになりました。23日のランチタイムは無言電話が10件以上かかってくるし。実は以前からテレビの収録が決まってたんですけど、それもお断りしましたよ。今出たらもっと燃え広がるからごめんなさいって」(同前)

この中華料理店は秋葉原に1990年代にオープンして以降、町中華の定番メニューだけでなくランチビュッフェを行なったり常に新メニューが登場したりと行列ができるほどの人気店だ。テレビにも頻繁に取り上げられ、ファンも多い。同じビルに入る別の会社の社長は言う。

「スロープはあったほうが便利だからということで20年前くらいに所有者さんが設置してくれたはずですよ。

このビルに入るほとんどの業者が使いますし、うちも使いますから撤去されたら困りますよ。昭和に建てられたビルは道路の側溝から20㎝以上の段差があるビルが多いでしょ。スロープは必須ですよ。

スロープを切って短くすればいいって話かもしれないけど、それにだって費用かかるでしょ。それに水たまりなんて見たことないですよ」

店の両隣にある飲食店やホテルもこう証言する。

「水たまり? そんなの見たことありません。いつも水はサーっと流れていきますよ」(隣の飲食店)

「水たまりで困ったことはありません。当ホテルはインバウンドの方がほとんどなので、秋葉原の街の印象を良くしたいこともありスタッフが朝に周辺を掃除したりもするんですが、この中華料理屋さんの周辺はいつも綺麗ですよ」(ホテルスタッフ)

「事実の誤解を生じかねない状況であったため、正確な情報を適切に発信していくことが必要」

中華料理店の店主にスロープ撤去の要請を行なった千代田区環境まちづくり総務課の担当者に取材後、改めて問い合わせたが以下の回答だった。

「区といたしましては、建物の入口と道路をつなぐスロープと鉄板の設置が原因で、その建物の近隣の方から『雨水桝まで水が流れず水たまりが出来て困る』というご相談をいただきました。職員が4月13日に現地を確認したところ、スロープと鉄板の下にごみが溜まっていることなどが原因であることが分かりました。

このため、区の職員は 道路法第43条(道路に関する禁止行為)に則り、スロープと鉄板の撤去を要請しましたが、この建物の方からは、ベビーカーや車椅子の方、台車で荷物を運ぶ方が大変だと思うとの意見がありました。そこで、区としては道路法第24条(道路管理者以外が行なう工事)に基づき段差解消(切り下げ)の手続きをするようお伝えしています」

店主がXに投稿し、それに樋口区長が返信したことで店主がX上で大炎上し、集中攻撃を受けている状況について、区は次のように見解を示した。

「事実の誤解を生じかねない状況であったため、正確な情報を適切に発信していくことが必要と考えております」

同じ秋葉原に事務所を構える秋葉原法律事務所の小早川真行弁護士に聞いた。

「道路法43条2号で『みだりに道路に土石、竹木等の物件を堆積し、その他道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞(おそれ)のある行為をすること』が禁止されています。短いスロープは一般的には『道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞』があるか微妙ですが、今回は水たまりができて現実に支障が生じているという判断でしょう」

このように説明したうえで、同弁護士は次のように見解を示した。

「千代田区が『今回撤去を求めるのは、主に道路上への置き看板、登り旗、商品陳列等であり、本件スロープについては、水たまりが生じない状況にできれば撤去までは求めない』」と譲歩すれば穏便ではありました。また、スロープは道路法32条1項4号に該当すると認定できれば、使用希望者は道路使用許可を申請する形にして、適法であることを明確化できます」

4月25日現在、この中華料理店の入るビルのスロープは撤去されている。しかし、こうしたスロープは秋葉原に限らずあらゆる街で目にする。法律の解釈の問題なのか、モラルの問題なのか。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

編集部おすすめ