「侍ジャパンに足りなかったのは技術ではなく」松田宣浩コーチが明かす、WBC敗戦で見えた“世界との差”
「侍ジャパンに足りなかったのは技術ではなく」松田宣浩コーチが明かす、WBC敗戦で見えた“世界との差”

侍ジャパンはなぜ世界一を逃したのか――。野手総合コーチを務めた松田宣浩が敗因として真っ先に挙げたのは、技術でも経験でもなかった。

WBC準々決勝でベネズエラに敗れた一戦を振り返りながら、世界を知る男が日本野球の“決定的な差”と、未来への処方箋を語った。

WBCで侍ジャパンに足りなかったもの

ローンデポ・パークの三塁側ベンチから戦況を見守っていた松田宣浩は、日本をじわりじわりと圧すベネズエラに確かな力の差を感じざるを得なかったという。

日の丸を背負い、日本野球の威信を懸けてWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)を戦った選手時代を、松田が回想する。

ともに準決勝で敗れた、2013年のプエルトリコと17年のアメリカには技術の差を痛感した。ゴロの量産を目的としたツーシームなど、バッターの手元で鋭く曲がる変化球を的確に仕留められず、「今の日本人選手に足りないのはそこだ」と思い知らされた。

時を経て日本にもベース上で巧みにボールを動かすピッチャーが増え、平均球速も着実に上がっている。そのことで、代表クラスではないバッターの技術も日進月歩で高まっていると、松田は日本野球の成長に自信を持つ。

今年のWBC準々決勝でのベネズエラに対しても、技術では負けていないと思えた。日本が相手に及ばなかったもの。それは「単純にフィジカルだった」と松田は言った。

日本投手陣から3本のホームランを放った攻撃陣。クローザーのダニエル・パレンシアをはじめ、ゲーム中盤以降に登板したピッチャーは160キロ近いストレートを誇るパワーピッチャー揃いだった。実際、敗因に対しての世間の論調においても「力負け」といった声が多かった。

松田は、ベネズエラの力を生み出すフィジカルにこそ大きな差があったと分析する。

「変化球の対応とか160キロのボールを当てられることとか、守備、走塁のそうですけど、僕らが現役だった頃よりも技術は上がっています。でも、打つことに関して言えば、打球速度とか飛距離とか、ボールを力強く弾き返す力が日本には足りなかったと思います」

メジャーリーグのデータ解析システム「スタットキャスト」で、平均打球速度だけを調べてみてもわかる。

ベネズエラとの準々決勝だけなら、1位の大谷翔平(108.7マイル=174キロ)、2位の森下翔太(105.7マイル=169キロ)、4位の佐藤輝明(104.8マイル=168キロ)と、上位5人のうち3人が日本人選手と相手より分があるように映る。

だが、WBC全試合の平均となると別だ。

出場機会に差があるとはいえ、日本人のトップは全体6位の大谷で102.1マイル(163キロ)。2番目の15位だった森下翔太は97.2マイル(156キロ)、3番目が25位の周東佑京で95.2マイル(152キロ)だった。

長距離砲と呼ばれる村上宗隆が30位の94.8マイル(152キロ)、佐藤が75位の90.4マイル(145キロ)、岡本和真が120位の87.9マイル(141キロ)、鈴木誠也が126位で87.4マイル(140キロ)となっている。

出場チームの平均に目を向けても、トップはアメリカの91.9マイル(147キロ)。ベネズエラは4位の88.8マイル(142.08キロ)で、日本も肉薄しているとはいえ6位の88.7マイル(141.92キロ)だった。

「アマチュアから体を大きくするための努力はするべき」

現代野球はセイバーメトリクスでもわかるように、これら数多の指標がパフォーマンスに直結すると言われているだけに、「数字だけで物事は判断できない」と軽視できない。松田はこれらを鑑みたうえで「フィジカルが足りなかった」と繰り返すのである。

「強さもそうなんですけど、向こうの選手は動きそのものがスピーディというか、アスリート系の選手が増えましたよね。

前ならバリバリの長距離砲だけど脚が遅いとか、どこかしら欠点があったというか。

でも、今回はベネズエラなら(ロナルド)アクーニャ選手とか、強い打球を遠くまで飛ばせるし脚も速い。全体の動きがしなやかでした。だから日本人バッターも、パレンシア選手みたいなピッチャーのボールもカンカン打てるようにならないと、これから世界との差がどんどん広がってしまうんじゃないかと思います」

松田はフィジカルの再構築について未来を見据える。「アマチュアから体を大きくするための努力はするべき」と言うのだ。

アマチュアであれば、まずは可能な範囲で食事から見直す。骨格や筋肉の質、栄養素の吸収率や疲労回復など、自分の肉体やパフォーマンスにどのような影響をもたらすのか? 

そこから食事のメニューや1日あたりの回数を洗い直し実践する。そこからウエートトレーニングなどに取り組み、強靭な体を作り上げていく。

「フィジカルを強くすると言っても、すぐにそうなるわけじゃないんで。『ウエートをガンガンやれば体はデカくなる』とか近道をせずにね。『こういう取り組みをしたら怪我をしにくくなる』とか、ちゃんとした目的意識を持って体を作っていくことが大事になってくるんじゃないかなって思いますね」

自分の体形や体質がうり二つの他人など存在しない。そのため、「大谷がたんぱく質を多く摂り、1日5~6回に分けて食事をする」からといって、同じように実践したところで大谷にはなれない。

それでも松田は、先人の行動と叡智は率先して学ぶべきだと促す。

「大谷選手が東京ドームの天井に当てるとかすごい打球を飛ばしたり、実績を残したりしているからこそ、他の選手も『どういうことをしているんだろう?』と興味を持つし、高いモチベーションを持って日々を取り組めると思うんですね。鈴木誠也選手や吉田正尚選手の活躍もそうですし、彼らを見ているからこそ、たくさんの日本人選手の目がメジャーへ向いていくわけじゃないですか」

「代表チームはほとんどMLB所属が理想」

世界を知る松田の目は、いつしか日本代表のあるべき姿へと発展していく。だからね――そう繋いでから、想いを吐く。

「日本人もサッカーと同じようにどんどん世界を目指してね。代表チームのほとんどがメジャーに所属しているっていうふうにしていかないとダメだと思います」

有能な日本人選手がアメリカへ渡ることで、一部で「日本野球の空洞化」が指摘されるが、松田の意見はどちらかといえば真逆だ。

メジャーリーグという道は、日本野球の可能性でもある。ひとり、またひとりとレベルの高い環境に身を置くことで、国内の選手も「次は自分が」とさらなる研鑽を積むようになる。

仮に中学や高校、大学から海を渡ったとしても母国の誇りが消えるわけではないし、同じ志を持つ国内で腕を磨く選手も、底上げの担い手になるはずだ。

それはつまり、強固なナショナルチームの運営にも結び付いていく。

ベネズエラの初優勝で幕を閉じた今回のWBCは、日本において「世界が本気になった大会」と位置付けられている。

故障歴や前のシーズンで負傷者リストに入っていないなど、怪我のリスクが「低い」と評価されれば、以前よりも保険の対象内となるケースが増えたこともある。

そういった背景も後押しとなり、各国の選手にとってもWBCは「出なくていい」から「出たい」と意欲的に出場できる大会になった。

それはライバルである松田にとっても、喜ぶべき風潮なのだと言葉を弾ませる。

「日本だけじゃなくてね、母国の誇りっていうのはみんな持ってますから。どの国で野球をしていようとも、WBCに出られる以上は国を背負って戦いたいって思うのは当然で。大会の回数が重なるにつれ、アメリカでも認知されるようになったし、それが『本気にさせた』っていう要因だと思いますけどね」

前回大会でアメリカとの決勝戦を前に、大谷が「憧れるのをやめましょう」とチームの士気を高め、世界一へのブーストとなった。

この精神は今こそ試させるべきなのだ。

フィジカルをはじめとする力で圧倒され、日本はベネズエラに敗れた。やっぱりメジャーリーガーは違う。

そうではない。

これまで松田が述べたように、根本から自分を見つめ直して世界と対等に渡り合える準備に励む。それがやがて、メジャーリーガーが多く名を連ねるような日本代表という未来へと繋がるのである。

本物のつわものたちで覇権を争う––––松田はそんなWBCを待ち望んでいる。

文/田口元義

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