注射が好きな子供など、世間広しといえど、まずいないだろう(大人でも注射が苦手な人は多いはず。まあ、“注射大好き”な大人がいたとしても……なんていうか……その……)。
筆者の3歳になる娘も、注射が大の苦手。見ただけで泣いてしまう始末。

親としても、こんなに泣くのなら注射など打たずに済ませてあげたいところではある。だが、予防接種は大切な注射。病気になって苦しむよりも、注射による一瞬の痛みの方がはるかにマシだから……。と思って、泣く娘を半ば強引に押さえつけて注射を打ってもらう。


注射が終わってしまえばもう痛くないはずなのだが、それでもわんわんと泣き続ける娘。なんとかキゲンを直してほしいと、「お父さんがジュースを買ってきてあげる」と話しかける。「なんのジュースがいい?」と尋ねると、娘は泣きながらも「……みかんジュース」。

自動販売機でオレンジジュースを買って、娘に与える。「はい、みかんジュース」「ありがと」「注射、頑張ったもんね。さ、飲みなさい」「フタ、あけて」「よっと。
はい、どうぞ」「ありがと」。ゴクゴク飲む娘。すると。

わ~ん。再び、娘が泣き始めた。「え? どうしたの?」と慌てて聞いてみたところ。
「みかんが入ってない~」と娘。「へ?」「みかんジュースなのに~、みかんが入ってない~」ですって。まったく、理不尽だぜ……。とイラッとしてしまった筆者、「みかんが入っているジュースなんか無い!」と娘をキツめに注意した。

その後、筆者の胸に去来するモヤモヤ感。これは、一体……。
娘をキツめに注意してしまった罪悪感……? そんなバカな……。これでも一応、“キチンと叱れる親”を標榜してきたつもりですぜ……。娘を一喝しただけで、モヤモヤしてしまうのか……?

いや、違った。モヤモヤしたのは、娘を叱ったからではなかった。自ら発した、「みかんが入っているジュースなんか無い!」のセリフに疑念が生じたことが理由だったのだ。みかんが入っているジュース…? ホントに無いっけ……?

みかんが入っているジュース。
みかんの果肉が入っているジュース。いわゆる“つぶつぶジュース”が、筆者は大好きだったことを思い出した。あの、つぶつぶ果肉の、独特の食感。ジュースを“飲む”だけではなく、つぶつぶ果肉を“食べる”行為も楽しめる、ちょっとしたお得感。筆者は大好きで、子供の頃に好んで飲んでいた。

もしかしたら娘は、この“つぶつぶジュース”が飲みたかったのかもしれない。
そう思った筆者、コンビニへ走った。ところが……。“つぶつぶジュース”は置いていない。別のコンビニへ行ってみるも、やはり見当たらない。さらにもう一軒行ってみるが、こちらにも無かった。道すがらの自動販売機にも売っていない。

コンビニを六軒、スーパーを二軒回った後に、個人経営の酒屋でようやく“つぶつぶジュース”を見つけることができた。なんだか嬉しくなって、早速飲んでみる。ジュースの中に混じる、ジューシーな“つぶつぶ”。おいしい。娘に飲ませると、殊のほか喜んでくれた。

大人になり、ジュースを飲む機会が減って気が付かなかったが、“つぶつぶジュース”の数はずいぶん減ったようである。その理由を、「バヤリース」を販売するアサヒ飲料に尋ねてみた。そういえば筆者が子供の頃、「バヤリースオレンジ」のつぶつぶをよく飲んだっけ……。

「“つぶつぶジュース”など、普通のジュースにひと手間かけた商品は、期間限定商品の扱いになります。これは、普通のジュースと比べて売れ行きが安定しないためなんです」と、アサヒの担当者。なるほど。たしかに、“つぶつぶジュース”好きな筆者といえど、比較すると普通のジュースを飲む機会の方が圧倒的に多い。ジュースを飲む際に、毎回“つぶつぶ”を選ぶとも思えない。これを市場で見た場合、“つぶつぶジュース”の需要が普通のジュースより低いのは明確だ。また、果肉を追加する分、コスト的にも負担は大きいかもしれない。ジュースに“食品”を加えることでのリスクなどもあるだろう。

あまり見かけなくなった“つぶつぶジュース”も、まったく出回らなくなったわけではない。「お客さまの声が高まれば、また復活することも十分に考えられます」とは、前出のアサヒ担当者の弁。“つぶつぶジュース”好きの筆者としても、各社の“つぶつぶジュース”が復活して、もう少し供給が安定してくれたらと願わずにはいられない。
(木村吉貴/ 編集プロダクション studio woofoo