ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんの対談記事。映画『貞子vs伽椰子』について語り合います。


Jホラーか、バカ映画か!?


次は「ハルヒvs貞子」が観たい!映画「貞子vs伽椰子」
(C)2016「貞子vs伽椰子」製作委員会

藤田 さて、今回は白石晃士監督の『貞子vs伽椰子』。『リング』の貞子と、『呪怨』の伽椰子が戦う、VSもの。『バットマンvsスーパーマン』とかにあてられてトチ狂ったか!? と思ったけど、結構よくできていて驚いた。

飯田 貞子に呪われちゃった女子大生ふたりが、霊媒師(?)のアイデアで伽耶子と貞子をぶつけようとすると。お話はシンプル。公開前は「どっちが勝つんだ?」という関心が高かったらしいですね。僕はてっきりバカ映画だと思って観に行ったら普通にホラーしていて、肩すかしくらった気分でした。


藤田 白石晃士監督は、『コワすぎ!』などの低予算ホラーを、半分お笑いのようなぶっ飛んだ擬似ドキュメンタリーみたいな手法で撮っちゃう人でしたが、今回は珍しく予算が多い映画で、しかも比較的怖い映画でしたね。

飯田 僕、Jホラーってたいがいピンとこないんですよ。好きな方や関係者には申し訳ないんですけど、肌が合わなくてですね。
ただ例外的に白石晃士監督のフェイクドキュメンタリーは妙な生っぽさがあって好きだったんだけど……今回は擬似ドキュメンタリーじゃないという、ね。

藤田 そうなんですよね、白石監督を知っている人からすると、バカ度が足りなくて、結構怖いらしい。
 ぼくが観に行った回は、公開初日ですが、満席に近く、隣には生足で裸足になって騒ぐ女の子二人連れがいて。
めっちゃ怖がってキャーキャー言ってて、面白かった。悲鳴もあがるし、爆笑も起きるし、「呪いのビデオを見ると電話が掛かってくる」という設定なので、観客席でケータイが鳴ってびびったりと、全体的に盛り上がっていましたよ。
 ちなみに、高校生カップルは、女性の方が「これは○○クンが見たいって言ったやつだからね!」「こんど世界が猫になるやつ行くから!」って怒ってましたw

飯田 Jホラーってビビらせかたが相当「音」に頼っていて、実際画面で起こること以上におおげさな煽りをするでしょう。ほんで、だいたい「どうせ死角からびっくりさせるんだろう」とか思っていたらそうなる。「またこのパターンか」って(もちろん、偉大なるマンネリこそ良い、という考えもわかりますけど)。
 今回は貞子の「高音」と伽耶子の「中低音」が使い分けられていたのがポイントではありますが、そこの工夫は別に白石監督じゃなくても……と思ってしまった。

 ただ主人公の女子大生役の山本美月はかわいかった。シャワーシーンもよかった。
 あとその友達役が『ヒメノア~ル』にも出演していた佐津川愛美で、「呪いのビデオ」を観ちゃって「貞子に殺されるかも……」ってビビるんだけど、このひとは殺人鬼に狙われたり貞子に狙われたり大変だなあと思いました。嗜虐心をくすぐる顔や態度をしているんでしょうか。

藤田 音は、白石監督もインタビューで言及していますね。予算が増えたので変わったのはそこだと。
キャラクターもビジュアル的に似ているから、音で差異を出そうと工夫されたようですね。
 Jホラーの観点で言うと、今回、90年代にブームになったような怖がらせ方っぽくなかった印象なんですよね。確か『リング』の脚本家の高橋洋さんが講演で仰っていたと記憶しているのですけれど、Jホラーは「平面」が怖い。『呪怨』だと、エレベーターで違う階にいっているはずなのに、毎階エレベーターの窓から同じ人が見えるとか、そういうところが怖かった覚えがあります。今回はそういう感じではなかった。
 今回は割とキャラクター化して、物理的なクリーチャーになっている。
だから、怖がらせ方の文法はちょっと違うなっていう感じがしました。

女優たちのがんばった演技!


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(C)2016「貞子vs伽椰子」製作委員会

藤田 改めて内容をかいつまんで紹介すると、『リング』の呪いのビデオに呪われたので、『呪怨』の呪いの家とぶつけて、対消滅させようって話ですね。
 女子大生と、女子高生がそれぞれ呪われる。女子高生役の玉城ティナもかわいい。しかし、佐津川愛美がいいですねぇ。絶妙にメンタルが弱くて人のせいにしたり巻き込むあの弱さ。主要人物の中で輝くべきゲスさです。
彼女がいてよかった!

飯田 どうでもいいんだけど、主人公の友達が「VHSをDVDにダビングして焼くことのできない機械オンチ」っていう設定のはずなのに、「DVDからリッピングしてネットにアップするのは簡単にできる」のおかしくない?

藤田 それは監督自身も言ってますが、アナログはできないのか、面倒だからやらせてるだけかもって示唆していました。依存症的なズルい人間なんですよ。

飯田 貞子を吐き出す(?)ために霊能者に水責めされたり、大変ですよね、佐津川さんは。

藤田 で、女子大生と女子高生の呪われたコンビの百合と、貞子と伽椰子の百合……っていうのが、金田淳子さんの見方らしいです(笑) ハートフル百合ムービーだってw

飯田 伽耶子の家にテレビとビデオデッキ運ぶのバカバカしくてよかったよね。もうアップされてるんだからYouTubeで観ればよくね? って思ったけど。

藤田 そしたら「呪いのビデオ」じゃなくて「呪いのYouTube」になってしまうので、絵面的に怖さがなくなってしまう。それは続編でやって欲しいですね……。
 それはともかく、ぼくは、『リング』大好き人間で、どっちかというと鈴木光司さんの原作に強く影響を受けたのですが(『らせん』『ループ』や『エス』がSF的に面白い)、今回はちゃんと、『リング』や『呪怨』の怖さの本質的な部分を描いていたのに感動したんですよ。途中までは、結構キャラクター的なエンターテイメントなんだけど、中核がちゃんとしている。『リング』だったら、ビデオテープが増殖していくことや、自分が助かるために他人を犠牲にしてしまうエゴの側面。『呪怨』では、足を踏み入れただけで絶対に死ぬというシステムの無慈悲な作動。その辺りが、ちゃんと今回もあった。それがよかった。ネタっぽい感じにしてふざけた映画にするのかと思いきや、ちゃんとそこを抑えてきたのが、逆に裏を掻かれた感じがして驚いた。
 ただ、『リング』『呪怨』と違うのは、少しネタバレになりますが、救いがないのに爽快、ってことなんですよ。これは奇妙な味わいの作品で、白石さんの作家性とこれらの作品の融合して、不思議な作用を起こしていると思います。「恐怖の爽快さ」ってのは、なかなか不思議な感情なのですが。

一番ヤバイクリーチャーは佐津川愛美


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藤田 しかし、この作品、要約すると、「善意で人を助けようとすると巻き込まれてエラいことになるぞ」って話ですね。

飯田 そうだね。

藤田 貧しそうな家に民生委員が行くところが冒頭なんだけど、貧困とかイジメとかそういう社会問題の、奥深い闇のメタファーのようでもあるし、安易に助けようとすると待ち構えている問題の解決困難性を突きつける感じがしますね。
「善意」があり「責任感」がある女子大生が、勝手に責任を押し付けてくる友人のせいで巻き込まれて、しかも事態が好転しない、というのは、いいと思いました。善意や責任を食い物にする禍々しい何かのヤバさを感じさせて。
 その観点からすれば、ネタバレになるけど、あの映画の中で一番ヤバイクリーチャーは、貞子でも伽椰子でもなく、佐津川愛美の演じた女子大生でしたね。その意味は、実際に観ていただきたいのですが……

カドカワユニバースの展開可能性


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飯田 カドカワにはぜひ角川ホラー文庫系とか日本のホラーもの、デスゲームものとかをどんどんアヴェンジャーズ化していってほしいなあ……キャラクターはそんなにいなそうだけど。設定の掛け合わせならいくらでもできるでしょう。『伽耶子vs黒い家』とか『貞子vs伽耶子@リアル鬼ごっこ』とか。もちろんそのまえに『貞子3D vs伽耶子2D』を 4DXで観たいのですが。
 で、都市伝説が大好きで「呪いのビデオ」を探し求めている大学の先生は大塚英志にやらせると。

藤田 カドカワユニバースは豊かですからね。『僕は友達が少ないvs着信アリ』とか、『ネトゲの嫁vs貞子vs着信アリ』とか、『戦国自衛隊vs貞子vs復活の日』とかw 行けますね。そして、全員で軽音楽部をやるとか、吹奏楽をやったらいい、喫茶店のバイトでもいい。

飯田 『セーラー服と機関銃』もリブート(?)したし、ヤクザの娘と貞子を戦わせてもいいわけですね。

藤田 そして本丸の『春樹vs歴彦』が……

飯田 あと『カドカワvsドワンゴ』という内ゲバホラーもね。

藤田 『涼宮ハルヒvs貞子』だってできるw
『リング』シリーズも『ループ』以降は、世界全体がシミュレーションで操作可能みたいになりますからね。その次元で、世界を無意識的に改変してしまうハルヒと戦うと、めっちゃ頭脳戦っぽくて面白くなりそうw
 ちなみに、鈴木光司さんのシリーズでの貞子は、『エス』で、ちゃんと時代に適応してUSBに収納されて、なおかつ、人間との共存の方向に向かう存在になっていました。これはこれで特筆すべき変化で、個人的には面白いと思っています。続きも楽しみにしています!

飯田 『ハルヒvs貞子』はマジで観たいなあw
宇宙人、未来人、超能力者、貞子が集まるSOS団。おもしろそう。

藤田 ガチでSOSですけどねw

飯田 wwwww