日本テレビの勢いが止まりません。5月22日、番組の司会を長年務めた桂歌丸のラスト出演となった『笑点』の平均視聴率が、関東地区で27.1%。
それだけに留まらず、その後に放送された『ザ!鉄腕!DASH!』が20.3%、『世界の果てまでイッテQ!』が19.2%を記録。近年の視聴率不況など、どこ吹く風の、圧倒的高視聴率を1日のうちに3番組でマークしたのです。

そもそも、日テレの好調はこの日に限ったことではなく、約5年前から続いています。それは、全日・ゴールデン・プライム、全てで年間平均視聴率1位になったときに与えられる称号「三冠王」を、2011年から2015年にかけて連続達成していることからも明らか。
特に近年は、どの時間帯においても死角なしともいえる独走ぶりを発揮しており、他の民放各局を全く寄せ付けません。

そんな、今でこそ「民放の絶対王者」として君臨している日テレですが、2010年以前は長らくフジテレビに王座を明け渡していました。
その不調の兆しが見え始めた2000年代前半。
「ライバル局から数字を取り返さなければ……」という、日テレ上層部の焦燥が、同局のあるプロデューサーをとんでもない行動に走らせます。結果、起こってしまったのが「視聴率買収事件」です。


全国6600台のモニターによって左右される視聴率


テレビ番組の良し悪しを決める、最も明確な指標・視聴率。たった1%が100万人の視聴者数に該当するとされ、その増減がスポンサーからの信頼、引いては局の浮沈に大きく関わってきます。調査を行っているのは、ビデオリサーチ社。
同社によって無作為に選ばれ、専用モニターが置かれた全国6600世帯の番組視聴により、各局の制作者サイドは、泣いたり、笑ったりを繰り返しているのです。


しかしよく考えてみると、たった6600台のモニターによって、数億円単位とも言われているテレビの広告費が左右されているのです。66台のモニターを掌握すれば、1%の視聴率をコントロールできる……。
日々、上層部からのプレッシャーに苛まれているテレビマンたちの中に、そんな考えを抱く人間がいたとしても不思議ではないでしょう。

一世帯あたり10万円で買収しようとした日テレプロデューサー


そして事件は起こりました。スペシャル番組『芸能人犯罪被害スペシャル』『奇跡の生還』などを担当していた日テレのプロデューサーは、ビデオリサーチ社の車を尾行するよう、自らが雇った探偵に指示。モニターの置かれている家庭を割り出し、その家庭に10万円の賄賂を渡して、自分の番組を見るようお願いしたのです。
掛かった総額は、なんと1000万円以上。
しかも、その費用は番組制作費から流用していたというのだから、開いた口が塞がりません。

日テレ社長は辞任、国からは行政指導を受ける事態に


結局この不正行為は、尾行に気付いたビデオリサーチ社側の告発によって表沙汰となります。当然、実行犯であるプロデューサーは懲戒解雇処分。さらに、流用した番組制作費の出資元である電通と、ビデオリサーチ社からは民事訴訟を起されることに。
騒動はこれだけにとどまりません。責任を取るカタチで、当時の日テレ社長は辞任を発表。
時の総務大臣・麻生太郎からは厳重注意を受けるという、民放放送局として異例の行政指導が入る事態にまで発展したのです。

当時の苦境を乗り越えて、今では再び民放の王座へと返り咲いた日テレ。しかし、同局の視聴率至上主義体質は、上記の事件が起こる前も後も、相当なものと伝え聞きます。好調な今はともかく、これがまたかつてのように、ライバル局の後塵を拝すようになったら……。ぜひ、過去の過ちを繰り返さないで欲しいものです。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonより「視聴率」50の物語: テレビの歴史を創った50人が語る50の物語 (実用単行本)