芸人・水道橋博士が編集長をつとめるメールマガジン「水道橋博士のメルマ旬報」は、2012年11月10日に創刊された。現時点ではおそらく、世界最多文字数のメールマガジンである。

013年8月25日に刊行された第20号を見ると、連載が30本もあり(9月10日刊行の第21号では32本に増殖)、20号記念の特別企画「水道橋博士の半世紀年表」までついていた。その総文字数は約27万! とてもではないが1日では読みきれない分量で、メールの容量制限をしているとはねられて受信できない場合さえある。最初は2分割で届けられていたが、この第20号は5分割であった。

なにこの過剰!

というわけで今回は、水道橋博士を直撃して「メルマ旬報」について話を聞きました。
あ、他人事みたいに書きましたが、私も執筆者の1人で、総量アップに貢献しています(「マツコイ・デラックス〜われわれはなぜ本屋にいるのか」)。

───(水道橋)博士がなぜメルマガを創刊されたのか、ずっとうかがいたかったんですよ。

博士 これはね、岡村靖幸さんを取り上げたかったのがひとつ。ふたりで対談、その他の企画を発表する、しかも、字数を気にしないでイイっていう媒体を選んでいた。あと動機のひとつは町山智浩さんなんですよ。町山さんが上杉隆さんを批判していたとき、一つの論拠が、上杉さんが有料メルマガで読者を囲い込みしているということだったのね。書き出しだけ見せて「あとは有料メルマガで」というスタイル。でも、俺は勝谷誠彦さんの有料メルマガを長く読んできたので、有料メルマガは否定しないんです。
あと、出版業界のかたが出版不況をなげくのにいつも「最近の人は本を読まなくなった」とか言うでしょう。あれも俺から言わせればアントニオ猪木的に「ジャングルがなくなるって心配するよりジャングルをつくればいいじゃないか」という発想になる。人に活字を届けるすべとしては有料メルマガという形式でも伝えられる、メルマガなら無制限で字数は増やせるんだから限りなく書ける、どころか少なくてもいい。いや、書く、書かないのも自由、全く書かない休載でもギャラは払う。薄謝だけどライターの人数を増やせば問題ない。執筆者は気楽に原稿を書いてもらって単行本になる前の原稿のストックを貯めていくことが出来るって。
で、編集者は申告制で只の会員になって、この連載をチェックしてもらって、良いと思ったらいつでも出版してください、こちらに著作権は持ちません、って構想を思ってたんですよ。これが今では、むしろ、出版をやってもいいとも思っている。

───なるほど。それは、ビジネスモデルを自分で開拓する感じですね。
博士 うん、ビジネスではあるんだろうけど、でも、そんなカタカナのカッコイイもんじゃない。もっと効率の悪いもの。
博報堂ケトルさんから相談されたとき、「俺が考えているのをそのままやると「週刊プロレス」の編集部みたいになるよ、って言ったんですよ。

───現在じゃなくて、ターザン山本時代のですね。

註: 1990年代、山本隆司(ターザン山本)編集長体制で、「週刊プロレス」は最大部数を記録した。ターザン山本編集長は部下に一切の反抗を認めず、私生活をもコントロールすることによって鉄の規律の軍団を作り上げたのであった!

博士 そうそう。なぜなら自分が考えてるのは、いきなり10万字単位のメールが送られてきて、携帯がドンって重くなった錯覚をするような(笑)巨大な熱量を持つ無茶で無意味なメルマガだから。思うだけなら誰でも出来るけど、それを作り続けるためには、まさしく「週刊プロレス」レベルのやり方をしてもらわないといけない。


───最初のメンバーには僕も入っていたんですけど、どういう根拠で選ばれたんですか?
博士 AKB───浅草キッドブックス48っていうことで,48人にする構想は最初からあるんだよね(笑)。根拠と言われると、俺が読みたい人っていうことかな。杉江さんの芸人本に絞った書評を読んでみたかった。執筆者の中に碇本学くんという若い人がいますけど、彼なんて全然知らない若者。ある日突然俺の前に現れて「小説家を目指してます」って言われて。今どき、本当に小説家をめざしてる人なんて会ったことがなかったから、どんな文章書くんだろうって(笑)。
それだけ。

───身辺の人で固めているわけでもないんですよね。そういう風につきあいのほとんどなかった人もいて。だいたい僕だって、10年ぐらい博士とはお会いしてなかったわけだし。
博士 そうですね。でも会わなくても「文」では繋がっている。読む人も書く人も、まず「文」としては第一前提でわかりあえている。と思うの。そもそも、活字が好きな人が少数派なんだから。書きたい、やりたいと言ってくれる人はまだまだいます。でも、ありがたいけど、映画評、テレビ評、芸人評、女性エッセーとかジャンルのかぶりは増えすぎないよう考えてます。実を言うと、町山(智浩)さんは入れたいんですよ。タイトルも決まっていて、『続きは有料メルマガで!』って、からかっていたから、それをイジって『続きは無料ブログで!』っていうの(笑)。既出のブログの書き出しを書いてるだけ(笑)上杉さんへの皮肉。そこに上杉(隆)さんも入れたいんですよ。そういう風に同じ雑誌で一方向だけではない、対立軸がみえるようにしてみたい。

───話題にはなるでしょうけど、上杉さんを叩いている人は激怒するでしょうね。
博士 うん。でも、そういう対立が同じ誌面にあるのを読みたくないですか? 見解が違うとしたら両方が見える方がイイじゃない。最近の「週刊文春」は新谷編集長がスキャンダリズムにすごく舵を切っていて、コラムを書く執筆陣がそういう方針に抗議している感じが誌面から見える。そこにザワザワするでしょ。

───昔の新日本プロレスみたいですよね。「管理の甘いサファリパーク」(笑)。じゃあ、水道橋博士編集長としてちゃんと系統樹みたいなもので執筆陣を見据えているわけですか。
博士 それを説明しても他人には通用しないでしょうけどね。芸能人の領域ではないことを「メルマ旬報」という媒体を通じてやっているわけです。たとえば何年か前に(漫画家の)高橋春男さんが引退したでしょう? あれほどの人でも世間は誰も話題にしない。あの人の特集を「週刊現代」がやっていて、その最後の近況を書いたところが「今はナックルボールの練習をしている」って終わるんですよ。

───近況すぎる(笑)。
博士 それがあまりにもおもしろかったんだけど、話題としてぶつける相手がテレビの楽屋にはいない。高田(文夫)先生とたまたまお会いする機会があってその話をしたら、「博士知ってるか? 高橋春男はたしかに全連載を終えているけど、「週刊現代」の読者欄が「題字:高橋春男」で残っているんだよ」って。そこには俺も気づいてなかった(笑)「そうか、まだ続いているのか」みたいな。でもこれって世の中で通用しない話題でしょう。

───いい話ですけど、行き止まりの話題ですね。そうか。そういう話をしたいんだと、「メルマ旬報」は「噂の真相」になりたいわけじゃないんですね。メルマガをああいう言論の解放の場にしたいということではないと。

註:「噂の真相」は1979年に岡留安則によって創刊されたゴシップ・スキャンダルを中心に扱う月刊誌。そのあまりにゲリラ的な編集方針が時に悶着の種となり、編集長が襲撃されるなどの事件がたびたび起きた(詳しくは各自調査)。

博士 でも大手出版社が絶対やれないことはやりたい。荒井カオルさんの佐野眞一さんの剽窃問題とか。でも、これもボクが社会問題に関心があって正義をかざしたいとも思っているわけでもない。あと、誤解で言えば、ボクが政治家になりたいのかって言う人がいるけど明らかに違う。

───そんなことを言われるんですか?
博士 うん。小銭稼ぎのコメンテーターだから(笑)そう思われることがあるのは、俺に隙がありすぎるんでしょうけどね。芸人としてそう思われるのってすごく失敗だな、と。たとえば有吉(弘行)君って絶対そうならないから。

───絶対ならないでしょう! 「メルマ旬報」は、この後どんな人が執筆者として構想に入っているんですか?
博士 最初はダライ・ラマとかレディー・ガガとかオノヨーコとか言ってたんだよなあ。あ、まんしゅうきつこは入ってる。いまNHKのラジオ第一で『すっぴん!』って朝8時から4時間のラジオ番組やってて「今、話されている博士は、どこの大学の博士ですか?」とかメールがくるの(笑)NHKだから。それでゲストに、まんしゅうきつこさんを呼ぼうとしているんですよ。放送で「今日は漫画家のまんしゅうきつこさんのお話を聞きたいと思います」というのが流れるかと思って。「満州からの引き揚げの方なんですか?」ってメールが来たりして(笑)
───国営放送で「まんしゅうきつこ」が流れたらそれはおもしろいですよ!

次回へ続く
(杉江松恋)

 今回エキレビ!掲載を記念して、インタビューを読んで「メルマ旬報」購読を申し込んでくださった方は9月分のみならず8月分の2号を無料でお読みいただけます。
 9月11日15時から25日の10時までの間に水道橋博士のメルマ旬報にアクセスいただき、「エキサイトレビューを読んで申し込んでくれた方」のボタンを押して購読申し込みしてください。
 ちなみに、怒涛の連載陣&連載タイトルは以下の通り!
 
1.博士の愛した靖幸(構成:渡辺祐)
2.西寺郷太の『郷太にしたがえ!』〜小説 「噂のメロディ・メイカー」〜
3.樋口毅宏の『ひぐたけ腹黒日記Z』
4.山口隆(サンボマスター)『僕の創作ノート』
5.坂口恭平『首相動静〜水道橋博士への日記書簡〜』
6.竹内義和の『ゆゆも』
7.谷川貞治の『平身抵当』
8.茂田浩司の『オフレコをオンします』〜連載「ヌルヌル事件とは何だったのか」
9.杉江松恋の『マツコイ・デラックス 〜われわれはなぜ本屋にいるのか?〜』
10.柴尾英令の『シネコン至上主義 ───DVDでは遅すぎる』
11.九龍ジョー『城砦見廻り日誌』
12.高橋ヨシキの『ニッポンダンディ/悪魔で私見ですが……』
13.てれびのスキマの『芸人ミステリーズ』
14.柳田光司の『はかせのスキマ』
15.サンキュータツオの『お笑い文体論』
16.碇本学の『碇のむきだし』
17.マキタスポーツの『マキタスポークス〜どこぞの誰かへ』
18.『プチ鹿島です。名前とコラムだけ覚えて帰ってください。』
19.やきそばかおるの「会いに行ける偉人」
20.マッハスピード豪速球 ガン太の『ハカセー・ドライバー』
21.エムカク『明石家さんまヒストリー』
22.木村綾子『彼方からの手紙〜匆々〜』
23.モーリー・ロバートソン『Into The 異次元』 
24.松原隆一郎『東大でも暮らし〜柔道部松原教授のサブ・テキスト〜』
25.伊賀大介『好漢日記』
26.酒井若菜の『くよくよしたって始まる!』
27.荒井カオル『だれが「ノンフィクション」を殺すのか』
28.相沢 直の『みっつ数えろ』 
29.リリー・フランキー『著者都合により休載します』
30.土屋敏男『ライフテレビ』 
31.園子温『芸人宣言』
32.『博士の異常な日常』