「Newton」10月号の特集は、「卵子の老化」。
この問題、「クローズアップ現代」や「NHKスペシャル」でも取り上げられていたものですが、完全に見逃してしまっていた。
妙に落ち着かない気持ちになりながら購入。人生初「Newton」です。

特集の中には、衝撃的な言葉が並びます。
「女性が妊娠できる確率は、10歳代後半から徐々に下がりつづけ、30歳代後半から急速に下がるようです」
「不妊治療をしたあとの妊娠確率をみても、女性の年齢が上がるほどその数値は低くなっています」……。

この原因の一つとして考えられるのが、「卵子の老化」。特集では、詳細な図と科学的な説明で卵子の老化について教えてくれます。
詳しくは「Newton」を読んでもらうとして、ここではかんたんに概要を紹介します。

まず結論として、卵子は老化します。その理由は、卵子の製造方法にあるんです。
卵子の細胞は、胎児の段階で全てつくられてしまいます。つまり、女性は一生分の卵子を持って生まれ、生まれたあとは減る一方。卵子は生まれてからずっと卵巣に保持され続けているので、女性とともに年齢を重ねます。

この加齢の影響を受けて、卵子はさまざまな分野で機能に異常が生じてきます。この機能異常が、不妊の一因となります。また、卵子自体が老化していると、体外受精などの不妊治療も効果が現れにくくなるのです。

なるほどなー。
でも、「卵子の老化」という言葉では表現されていなくても、「年齢を重ねれば重ねるほど妊娠力が低くなる」というのはよく知られていたように思います。ただ、理由はよく知らなかった。
それが、「卵子の老化」というしっかりした言葉と、わかりやすいメカニズムの説明を見ることで、とても納得できました。
その一方で、誰にともなく叫びたくなります。
「卵子が老化するのはわかった。でも、どうすればいいの?」
老化してない卵子の方が子どもができやすいのはわかる。でも学生のうちに子どもを作るのは大変だし、就職して数年で産休をとるのも不安。ある程度安定してから…と思っても、そのちょうどいいタイミングで恋人ができるんだろうか? その人は結婚してくれる相手? 仕事を任せられてすぐ妊娠したら、白い目で見られたりしない?
…正直、頭を抱えてしまいます。
自分の身体の中で起こっている現象を知ったところで、うまく対処できるわけじゃありません。
なにより、もし自分が不妊治療で悩んでいる人だったら…と想像すると、「どうすればいいの?」の問いはさらに大きくなります。メカニズムからして避けられない、どうしようもないこと。でもそれゆえに、自分を責めてしまったり、追いつめられた気持ちになっている人も少なくないでしょう。

この問題に、科学と技術の進歩は応えようとしています。
いちばん目立つのは、iPS細胞(ほぼすべての種類の細胞になれる能力を持つ細胞)から卵子を新しくつくること。
動物実験レベルでは成功しているのだそう(ちなみに、iPS細胞については、別に特集が組まれていて詳しく知ることができます)。
ほかにもさまざまな治療法が考えられています。これらの治療法や対応策が確立すれば、妊娠は卵子の老化を乗り越えられるかもしれないと、「Newton」の記事はまとめています。
もちろん、不妊治療技術の進歩だけが、この問題の解決策ではありません。母体への負担などの問題は解決されずに残ってしまいます。バランスのとれたもっといい対応策があれば、それに越したことはないんですけどね。


さて、気になるのが精子
これについても本文中でも触れられています。
「女性の妊娠力の低下は27~34歳の間ではじまるのに対して、男性では40歳以降ではじまる、という内容の論文があり、年齢が妊娠力に与える影響は女性の方が大きいようです」
なぜこういう差が起きるのか? 疑問に思って調べてみました。原因は「卵子と精子の製造のされ方の違い」にありました。
これまで紹介したように、卵子は「胎児の段階でつくられ、体内に存在する」もの。それに対して精子は、常に精巣で「新しくつくられる」もの。つまり、精子自体は老化しません(ちなみに排出されずに古くなった精子は体内に吸収されて消滅する)。
ただし、精子を作る器官である精巣は老化するために、精子の製造段階で遺伝子異常などが起こりやすくなり、40を越えると男性も妊娠力の低下が始まります。父親が40歳以上の新生児は、30歳未満の父親の場合よりも自閉症や関連のある症例をもつ割合が約5.75倍高かったという報告もあるようです。また、老化とはまた違った問題として、精子減少症や無精子症などによる不妊もあります。
ですが、男性に原因のある不妊については、女性のものほど研究が進んでいないのが現状です。ここで紹介した研究内容も、「そういう報告がある」というだけで、はっきりとしたものではありません。

妊娠に関わる情報をネットで見てみると、女を叩く意見(「やっぱ生物学的には男>女だろー」的発言)や「俺には関係ない」という意見を多く見ます。超ヘコみます。
確かに男性は妊娠しません。どこか他人事のように思うのはしょうがないことなのかも。でも、もどかしいし寂しいです。
そもそも不妊は、長いあいだ女性だけの問題とされてきました。近年になってようやく、男性にも原因があることがわかってきたんです(女性だけに原因があるのは全体の40%程度だとされています)。
もっと男性について研究が進んで、その研究結果が広まれば、この「関係ない」という言葉は減るのかもしれません。男性用経口避妊薬の開発男性の妊娠の研究もされはじめたことだし…次は「男性と妊娠」という特集も読んでみたいですな!

ちなみに「Newton」という雑誌、ハードルが高いように思えますが、想像以上に読みやすい!
文章はできるだけくだいた表現になっているし、写真や図解も多い。なにより、内容が知らないことだらけで面白いです。
宇宙の膨張の原因とされる「ダークエネルギー」!(名前がかっこいい!)
擬態する海の生物!(間違え探しみたい!)
カリフォルニアのアシカ!(カワイイ!!!)
ダイソンの羽根なし扇風機のしくみ!(なにがいったいどうなってるの!?)
抜け毛のメカニズム!(皮脂って抜け毛の原因にならないってマジで?)
これは全部、今月号の特集。SFの世界かというくらい遠いものから、驚くほど身近なものまで、どれもワクワクしながら読めます。かがくのちからって、すげー!
(青柳美帆子)