Webマンガ配信サービス少年ジャンプ+で4月18日にて「ファイアパンチ」藤本タツキが連載開始された。
話題のグロ少年漫画「ファイアパンチ」燃えている主人公はだいじょうぶなのか
ファイアパンチ/少年ジャンプ公式サイト

「生まれながら奇跡を使える人間を祝福者と呼んだ──『氷の魔女』と呼ばれる祝福者によって世界は雪と飢餓と狂気覆われた」というモノローグから物語は始まる。
いわゆる特殊能力物で、世界感は至ってシンプル。これぞジャンプといった王道ファンタジーだ。

グロくなるべくしてグロくなる、必然的少年グロ漫画


しかし次の場面では、主人公が妹に自分の腕を斧で切断させるシーンへと切り替わる。再生能力祝福者である主人公アグニは、一日に何度も自分の腕を切り落とし、村人へと食料供給しているのだ。
 
ある日、食料を奪いにやってきたベヘムドルグという国の兵士達に、村人たちの家で保管されている“アグニの腕”が見つかってしまう。「こいつらは人じゃない」と“焼け朽ちるまで消えない炎”の祝福者ドマにより、村全体を焼き払われてしまう。もちろん、妹のルナも、主人公のアグニも...しかし、再生能力を持つアグニは死ねない、炎も消える事はない。


八年間痛みに耐え続け、少しずつ再生能力と炎のコントロールが出来るようになったアグニは、ドマへと復習を誓う。その後、ベヘムドルグの兵士達が子供達をさらい、老人達を惨殺しているとこに遭遇すると、ファイアパンチ。一撃で兵士達を殲滅する。

食人、近親相姦未遂、人身売買、大切な妹の死...インパクトの強い出来事が山ほど詰め込まれている第一話。それが無理なく構成されていて、よくある「僕の漫画ってグロいでしょ?」感がまったくない。なるべくしてグロくなっているから面白いのだ。
ファイアパンチという安直なように思えるタイトルも、読み終えると切なく聞こえてくるから不思議だ。

この漫画は、簡単に言ってしまうと復讐劇だ。復讐相手がラスボス的な存在として、主人公から恨みを買っている。さらに、物語の元凶である「氷の女王」と、アグニの消えない炎という相反する能力が、また物語を盛り上げてくれそうだ。

物語を制限する不都合


再生能力という祝福の上に、最強の炎を手に入れたアグニ。さぁこれから自由になってドマを倒す為の旅に出ようという所。ここで気になるのはこの先の展開だ。
アグニはこれからどうやってドマを見つけ出すのか?広い氷の世界での移動手段は?アジトとなる住処は?いや、そもそもアグニは何が出来るのだろうか?よくよく考えてみると、アグニは出来ることよりも出来ない事の方が圧倒的に多い主人公だという事に気づく。アグニにはある“不都合”が存在するからだ。

それはアグニが常に燃えているということだ。この不都合こそが、アグニの行動を制限している。例えば、燃えているから表情が見え辛い。かっこいい服を着れない。
さらには物にも触れない。当然建物にも入れない。出会った人に触れない。触れないからその人ととも打ち解けづらい。だから仲間は作りづらい。ラブシーンも生まれない。
戦闘シーンはカッコイイが、座ったり寝たりするとカッコ悪い。パッと思いつくだけでこれだけある。この物語の肝になる主人公の悲しみと強さの象徴の炎こそ、物語の展開を制限する“不都合”になっている。

桜木花道はバスケットを知らない


ウルトラマンは三分間しか戦えない。碇シンジは戦いたくない。桜木花道はバスケットを知らない。
これらの主人公達が持つ“不都合”が物語の幅を狭め、意外性を生んでいる。花道がバスケを知らないからこそ、安西先生や主将赤木が工夫をして湘北の戦力に仕立てあげていく。出来ることが少ないからこそ、そのストーリーにオリジナリティが生まれていくのだ。

ファイアパンチのアグニは、数ある漫画の中でも不都合な部分がとびきり大きい主人公だろう。だが、この大きな大きな不都合を乗り越えることによって、まだ誰も見たことのない漫画が生まれていくはずだ。作者である藤本タツキ先生がどうアグニを動かし、この不都合を利用していくのか、この先が楽しみでならない。第2話の配信は、4月25日だ。

(沢野奈津夫)