3月14日。計画停電と買い占め騒動のただなか、阿佐ヶ谷のロフトAで「蒐集原人の夜」というイベントが開催された。
主催はとみさわ昭仁さん。ポケモンなどのシナリオも担当していたゲームデザイナーであり映画ライターであり、このエキサイトレビューではフーターズ評論家としてもおなじみだ。そしてもうひとつ、なんでも集めてしまうコレクターでもある。

トレーディングカードのような王道から、ほとんどの人がその存在すら知らないであろう「ダムカード」、年号メガネの画像自分の似顔絵など、とみさわさんのコレクションは多岐に渡る。なぜこれを集めようと思ったのか、不思議なモノばかりだけど、並べて眺めると笑いがこみ上げてくる。価値あるモノを集めるのではなく、集めることで何かが発生するような、そういうタイプのコレクションだ。


だからとみさわさん自身、集めたアイテムそのものにはあまり執着がないという。むしろ、何かを集めている人の行動や生態に興味があった。それなら、いろんなタイプのコレクターを集めたら面白いんじゃない? これが「蒐集原人の夜」のコンセプト。参加したのは元・たまのメンバーでミュージシャンの石川浩司さんと、グラフィックデザイナーの永井ミキジさん。イベントはまず、石川さんの「缶ドリンクコレクション」の話から始まった。

現在、自宅に約2万種以上の空き缶を保有している石川さん。
「僕の体を作ったものだけがコレクションになる」というルールを課しているため、どれも実際に飲んだものばかりだ。本来、ゴミとして捨てられるものを保存することに興味があるから、コレクターを意識したアニメ柄の缶などはあんまり好きじゃない。見知らぬ町をブラブラしながら掘り出しモノを探して歩くのが基本スタイル。旅と発見のヨロコビが、石川さんにとってのコレクションなのだ。

困るのは、周りの人が良かれと思って「珍しいっぽい」ドリンク缶をプレゼントしてくれること。嬉しいんだけど、すでに持っていることが大半で、だけど気が弱いから言えない……とおっしゃってました。
「あれ、これ似たの持ってるけどデザインが違う! ありがとう!」と受け取っちゃうそう。ファンのみなさんはご配慮ください。

後半は「顔ジャケラーメン」コレクションの画像を見ながら永井さんが徹底解説。「顔ジャケ」というのはカップラーメンのフタで、なおかつ有名店とのコラボ商品など、店主の顔写真がデザインに含まれているものを指す。そのなかにも分類があって、たとえばオーソドックスなねじり鉢巻姿は「天使系」と呼ばれる。ほら、オヤジのおでこに白いエンゼルリングが見えるでしょ? そのほかにも、同じねじり鉢巻きでも写真が小さい「クリオネ」(=流氷の天使)、どんぶりを愛想良くこちらに差し出す「おかげさま系」、挑戦的なまなざしで湯切りする「どうだ系」などがある。


グラフィックデザイナーの視点から言えば、そもそも食品のパッケージにいかつい男の写真を使うのはタブーだ、と永井さんは語る。佐野実ブームにおける「同一写真使い回し問題」、「カニは顔ジャケか否か論争」など課題も山積みである。それでもなおコレクションを続けるのは、このジャンルを発見し、命名したオリジネイターとしての義務感からだ。
「ヤフオクで"顔ジャケ"って検索しても出てこないでしょう? コンビニを巡回して新製品を買い続けるしかないんです。いま、僕が買い逃すと、顔ジャケの歴史が途絶えてしまうから……」

とみさわ「2人とも、集めるだけじゃなくて、ちゃんと自分で食べてるのが偉いよね」
石川「さすがにキツイから、最近は“身体がSOSを発したら半分でオッケーなこと”にしてます」
永井「僕もカップ麺食べたくないんですよ、基本的に健康志向なんで。地震の時、帰宅難民になった人に配りたいと思いましたもん。
食べたらフタだけ返して! って」

このほかにも、少年時代の石川さんが集めていた「地方観光パンフレット」や「マクドナルドvs永井ミキジ」、とみさわさんの「動物園迷子カード」の話など、抱腹絶倒のエピソードが飛び出してカオス状態。「コレクターは面白い」というとみさわさんの言葉どおり、笑いの絶えないイベントだった。好評につき第2弾も予定されている模様。うっかり食品コレクターになっちゃったアナタ、次回はぜひ会場へ。(水藤友基)