アメリカのとあるブログに「Preparedness 101: Zombie Apocalypse」(初心者でも分かるゾンビ対策講座)という記事がアップされて、一週間で100万近いページビューを集めた。さらにロサンゼルス・タイムズウォール・ストリート・ジャーナルなど、有名なニュースサイトにも取り上げられて大きな話題になった。
でも「ゾンビがでたら俺ならこう逃げるね」というネタはゾンビ愛好家の間ではお約束で、特に目新しいものじゃない。ではなぜ、ここまで注目を集めたのか? 理由は掲載されたのがCDCのブログで、書いたのがCDCの一部門である公衆衛生局の責任者だったからだ。

CDC は、Centers for Disease Control and Prevention の略で「アメリカ疾病管理予防センター」と訳される。日本だと国立感染症研究所が近いだろうか。ただし研究だけでなく、公衆衛生に関するPR活動もバンバンやっている。特に感染症予防対策では世界的な権威で、発表される統計や資料は日本の医療機関でも頻繁に引用されているし、「アウトブレイク」など感染症が題材の映画や小説では間違いなく登場する大御所。
その公式ブログに、ゾンビに対して何を準備するべきか? というTIPSが公開されたのだ!

記事は「CDCはゾンビの襲来にも備えています」という宣言から始まる。続いて記事を書いている公衆衛生局長の趣味(好きなゾンビ映画は「バイオハザード」)が多分に盛り込まれたゾンビの説明があり、「ゾンビ化の原因は感染因子による失調性神経変性満腹不全症候群だと考えられます」という医学的な見解。おお!さすがCDC!と期待が膨らんだところでついに本題に入る。これがCDC公認の対ゾンビマニュアルだ!

・非常時に持ち出す袋をまとめておきましょう。
 中にいれるものは、水や食料や常備薬、タオルや毛布などの衛生用品と救急箱、カッターナイフやダクトテープ、ラジオなど。運転免許書やパスポートなどの身分証も忘れずに。

・自分がいる地域にどのような非常事態が発生しそうか確認しましょう。
・家に帰れなくなることも考えて、家族との待ち合わせ場所を事前に話し合いましょう。
・警察や消防署や地域のゾンビ対策チームなどの緊急連絡先や、自分の安否を伝えるための家族の連絡先を確認しておきましょう。
・緊急避難場所やそこまでの道を事前に調べておきましょう。

あ、あれ? 定番の「首を切断するか、頭部を破壊する練習をしましょう」や「ショッピングモールを下見しましょう」が無い。他にもゾンビの真似して歩くと襲われないとか、ゾンビを燃やすとガスが出て近くにある他の死体も動き出すかもよ、とか書いてあると思ったのに、今の日本でも役立つようなマジな内容だ。
それもそのはず。CDCは単なるお遊びでこの記事を書いたわけではなかった。このあたりの経緯はウォール・ストリート・ジャーナルに詳しく書いてある。

記事を実際に書いたのは公衆衛生局のトップ、アリ・カーン局長だが、企画したのはデイブ・デイグル広報担当だった。この間日本にも台風が来たが、アメリカでもこの季節はハリケーンや竜巻が多い。CDCは毎年この時期になると災害に対する準備を呼びかけているのだが、変わりばえのしないメッセージで人々にちゃんと届いているのか不安だった。
もっとアピールする方法はないだろうか? そのとき、デイグル広報担当は「日本で放射線がたくさん出てるらしいけど、そのせいでゾンビになったりしないの?」というトピックでtwitterのタイムラインがいっぱいになっている、と同僚から聞いた。これだ! 怒られるのを覚悟で企画をあげたところ、グッと親指を立てたのがアリ・カーン局長だったのだ。

一方、局長には別の狙いもあった。CDCは2011年度に予算を前年比で11%カットされて、公衆衛生局でも1億ドルほど減らされた。災害時のサポートに使う費用も不足しているくらいなので、これ以上広報に回す余裕は無い。しかしゾンビのブログを書いてキャンペーンするだけならタダだ。
効果は予想以上だった。いつもなら累計1000か2000くらいだったページビューがいきなり100万(1000倍だ!)に跳ね上がり、アクセスが集中してサーバーが一時ダウンしたため「CDCがゾンビに攻撃された!」と噂になった。

「恐れないでください--CDCは準備万端です」という見出しを最後に記事は終わる。「たとえゾンビが出ても、他の災害と同じようにCDCはみなさんを守ります」というわけだ。かっこいい! ぜひ日本でもやってほしい。「恐れないでください--ただちに健康に影響を及ぼすものではありません。
なお状況が悪化した場合は自主避難を求めることがあります」あれ、おかしいな。かえってパニックになりそうだ。(tk_zombie)