テレビアニメ「たまゆら~hitotose~」の2期制作決定を記念した、佐藤順一監督インタビューの最終回は、メインキャラクターのキャスティングに関するエピソードなどを紹介。さらに、先日、制作が発表された佐藤監督の最新作「わんおふ-one off-」についても、お話を伺いました!
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――メインキャラクター4人のキャスティングについても教えて下さい。
演じている声優さんの中で、塙かおる役の阿澄佳奈さんと、桜田麻音役の儀武ゆう子さんは、監督の前作「うみものがたり 〜あなたがいてくれたコト〜」にも出演されていて、個性もよくご存じだったと思うのですが。沢渡楓役の竹達彩奈さんと、岡崎のりえ役の井口裕香さんは、「たまゆら」が初めての起用だと思います。まず、主人公の楓のキャスティングには、どのようなポイントがあったのでしょうか?
佐藤 実は「たまゆら」では、楓しかオーディションをやってないんですね。その中で竹達さんは、キャラクターへのアプローチの仕方や、台本を持って読む感じなどを含めて、楓っぽいなと。僕は、オーディションでは、声はもちろんですが、それ以上に(役者の)居住まいというか、在りようを見ていて。そのキャラクターに近い空気感があるかどうかが重要だと思っているんです。

――竹達さんは、楓みたいにわたわたしていたのですか?
佐藤 わたわたしてるところも含めて、いろいろとテンパリやすそうだなと思いましたね(笑)。
――いつも元気なのりえ役の井口さんについてはどうですか?
佐藤 井口さんはオーディションも受けていたのですが、ラジオでの印象も強かったんです。(初めての役者を)キャスティングをする時は、インターネットラジオなども聞く事にしていて。ラジオってわりとその人の素が出るので、参考になるんですよ。井口さんのラジオ(「井口裕香の超ラジ! Girls」)を聴いて、「へえ、ウザかわいい」と言われているのか、と(笑)。
――確かに、のりえもウザかわいいキャラですね。
そういえば、僕は「ウザかわいい」という言葉を、井口さんのラジオで知りました(笑)。
佐藤 私もそうですよ。後々、実際に本人と話してみて、「ああ、ウザかわいいとは、こういうことか~」と思いました(笑)。あと、「たまゆら」に関しては、イベントやラジオもたくさんやりたいと思っていたので、キャスト同士の仲が良いことも、ポイントが高いなと。井口さんは、阿澄さんとも仲が良いので、そういう点も少し考えました。
――では、その阿澄さんを、楓の幼なじみのかおる役に起用した理由は?
佐藤 阿澄さんは、最初に「ARIA」で1回(3期の第4話)、出てもらっているんですね。
「うみものがたり」で主役のマリン役をお願いしたのも、その時の印象が強かったんです。
――「ARIA」では、ゲストキャラとして、一人前のウンディーネ(観光案内人)を目指す女の子を演じていましたね。
佐藤 「ARIA」の主人公をやっていた葉月(絵理乃)さんのラジオ(「佳奈・絵理乃・教子のビューティーブラックバス」)を聞いていて、「声優を目指して頑張ってる子がいたなあ」という印象が残っていて。それが阿澄さんだったんですね。だから、ウンディーネを目指して頑張ってる子がピッタリかなと思って、お願いしました。その後、「うみものがたり」をやりながら本人を見ていくと、周りの人をとても大切にする人だなというのも分かって。
そういう意味で、遠くにいても楓のことを気にしたり、心配したりしていたかおるに良いのかなと。しかも、かおるは4人の中で1番、尖ったり弾けたりする部分がないキャラ。そういうところもきちんとやってもらえる人として、阿澄さんかなと思いました。
――では、無口な麻音に、いつも賑やかな儀武さんを起用したのには、どのような理由が?
佐藤 最初、麻音を儀武さんにする予定はまったく無かったんですよ。まず、OVAが始まる前に、儀武さんが竹原の取材に勝手についてくるという事件がありまして(笑)。
――公式サイトにアップされていた動画「たけはらんど」でも、竹原まで監督を追いかけて“「たまゆら」に出して”と迫る様子がレポートされていました。
あれは、ガチだったのですね。儀武さん、すごい(笑)。
佐藤 儀武さんはイベントの時にも(司会として)力を発揮するので、何かの役で入ってもらおうかとは思っていたんです。まあ、犬や猫の役で(笑)。でも、儀武さんを起用するとして、もし麻音だったらどうだろうと思った時、意外としっくり来たんですね。
――え!? どこがですか??
佐藤 麻音は、最初の時点では今ほどキャラクターが固まっていなくて。
口笛を吹く、無口な女の子というだけだったんです。でも、作品を作っていくうちに、無口だけど、心の中にはやりたいことが山のようにある子になっていきました。それは、(CVを)儀武さんにした時点で、フワッと出てきた事。キャラクターに個性をつけていく時、演じる人の在りようとか個性はけっこう重要で。それによってキャラが膨らむという事がよくあるんです。無口な麻音に、儀武さんという異種異質な存在を入れる事によって、キャラクターが膨らむかもという予感があったんですよね。実際、膨らみ過ぎくらいに膨らみました(笑)。
――確かに、濃いキャラになってると思います。メインキャスト以外も非常に豪華ですが、OVAで僕が1番意外だったのが、竹原を訪れる旅行客の一人・飛田志麻子役の斉藤千和さん。「脇役なのに贅沢なキャスティングだな」と思いました。そうしたら、「hitotose」の第9話では志麻子の失恋話がメインに描かれていて。OVAの時から、この展開を考えた上で、キャスティングされていたのですか?
佐藤 そうですね。千和さんのキャラに関しては、テレビがあったら、ああいう使い方をしようとは思っていました。
――そうなると、「hitotose」の4話に登場した酒屋のお兄さん(役名は酒屋)を、人気声優の鈴村健一さんが演じているのも……。
佐藤 ああ、確かに。このキャスティングは何だってなりますよね(笑)。
――これは、2期の展開に期待なのかな、と。
佐藤 そういう期待感を感じてもらえるのも、重要なポイントかなと思います。
――期待しています。最初の話の繰り返しになりますが。今は、そうやってすでに撒いてある種に新たな構想を加えつつ、2期の準備を固めているわけですね。
佐藤 そうですね。あとは、キャストと実際にアフレコをしたり、ご飯を食べたりすることで見えてくるものって、意外とドラマの中にも使えることがあるんです。「hitotose」をやってきた中で、見えてきたものも色々とありますので、それも2期に生かしていきたいなとは考えています。
――キャスト陣のブログや出演しているラジオなどで、よく「たまゆら」メンバーの飲み会の話が報告されていますね(笑)。先日も、楓のお母さんを演じている緒方恵美さんのブログに、たまゆら飲み会の事が書かれていました。
佐藤 緒方さんが飲みに行くぞというと、メンバーの集まり方が凄いんですよ。僕らがアフレコ後に「ご飯行こうか」とか言っても、三々五々帰っちゃう人も多い中、緒方さんが声をかけると、動員力がハンパ無い(笑)。
――さすがですね(笑)。では、そんな「たまゆら」チームの飲み会報告も楽しみにしながら、2期の続報を待つ事にしまして……。2012年中に、佐藤監督の新作OVA「わんおふ-one off-」が発売されるそうですね。これは、どういった作品なのですか?
佐藤 この作品も女の子の日常を追いかける話なんですけど。「たまゆら」の場合は、何かになりたいと思えば、ある程度は道が開けているというか。(夢はぼんやりしているけど)何かの障害があるという話ではない。一方、「わんおふ-one off-」では、舞台を山奥に設定していて。実際にやりたい事はあっても、すごく田舎に暮らしているせいで、何となく自分にはできないだろうなと思っている女の子たちの話です。例えば、漫画家さんでも、声優さんでも何でも良いんですけど。憧れてはいるけれど、自分には根性が無いとか、お父さんが許してくれないとか、家が田舎だからとか、そういうハードルで夢を諦める事はよくあるじゃないですか。
――はい、そうですね。
佐藤 なので、そういったハードルはあるけれど、それは絶対に越えられないものではないんだよ、という作品になれば良いなと思っています。
――バイク、自動車メーカーの「Honda」が特別協賛として関わっている事も、この作品のトピックスの1つですね。
佐藤 「Honda」さんが特別協賛の作品なので、バイクに乗っている高校生の女の子を描こうという事になった時、どんな話ができるかなと考えました。バイクって、自分の足ではいけない場所に行ける乗り物。(活動の)幅を広げて、できない事を可能にしてくれるツールだと思うんですね。そして、そのバイクは、内燃機関を発明した人がいて、自動二輪を作った人がいて、という風に、いろんな人たちが自分の前の道を開けてくれた事によって存在するわけです。そういったところで、バイクともうまく連動した物語として描けていけるのではと思っています。
――公式サイトで公開されているPVの映像も非常に綺麗ですし、完成を楽しみにしています。では最後に、エキレビ読者の皆さんにメッセージをお願いできますか。
佐藤 現在、アニメーションの業界自体が、いろいろとチャレンジをしなきゃいけない中で、「たまゆら」も「わんおふ-one off-」もそれぞれにチャレンジをしている作品です。たくさんのアニメがある中、ちょっとでも気になれば、ぜひとも見て頂いて。気に入って頂けたなら、応援をして頂けると、非常にありがたいなと思っています。
(丸本大輔)