昨日(7.4)放送開始になったドラマ「トッカン 特別国税徴収官」、みなさんご覧になられましたか? 日本テレビ放送網株式会社・福井プロデューサーにお聞きするインタビューの後編、今回は気になるあのキャラクターについての話題からです。
前編はコチラ)

福井 ぐー子の上司である鏡雅愛は、死神とあだなされる人物なんですが、ドラマ化にあたっては、原作にない台詞や実際のお芝居を通してドラマ版の鏡像ができつつあります。
今後も、彼のキャラクターには注目していてください。
ーー鏡の印象がだんだん変化するところも原作の面白いところですよね。最初は本当に嫌なやつに見えるんですけど、行動にひとつひとつ理由があることがわかってくると、その印象が変わってくる。「トッカン」という作品を理解するための鍵を握るキャラクターでもあります。ただ、第一印象で視聴者に嫌われちゃんじゃないかと、そこが心配なんですが……。
福井 わかります。
「リーガル・ハイ」で堺雅人さんが演じられた、勝つためにはどんな手段でも使う弁護士のように、鏡も延滞税を徴収するにはどんな手段でも使うんです。たとえば滞納者がかわいがっている犬を人質にとったりすることもある。
ーー愛犬家を敵にまわしますね(笑)。
福井 「ひどいじゃないか」って思われるかもしれないけど、税金を滞納することそれ自体がルール違反なので、それを理解させて、もう二度としないという気持ちを植え付けるためなんだ、という理由はあるんですよ。そういう深い意図はあるんですが、ただ手段が横暴に見えるというのがあるので、そこは配慮しました。鏡は北村有起哉さんが演じるんですけど、オリジナルの鏡像を出そうとしてお芝居にちょっとずつ取り入れられてるんですよね。

ーーそうなんですか。
福井 北村さんの芝居は、ぐー子につっこまれてやられたな、という表情をするみたいな、可愛らしい感じのキャラクターを足してくださっているんです。だから親しみとまではいかないんですけど、いけ好かないやつっていう感じは和らいでいると思いますね。
ーーちょっと受けの芝居が入っているんですね。
福井 そうです。ぐー子に対しても鏡はドSの毒舌キャラで、彼女の見た目とか、着てるものが安っぽいところとかを指摘するところがあるんですけど、そのつっこみかたもおもしろくつっこんで、笑えるような感じになってます。
ぐー子は原作では眼鏡をしていないんですが、ドラマでは伊達眼鏡をかけています。監督と井上真央さんとの打ち合わせで、伊達眼鏡で自分の正直な気持ちを隠しているというイメージをつけようという話になったんです。
ーーなるほど。メガネっ子になりましたか。
福井 今後なんらかのかたちで、メガネはとることになるかもしれないんですけど、その伊達眼鏡が全然似合ってない、というように鏡がつっこむんです。そのつっこみかたも面白い言い方をされているんですよね。
税金滞納というのは重いイメージの題材なので、なるべくそういうやりとりなどでクスッと笑えるようにしています。
ーー原作には南部千紗という、ぐー子とは何から何まで対照的な女性がライバルとして出てきますよね。上昇志向が強くて、それでいて外見にもきちんと気を遣うという。ぐー子は彼女によって、自分が女子としていかに輝いていないかということを自覚させられます。それで税務署以外の場所で同性の友達を見つけようとしてみたりするんですよね。若い女性の、孤独とまではいかないけど、仕事を抱えてまったく余裕がない、みたいな生活が本当にうまく描かれています。

福井 原作は、働く女性の持つ悩みを、些細なものから大きなものまでうまく表現されているなと思いました。南部は意欲的で、出世欲があるキャラクターですよね。で、ぐー子が知り合った芽夢は、女優になりたいという夢を持った女性の代表です。2人とも、公務員で安定だけを求めているぐー子の対極ですよね。上昇志向の人と、夢を追いかけている人、そのどちらも諦めてしまっているぐー子と彼女たちの対比がすごくわかりやすく描かれています。芽夢は派遣社員をしながら女優を目指しているんですが、職場で後輩だった子が社員に採用されたとたん自分のことをバイトさんって呼びだすとか、そういう世知辛い出来事が、また目に浮かびそうな感じで描写されているんですよ。

ーーよく観察していますよね。たぶん読者にはそこが受けているんだろうなと思います。
福井 女性のいろいろな生き方が描かれた作品なんです。このドラマも、税務署員の働き方を描きたいだけで制作しているわけではないんです。どちらかといえば、高殿さんが描かれている女性を中心とした人間関係と、彼女たちが成長していく過程がドラマとしてはもってこいだなと。
ーードラマで描かれるのは、原作のどこからどこまでになるんですか?
福井 それはぶっちゃけ決まってないんです(笑)。基本的には1巻と2巻の話をおりまぜて、後はオリジナルストーリーも出していくという方向ですね。
ーーまだ終着点は決めてはおられない感じなんですね。
福井 そうです。刑事ドラマとして何か事件が解決するというものでもないし、学校ドラマみたいに生徒が卒業するとか、そういうものではない。勧善懲悪もので最後にすごい大物がいたっていうことでもないんですよね。女の子が仕事を通してどう成長していくかという話なので、終着点はないといえばないんですよ。ぐー子が自分も成長していこうとして頑張り始めるというところを、うまく描ければな、と思います。
ーー原作では、国税庁という機関の特殊性を描いた部分もあって、そこが魅力の1つにもなっていました。たとえば国税庁では大卒よりも高卒のほうが出世をしやすいとか、世間と違うルールで動いているところがあります。小説でそういう部分を読んだときに非常におもしろかった記憶があるんですが、ドラマではどうなんでしょうか。文字と映像で情報量や見せ方の違いもあると思うんですが、どうやって雰囲気を出していくのかな、と。
福井 職場になるべくリアリティをもたせたいのは当然のことです。刑事ドラマにおける警察署のように、ある程度のイメージをみんなが持っている職場でもないので、実際とは違うことを描いてもバレないっていうのはあるんです。だけど、そこはちゃんとリアルに描いて、どういう仕事をしているのか、ということを知ってもらいたいんですよね。今回の舞台は宝町税務署といいう架空の名前なんですが、どこかの税務署にあってもおかしくないレイアウトになっているはずです。そこは結構楽しんで見ていただけると思います。
ーーどこかの町役場みたいなしょぼいセットではなくて。
福井 はい。監督のこだわりもすごく、とてもリアルなセットになっています。奥行き感があって、こんなかんじで税務署が動いているんだなっていうのがわかるはずです。具体的な例でいうと、スポットでも流していた、滞納者に対して徴収官が自己紹介するところですね。
ーー特別徴収官の鏡だって言いながら身分証を見せるところですね。
福井 あれも、ちゃんとリアルに作ってるんですよ。身分証に紐がついているんですが、実際の身分証にも、それを見せた相手に取られないように紐があって、ベルトとかにつけられるようになってるんです。だから詳しい人が見れば、あ、ちゃんと調べているな、とわかるんじゃないかと思います。
ーーへえー。
福井 ただ、鏡だけワイヤー式で伸縮できる紐にしているんです。鏡が自己紹介する場面も、それでいろいろ遊んでいるんですよ。鏡が身分証を見せた後、手を離した瞬間に注目してください。ホームページのPR動画で見られるのでぜひ。
ーー拝見します! 最後にひとこと、ドラマの見どころを教えていただけますか?
福井 井上真央さんの今までにないキャラクターで、すごく自然な形でリアルな女性像を演じていらっしゃる部分を観てもらいたいというのと、出てくる登場人物が完全に悪い人じゃないというところですね。たしかに税金のお話なんですけど、出てくるのは贅沢をしたいから払っていないという人だけじゃなくて、いろんな事情を持つ滞納者が出てきます。それに対してぐー子が格闘する場面を描いているので、人間ドラマとしても奥行きがあると思います。あと、現在は公務員に対してお金を無駄遣いしているというイメージがあって風当たりが強いですが、税金というものについて考えるきっかけになればいいな、と思っています。

今後ともお楽しみに。原作もおもしろいから、ぜひ読んで見てくださいね。
(杉江松恋)

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