1月から放送中のTVアニメ「AKB0048 next stage」
アイドルグループ「AKB0048」に加入した9人の研究生たちが、伝説のオリジナルメンバーの名の襲名を目指すというこの作品。
先日放送された20話(2期7話目)では、ついに襲名者第1号が。それは、研究生のリーダー東雲彼方でも、選抜総選挙で6位と大躍進した園智恵理でもなく、癒し系セクシーキャラの岸田美森という意外な展開。しかも、襲名したのは、キャラクター的には正反対にも思える「篠田麻里子」の名。
河森正治総監督インタビューの後編は、物語の後半戦でもキーとなる「襲名」というシステムの謎から探っていきます。
(前編はこちら

――研究生の誰が、最初に襲名するのかは1期からの争点でしたが、美森が最初とはかなり意外でした。美森が襲名することは、初期段階から決まっていたのですか?
河森 まったく決めてなかったですね。
最初から、あえて誰が襲名するか決めないままスタートしようと思っていて、1期のシナリオ作業が終わったときも、まだ決めてなかったんですよ。だから、2期(のシナリオ会議)が始まったときから喧々諤々。この作品で、何が一番、論議の的になったかといえば、誰が襲名するか。そして、誰を襲名するか、でしたね。もう、タイムアップギリギリまで考えてました。
――しかも、襲名するのが、篠田麻里子というのも、かなり予想外です。

河森 (襲名するオリジナルメンバーと)単に顔や雰囲気が似てるってだけでは、物まねになっちゃうので。襲名というのは、そういうことではないというのは、見せたいと考えていたんです。それで、制作を始めた最初の頃、「魂の資質が似ている」という言い方を思いついて。その方向では進めていたんですけど、それでも、まだ足りないな、と。目指していく方向性とか、勢いとか、そういうことで(名前が受け継がれる)というのは、作りながら見えてきたところですね。
――1期では、研究生の彼方が、次の高橋みなみになるのか、というエピソードがありました。
この二人には、リーダーシップという分かりやすい共通点がありますが、美森がマリコ様というのは、もうひとひねりした形ですね。
河森 そうですね。マリコ様を襲名したいと言ってたキャラ(研究生の一条友歌)もいるわけですし。でも、自分が思っている通りにいくことが、必ずしもベストとは限らないんですよね。自分も10代の頃とかは、やりたいことをやれるのが一番良いと思っていたけど。結果で見ると、自分の思ってるものと、本当に自分の力を出せるものって、少しずれてたりする。
意外なところに、本人も思わなかった可能性があったりするんですよ。
――分かる気がします。
河森 そういう例を何人も見てるし、自分もそうだった。なので、本当の「襲名」も、本人が思ってるのとは、ちょっと違うところにこそあるんじゃないのかなということは描きたかった。そんなことをいろいろと考えていたら、そうだ「上からマリコ」があるじゃないかって気がついて。この曲は、このためにあったんだってくらいに思えたんですよね。

――それで、「上からマリコ」の曲とともに、新しいマリコ様がステージの上から降りてくるシーンが生まれたわけですね。では、AKB0048の支配人兼プロデューサーとして1期から登場しているツバサが、先代の篠田麻里子という設定は、二人のマリコ様を対比させるためではなかった?
河森 もちろん考慮はしましたけど、結果的にはたまたまです(笑)。
――たまたまでしたか(笑)。でも、後から考えてみれば、同期の彼方や後輩を後ろでそっと支える存在の美森が、篠田麻里子というのは、なんとなくしっくり来るなあとも思います。
河森 実際の篠田麻里子さん自身、気さくな雰囲気があって、メンバー思いだという話も聞いていたので。そう考えると、(研究生の中で)お姉さん系の75期生がなった方が良いし。
実際に美森がやってきたのって、そういうことだよな、と。それは、最初に決めて配置したわけじゃなくて、描いているうちに自分たちも発見した感じですよね。ふいに光明が差したみたいな。とか言いながら、それを決めてからも3、4週間くらい、いや違うんじゃないかとかいろいろ考えたりはしてましたが(笑)。
――美森がマリコ様を襲名したことで、今後、誰が誰を襲名するのか、予想が一気に難しくなりました。非常に楽しみです。
河森 声優選抜として選んだ9名の(演じるキャラクターの)誰もが主人公であるという視点は、絶対に変えないでいこうと思っていて。尺の関係で、9人のキャラを完全に均等に描くことはできないけど、どんな子にもチャンスがあって、どんな子でも輝く瞬間があるというのは大事にしています。襲名の回(20話)でも、美森だけじゃなくて、彼方のスピーチも、すごく効いてくるようにしたつもりですし。
――美森との掛け合いですね。その前にある、たかみな(5代目高橋みなみ)と彼方の会話も良いですよね。たかみなが、「今からでも、うちを追い出して、襲名する?」と問いかけるシーン。
河森 たかみなと彼方のところは、(1期の)7話から続いている話を拾いたいけど、どこまで踏み込んで、どこまで言わせようか、相当考えました。これだと言い過ぎなのかな、とか。でも、AKB48グループの子たちなら、これくらい言ったり言われたりしてるだろうな、って。
――体育会系なイメージがあるので、言ってそうですよね。では、ここから物語も本当のクライマックスに突入していくのだと思うのですが。今後の見どころについて教えてください。
河森 もう、21話から大展開ですよ。その後も、大展開がどれだけあるかってくらいで。いきなり「マクロス」よりもハードになるかもしれない(笑)。
――まるで、別作品くらいの展開に?(笑)
河森 ええ。最近というか、この10年くらいかもしれませんが、作品をジャンル分けして話すことがすごく多いじゃないですか。萌え物、ロボット物、ファンタジー物、アイドル物……という風に。
――はい。多いですね。
河森 僕は、そういうレッテルが大嫌いなんですよ。なんで、自分で自分の可能性を狭めなきゃいけないんだという思いがあって。(一度に)全部やりたいんだから、全部やらしてよっていう。良い悪いの話ではないんですけど、昔の作品はバラエティに富んでたんですよね。自分には、(1クールの)13本を同じテイストで作らなきゃいけないのは耐えられない。現実の世の中って、いろんなことが起きていて。今この瞬間にも、どこかでアイドルは歌っているし、同時にどこかで戦争や紛争は進行してる。それが現実の地球だから。そういう色々な要素が散りばめられている方が、自分にとっては面白い。たまたまですけど、題材にしたAKB48というグループの動きそのものも、ライブ、選抜総選挙、握手会、コント、ジャンケン、被災地支援と、何でもありな感じですし。
――だからこそ、バラエティ感のある作品になっているんですね。まだ、明かされていない謎も多いですが、今後の回を観る前に、復習しておいた方が良いエピソードやシーンなどがあれば教えて下さい。
河森 本当に細かいところにまで伏線を張っているので、できたら、もう1回、1期から観直していただけたら、ありがたいくらいです。それも、大きな画面、良い音響で、集中して。というのも、自分のかかわってきた作品は、「ながら見」に向かないんですよ。多少、目を離しても楽しめるのがテレビ番組だと言われても、そういう風には作れない。「ながら見」で観て、分かりにくいと言われても、「すいません。ながら見用には作ってないんです」と言うしかないんですよね。自分たちの学生時代はビデオが無くて。好きなアニメは、電気を消して正座して観るという時代に育っているので(笑)。映画を観るくらいの気持ちで、集中して観てもらえたら嬉しいですね。そうなったとき、伝えたい表現がMAXになるような設計をしているので。
――それだけ情報量を多く作っているから、何回も楽しめるわけですね。
河森 そういうところはあるかもしれません。あと、「マクロス」のときもよく言ってるのですが、歌がかかるシーンは特に情報量が多いので、まず1回は普通に観て楽しんでいただいて。その後、繰り返し観る中で歌詞が聞こえはじめると、そのシーンに別の意味が見えてくる。そういう作りにしています。
――では、音楽についても教えて下さい。作中にはAKB48の楽曲も数多く使われていますが。劇伴(BGM)については、AKB48の楽曲とのバランスなどは、どの程度意識して、作られているのでしょうか?
河森 2パターンの曲を発注していて。まず、普通の劇伴としての曲が半分。残り半分は、AKB48の楽曲の中から、自分たちがセレクトした曲のアレンジ版を作っていただいたんです。ただ、原曲をそのままアレンジするのではなく、最初の10秒か20秒くらいは全然違うオリジナルの曲として始まって、そこからふいに(AKB48の楽曲に)なっていくみたいな。そういう形の方が、いろいろと盛り上がるかなと。
――確かに、AKB48のファンであればあるほど、効果的ですね。
河森 1期のBlu-ray第5巻には、サントラのCDがついてるんですけど。AKB48の楽曲を好きな人にとっては、かなり良いCDになってると思いますよ。
――Blu-rayは持ってないので、気になります……。では、最後に読者へのメッセージをお願いします。
河森 「next stage」が13話まである中、たった4話目で総選挙を終えたのも、他にやりたいことがいっぱいあるから。本当に毎回、最終回を作るくらいのつもりで作っていて。毎回、違うテイストになっています。それこそ、途中で作品のスタイルが変わってると思われても、仕方ないくらい、いろんな表現を試しているので。繰り返しになっちゃいますけど。できるだけ、大きな画面、良い音響で。もし自分の家に大きなテレビが無かったら、そういう友達を探して(笑)。何人かでわいわい言いながら観てもらっても良いのかなと。あとは、もし余裕があれば、昨年の「AKB48」のドキュメンタリー(「DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on少女たちは傷つきながら、夢を見る」)を観ておくと、さらにいろんな楽しみ方もできるのかなと思います。これからも、センターノヴァ復活や、14代目前田敦子襲名など、怒濤の大展開をお観せすべく、スタッフ一同、全力で突っ走っておりますので。ぜひご期待ください。
(丸本大輔)

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