『かぐや姫の物語』は夏、『風立ちぬ』と同時に別映画として公開予定でした。
それが伸びて伸びて、11月23日から公開になりました。

札幌の映画館には、ジブリの鈴木敏夫が、こう書かいていました。
「高畑監督 死んで貰います」
なんともギョッとする言葉ですが、詳しくは後ほど。
ただ、それだけの発言が出るほどの映画です。この映画の見所を7点ご紹介。

1・原作に忠実です
原作に極めて忠実です。
なので「ネタバレもへったくれもねえ!」という感じがしそうなんですが、ネタバレはあります。

なのでパンフレットは終わってから読みましょう。
誰もが知っている「竹取物語」って、そもそも面白さってわかりづらいわけですよ。
それを高畑勲が解釈を加えることで、「かぐや姫」というキャラクターをがっちりと立たせ、彼女の葛藤や苦しみを表現し、物語を作りました。
月に帰るのはなぜなのか、なぜ彼女が求婚者に無理難題を言ったのか。すべて「かぐや姫」の心情にあわせて解釈しています。
「竹取物語」を読んで予習してから行くと数十倍楽しいかもしれません。
でも、絵本知識でも十分です。

2・日本の『アルプスの少女ハイジ』
この作品は、クララが立たなかった「ハイジ」です。
高畑勲と宮崎駿が作った1974年のアニメが『アルプスの少女ハイジ』。
これの日本版をやりたいと言って40年。高畑勲が作った日本版ハイジが『かぐや姫の物語』です。
どこが「ハイジ」なのかは、実際に見て確かめてください。

かぐや姫が、ここまで親身に感じられるキャラになるとは思わなかった。

3・女童に注目
かぐや姫が都に出てからのシーンで、常にいるのが、侍女として使える女童。
これがもう、すんごいかわいいのよ。高畑勲キャラでは、屈指のかわいさ。
この子だけ、妙にアニメチックなので、どえらい浮きっぷりです。
見る人によって捉え方が変わるキャラだと思いますが、彼女がいったい何なのか、注目してください。

何なんだあの子。

4・地井武男の作品として
姫を本当に愛して愛してやまない竹取の翁を、地井武男が演じています。
声を先に入れて、絵を後から入れるプレスコでの収録。全編きちんと演じきっています。
彼の声が、絞りだすように姫に向かって伸びていくのは、ぜひ聞いていただきたい。

5・背景と人は境界がない
水彩画タッチ、鉛筆画タッチで描かれる本作。

背景とキャラクターが一体になって、絵全体が動いているような技術で作られています。
普通のアニメと明らかに技法が違う。それが不思議と、違和感なく体に入ってきます。

6・和音階の音の面白さ
作中でわらべうたが何度か登場するのですが、この歌と、かぐや姫の歌う歌と、お琴で弾く曲の対比が凝っています。
一つは「違和感」。もう一つは別の音なのに「しっくりあっている感」。

これはぜひ、かぐや姫演じる朝倉あきの歌で聴き比べてください。

7・終わらせたくない映画
最初にあげたように、この映画はものすごい時間かけた上に、上映延期をしています。
8年です。長い。
同じ時期に『風立ちぬ』を作っていた宮崎駿は、早く終わらせたい、結末を付けたい、という作家。なのでピシっとスケジュール管理して完成させる、と鈴木敏夫は『夢と狂気の王国』で述べています。
しかし一方で、高畑勲は『かぐや姫の物語』を完成させる素振りがない。鈴木敏夫も今作のプロデューサー西村義明に「選択肢は二つしかない。高畑勲を選ぶか、映画を選ぶか。」と言っています。
つまり、映画きちんと完成させたいなら高畑勲を辞めさせろと。絵コンテ30分で5年かかっています。
そのくらい凝りすぎて進まない。周りはやきもきしてたまらない。

それでも、映画を見た今だから言えますが……これは作っていて終わりたくなかったんだろう
映画製作の「終わらせたくない」と、かぐや姫の気持ちは、シンクロしています。
個人的には『風立ちぬ』と『夢と狂気の王国』を見てから『かぐや姫の物語』見るのをオススメします。
バラバラでもいいんですが、この順番が、より楽しめます。


キャッチコピーの「姫の犯した罪と罰」をなんとなーく頭に入れて、見に行ってください。
個人的には、一人で観に行くのをオススメしたいです。
終わった後に語りたいのもやまやまなんだけど、一旦心を整理したくなるし、反芻したくなるんですよ。
ちょっと待って、一人で考えさせて、ってなる映画です。
こりゃ8年もかかるわ。


(たまごまご)