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「火村英生の推理」7話。火村の内面が見えてきた

2016年3月6日 10時00分 ライター情報:杉江松恋
「崖の上で『犯人はこの中にいる』ですって。まるでよく観る、サスペンスドラマですね」
「臨床犯罪学者 火村英生の推理」第7話、2年前に起きた黄昏岬殺人事件の容疑者を集めて「挑戦状」を叩きつけた火村英生に、その中の1人がこう言いながら食ってかかった。第5話までの斎藤工の演技は、芝居がかった台詞廻しや他人を置き去りにする行動(『犯人の名前はわかっているが今はまだ言えない』)などの名探偵の記号的な振る舞いを極力採用せず、自由に火村英生というキャラクターを作っているように見えた。にもかかわらず「朱色の研究」前後編では名探偵的演技が取り入れられていたのは路線変更が行われたのか、それとも冒頭の台詞のようにお約束をパロディ化するためのものなのか。
そのへんの意図が見えないので、疑問符の残った回だった。次回予告に「火村英生の闇が深化する」とのキャッチがつけられていたので、あるいはその布石なのかもしれない。今夜放送の第8回を観るまで、とりあえずは判断保留である。

2つの謎解き


さて「朱色の研究」編だが、長篇を支える謎解きそのものは見事にドラマへと換骨奪胎されていたのである。本編の原作には2つの謎解きが含まれ、ドラマで2分割するには適した題材であったが、脚本はそれをきちんと短い時間で説明してみせた。
火村英生登場作の長篇は8作あり、第2長篇の『ダリの繭』は前々回にドラマでも使われた。最初の『46番目の密室』と、〈国名シリーズ〉に含まれる『スウェーデン館の謎』『マレー鉄道の謎』(日本推理作家協会賞受賞作)の3つには、いずれも密室殺人事件を含まれている。有栖川作品の中でも特に印象に残るトリックが使われた3篇でもあり、この先もし〈国名シリーズ〉の長篇が書かれるとすれば、同様にトリック重視の作品になるのではないかという予感がするのだ。
それに対して前出の『ダリの繭』と第3長篇の『海のある奈良に死す』は、アリバイ崩しのような「手順」を重視した内容だ。小さな論理を積み重ねていくことで探偵が解に達するというような謎解きのスタイルであり、有栖川の作風がよく現れている。この延長線上にあるのが『乱鴉の島』である。この作品で有栖川は、アリバイ崩しの他にもう1つサプライズを準備して読者を楽しませてくれた。2015年の『鍵の掛かった男』ではさらに、本筋の犯人探し以外に、被害者の来歴そのものがヴェールに包まれているという、過去へ遡っての謎解きという要素が加わった。

ライター情報

杉江松恋

1968年生まれ。小説書評と東方Projectに命を賭けるフリーライター。あちこちに連載しています。

URL:Twitter:@from41tohomania

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