『奥様は、取り扱い注意』(日本テレビ系)では、現代の女性を取り巻く問題が各話ごとにフォーカスされる。第3話のテーマはいじめ、もっと言うと“ママ友いじめ”であった。

“いじめられる側”なのが清水理沙(小野ゆり子)で、“いじめる側”は幼稚園で君臨するママ友らのボス的存在・相良貴子(青木さやか)。なんと貴子は、元女子プロレスラーである。

第3話あらすじ


街でカツアゲする高校生を撃退中の伊佐山菜美(綾瀬はるか)を目撃した理沙は、「私にケンカのやり方を教えてほしいんです!」と菜美に懇願する。
サッカーのキッズスクールで同じポジションを争っていたものの、我が子ではなく理沙の子が選ばれてしまったことに憤慨した貴子が、ママ友たちと一丸となり理沙へのいじめをスタートさせた。「文句を言いたくても、ボス(貴子)の前に立つと何も言えなくなっちゃって」と、ハートの弱さを自覚する理沙が、そんな自分を払拭しようと立ち上がった格好だ。

青木さやかの顔がスゴすぎる


第3話の青木さやかは、演技賞ものだ。あまりにもな熱演に、途中で笑ってしまったほど。おかしいから笑ったのではなく、スゴいものを見て気圧されてしまったゆえに生まれる笑い。


いきなり、スゴいのだ。5人のママを舎弟のごとく従え、公園のベンチに“デン!”と座る貴子の化粧は異常に濃く、ヒールレスラーそのまま。そんな、分厚くて真っ赤なルージュを塗らなくても……。これは、周囲を威嚇する彼女の心理を表しているのだろうか? だって、彼女らの“縄張り”である公園に一人で現れた菜美を目にするや、理由なく排除しにかかるし。
「奥様は、取り扱い注意」3話。ママ友社会のいじめの構造が熱い、青木さやかのボスっぷりに圧倒される
イラスト/Morimori no moRi

家庭内での貴子もスゴい。ドリルをやらずテレビを観る息子に「さっさと部屋に戻りなさい!」と詰める時の表情は鬼の形相でしかなく、とても我が子を見る親の眼差しだとは思えない。

貴子と別れたがっている夫と対峙する際の顔つきも、迫真。「勝手に出ていって」「家を守る人間が必要でしょ? 弱い人間にはできないわ!」と、夫と復縁したがってるくせにどうしても威嚇してしまう裏腹っぷりは、自分をコントロールし切れていないように映る。

スーパーで菜美と対面した際の貴子もスゴい。店内で仁王立ちになりながら菜美を凝視し、ツカツカ歩み寄って「私にはわかるわ。アンタ、只者じゃないでしょ?」と詰問する時のアップは、もはや顔芸。現役時代の彼女は、獄門党にいたのだろうか?

一方、“いじめられっ子”だった理沙は、菜美の指導を受け次第にたくましくなっていく。
貴子らママ友軍団とすれ違っても逃げずに挨拶を交わせるようになったし、大原優里(広末涼子)と佐藤京子(本田翼)という新たな友人もできた。それどころか、貴子の悪行に愛想を尽かした2人のママは寝返り、理沙へ謝罪。菜美のトレーニングを受ける新たな仲間に加わった。
「もう少しで小さな檻の中に閉じ込められるところでした。こうして、空の広さがわかって良かったです!」(理沙)
「連絡網が回ってこない」「ごみの出し方にクレームがつく」「近所の公園に行けなくなった」といった嫌がらせに心を弱らせていたのは、過去の話。狭い世界で生きていると些細なことを重大なトラブルと捉えてしまうが、物事を大局的に受け止める新たな自分を手に入れることができた。


充実する理沙と対象的に、夫から離婚届を差し出されてしまうなどドツボにはまっていく貴子。ついにレッドゾーンに達した彼女は自転車を漕ぐ理沙を待ち伏せし、なんと押し倒してしまったのだ。倒れる理沙を睨む貴子の表情は、完全に狂人のそれ。

“いじめっ子”貴子に感情移入していた菜美


ここまでの展開を振り返ると、ドラマは勧善懲悪に向かうしかない気がする。理沙という存在への感情移入は不可避で、貴子は憎むべき対象として打ってつけだ。菜美がいつものように得意のアクションでやっつけてしまえば、一件落着だろう。


しかし、不意に貴子が露わにする“素”が気になる。勉強しない我が子を叱り飛ばした後、目をつむって胸を抑え、なんとも言えない悔恨の表情を見せる貴子。夫が帰宅するや、玄関へ走り出迎える時の微笑は女が出まくっている。

そんな貴子の家へ出向き、直接対決を申し出る菜美。公園での決闘に至る2人であったが、貴子の主張がいちいち自分勝手だ。
「うちのダンナが保護者会の帰りにボソッと言ったのよ。
あいつ(理沙)のことを『優しそうで可愛らしい人』だって!」「私は強いのよ? だから、必死に家族を守ろうとした。それのどこがいけないのーっ!?」

それにしても、貴子は弱い。菜美に殴りかかろうとするも、あっさりよけられ腕関節を極められて「はぁ~ん!」という悲鳴を上げてしまったり、倒されて大の字になって「くぅ~ん」と子犬のようなうめき声を漏らしたり……。

そんな貴子の弱さを見透かしていた菜美。
「あんたは、私がこれまで闘った相手の中で一番弱かった。びっくりするぐらい。だから、自分の弱さを認めて、肩から力抜いて、みんなの力を借りて生きていけばいい」(菜美)

菜美が感情移入していたのは、理沙よりも貴子の方らしい。幼き日の菜美は腕力を発揮し、養護施設のボスに君臨していた。
「狭い場所でボスを気取って、誰にも負けないように強くなって、そうやって私が行き着いた先は、信じる人が誰もいない荒野のようなところだった」(菜美)

決闘で完膚なきまでに菜美にやっつけられた貴子。彼女は、自転車走行中に押し倒した理沙の家に赴いた。骨にヒビが入り、包帯を巻いている彼女の前に立ち、「本当にごめんなさい」と謝罪する。この後、2人は親友になった。

「問題を圧倒的な暴力で解決する綾瀬はるか」という鉄板の流れは崩さなかったものの、今回の“いじめ”への焦点の当て方はちょっとだけ変化球。被害者の辛さ苦しさをフォローしつつ、加害者がどのようにしていじめから足を洗うかについても描写。
この流れは、強者・伊佐山菜美が主人公だからこそ成立した展開。「元・特殊工作員」という菜美の設定が、見栄え以外の面でようやく有意義に活かされたという印象だ。
(寺西ジャジューカ イラスト/Morimori no moRi