彩加「私がダメなお母さんだって言いたいの……?」

「そんなことないよー!」と応援上映したくなった金曜ドラマ『コウノドリ』(TBS系列)。(原作
第1話で登場したキャリアウーマンママ・佐野彩加(高橋メアリージュン)が、とうとう赤ちゃんを置いて消えてしまう。
産後うつと妊娠出産に関する迷信の問題を描いた10月27日放送の第3話。平均視聴率は11.9%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)だった。
「コウノドリ」3話「私がダメなお母さんだって言いたいの?」\そんなことないよー!/応援上映したかった
原作漫画の最新刊 鈴ノ木ユウ『コウノドリ』20巻(モーニング KC)

第3話 あらすじ


健診のために産婦人科医・鴻鳥サクラ(綾野剛)のもとを訪れたのは、妊娠39週の妊婦・山崎麗子(川栄李奈)。心臓病を抱えているため、サクラは無痛分娩を提案する。だが、祖母に「妊婦は火事を見てはいけない」と言われたり、友だちに「無痛分娩するなんて、こどもより自分の方が大事なのか」と言われたりと、麗子は周りの意見に振り回されてしまう。
一方、新生児科医の白川(坂口健太郎)と助産師長の小松(吉田羊)は、仕事に早く復帰したいと焦る母親・彩加を心配していた。

怖すぎる! 迷信、無神経な周りの言葉


妊婦が火事を見たら、アザがある赤ちゃんが産まれる。
3歳までは保育園に入れず、母親と一緒にいた方がいい。
赤ちゃんの疾患は、出産ギリギリまで働いていた母親のせい。
夫が外で働く、母親はこどもを育てるのが一番いい。
妊婦は体を冷やすことは厳禁。
お腹が前に大きく張っていたら男の子が産まれる。
無痛分娩で産むのは、赤ちゃんより自分のことが大事な人。自然に産んだ母親にはかなわない。


たった1話の中で、母親をとりまく無神経な言葉をこれだけ盛り込んだ。
妊娠出産を経験していない筆者でも、ほとんど聞いたことがある。筆者の母も昔、こういった言葉で責められていた。数年前にこどもを産んだ知人は、3話を見て妊娠中に言われた無神経な言葉を思い出し、泣いてしまったという。妊娠したらこういう言葉を悪気なく投げかけられるのかと思うと、怖気づいてしまう。
ドラマでは、サクラと四宮(星野源)がひとつひとつ丁寧に否定していってくれた。

サクラ「山崎さん、妊娠出産はひとりひとり違います。考え方も、人それぞれです」

友だちに言われた迷信を信じて自然分娩を希望した麗子だったが、サクラや夫の友和(喜矢武豊)の説得で無痛分娩を選択する。
確かに、ただ無痛分娩と聞くと、痛みも何も感じないのではないか、産んだ実感が湧かないのではないかと不安だ。でも、麻酔が効いていても、3kg前後もある赤ちゃんが体の外に出るとなれば、ちゃんと感触もあるもの。
「あ! 赤ちゃん、出てる気がする。なんか、いま私、赤ちゃん産んでる!」と出産を体感した麗子の笑顔。
喜びがじわっと染み出てくるような笑い方で、とても可愛かった。お母さんが安心してくれていると、赤ちゃんだけでなく見ている我々まで嬉しくなるんだな、と気づきがあった。

「お父さん、まだ挽回できますよ」と明言しない優しさ、厳しさ


「コウノドリ」3話「私がダメなお母さんだって言いたいの?」\そんなことないよー!/応援上映したかった
鴻鳥サクラのモデルとなった医師・荻田和秀の著書『妊娠出産ホンマの話 嫁ハンの体とダンナの心得』(講談社 α文庫)

産後うつの状態になってしまった彩加。娘のみなみを病院の受付に置き去りにし、屋上から身を投げかけるが、四宮に引き留められる。
ずっと仕事をがんばってきた彩加なのに、産休・育休中に、自分の持っていたプロジェクトや立場を別の人に代わられてしまう。夫の康孝(ナオト・インティライミ)は育児に非協力的なのに「イクメン」と呼ばれ調子に乗っている。実母の「仕事はあんたの代わりはおる」という言葉も、彩加を追い詰めた。

かっこつけの康孝は「(悩みを)言ってくれよ。夫婦は2人でひとつって、お義母さんも言ってたじゃない」と、彩加のせいにする。すかさず四宮が「なんだそれ」と一蹴。

康孝「総攻撃でした。でも仕方ないです。
俺、ダメな父親ですし、ダメな旦那です」
今橋「気持ちわかりますよ。僕もダメな父親で、夫です」

周産期センター長の今橋(大森南朋)もまた、仕事の忙しさから育児に参加できていない父親だ。
康孝や今橋のような父親はたくさんいるのだろう。そういう父親をガンガン責めて終わりにしないのが『コウノドリ』の優しいところ。父親たちの意識と行動が変わる未来を期待してくれている。

今橋「こどもにばかり目が行きがちですけど、お母さんは、誰にも『頑張ったね』と褒めてもらえない。自分も反省です」
康孝「俺、まだ挽回できますかね……」

「できますよ!」と声に出して肯定はしないが、後ろ姿の今橋がとても大きくうなずく。
わざわざ顔を映さず、言葉にもしなかった。それは、本当に可能かどうかは今橋の言葉ではなく、ドラマを見ている父親たちひとりひとりの行動にかかっているのだというメッセージだと感じた。
無言であることの重みを上手に使って、視聴者に「責任」を受け渡してくれたシーンだ。お父さんたち、よろしくお願いします。

そうは言っても何をしたらいいのか不安なお父さんや男性たちは、サクラのモデルとなった産婦人科医・荻田和秀の著書妊娠出産ホンマの話 嫁ハンの体とダンナの心得(講談社)を読んでみるのがおすすめ。

夫はどんな知識をつけたらいいか、妻の不安にどう対処したらいいか、ちゃんと書かれてあって安心できますよ。

ゲスト俳優として安めぐみ、木下優樹菜が登場予定の第4話は、今夜11月3日(金)よる10時から放送予定。
第3話は、TBSオンデマンドAmazonビデオTVerで配信中です。まだ見ていない方は、ぜひ。

(むらたえりか)

金曜ドラマ『コウノドリ』(TBS系列)
出演:綾野剛、松岡茉優、吉田羊、坂口健太郎、宮沢氷魚、松本若菜、星野源、大森南朋、ほか
原作:鈴ノ木ユウ『コウノドリ』(講談社「モーニング」連載)
脚本:坪田文、矢島弘一、吉田康弘
企画:鈴木早苗
プロデューサー:那須田淳、峠田浩
演出:土井裕泰、山本剛義、加藤尚樹
ピアノテーマ・監修・音楽:清塚信也
音楽:木村秀彬
主題歌:Uru「奇蹟」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
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