“NOTHING BEATS FUKUSHIMA, DOES IT?”(福島はどんなことがあってもくじけないぜ)。
このメインスローガンを旗印に、9月14日(水)から19日(月・祝)までの6日間にわたり、福島県の6会場にて野外ロック・フェス<LIVE福島 風とロックSUPER野馬追>が開催された。

東日本大震災による津波、原発事故。そこから派生する風評被害とさまざまな困難に直面する“福島”を音楽の力で元気にするために。そして“FUKUSHIMA”としてその名を知られることになった福島の今をそのまま世界に発信するべく、奥会津・会津若松・猪苗代・郡山・相馬・いわきと、広大な福島県を西から東へ1日ずつ会場を変えながらの移動型野外ロックフェス。その中のメイン会場であり、私自身の故郷でもある郡山会場に足を運ぶことにした。
9月17日(土)午前8時20分、新幹線で郡山駅に到着。磐越西線に乗り変え会場のある磐梯熱海駅に向かう。
普段乗客が立っていることすら珍しい電車がすし詰め状態となり、早くもこれからの熱狂度合いが伺えた。磐梯熱海駅に到着すると地元小学生による鼓笛隊とさっきまで振っていなかった雨が出迎える。駅から会場まで続く行列はなかなか進まず、開演時間ちょうどの10時にようやく会場となる「磐梯熱海スポーツパーク」にたどり着く。ステージでは「LIVE福島」実行委員長を務める郡山市出身のクリエイター箭内道彦氏が開会宣言をするところだった。


<福島の希望の星、猪苗代湖ズ>

タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE」の広告ディレクションやNHKトップランナーの司会として世間的にはおなじみの箭内氏だが、多くの福島県民には「猪苗代湖ズの金髪の人」としての認知度のほうが高い。おなじく福島県出身の山口隆(サンボマスター)、松田晋二(THE BACK HORN)、渡辺俊美(TOKYO NO.1 SOUL SET)の4人によって結成された「猪苗代湖ズ」は、震災以降、福島の人々にとって希望の星となっている。


猪苗代湖ズが歌う震災復興チャリティーソング『I love you & I need you ふくしま』は、県内の街中で、テレビやラジオを通して耳にしない日はないほど深く福島県民に浸透し、愛されている。
北会津に住む70歳の私の叔母は、同郷の若きスター・サンボマスターのことは知らなかったのに、「この猪苗代湖ズっていうのはいいべしたぁ。CD何枚も買って周りのみんなにすすめてんだぁ」と会津弁で熱く語っていた。一人息子と奥さんを群馬に疎開させてひとり福島に残った学生時代の先輩は、週に一度しか会えない息子の写真を携帯の待受画面に、着信音を『I love you & I need you ふくしま』に設定していた。
みんな『I love you & I need you ふくしま』に励まされ、勇気づけられていた。
福山雅治やRIP SLIYMEをはじめ多数の有名アーティストが名を連ねる「LIVE福島」においても、多くの観客は猪苗代湖ズが一番のお目当てだ。
その証拠に、来場者の中には60~70歳以上の高齢の方、主婦友達の集まりと思われるグループ、小学生や幼稚園児をつれた親子連れなどなど、野外ロックフェスには似つかわしくない面々が多数見受けられた。

LIVE福島4日目のトップバッター・RIP SLYMEがステージに飛び出すと、パラパラと振っていた雨がやみだした。「さっきまで雨だったのにやっぱり持ってるよね、RIP SLYMEが…じゃなくて福島が!」RIP SLYME・RYO-ZのMCに盛り上がる観衆。スタート時の入りはまだ7分程度だったが、そこから、怒髪天→EGO-WRAPPIN→高橋優→THE BACK HORNと進むつれどんどん来場者は増え続け、12時を過ぎる頃には1万5千人の観衆で会場が埋めつくされた。福島県出身のTHE BACK HORN松田は「福島に19年いたけど、こんなに音楽で盛り上がれるなんて知らなかったよ!」と嬉しそうに叫んだ。実行委員長の箭内は人の流れが制御できなくなった会場に対して注意を呼びかけながら「福島の人は引っ込み思案だったはずなのにどうしたんだい?」と笑った。




<日本のロックフェス発祥の地・郡山>

雨がふったりやんだりを繰り返した天候は13時30分、シークレットゲスト・内田裕也を迎え、むしろ夏の日差しに切り替わっていた。「福島は約40年ぶりです。ヨロシク!」と内田裕也がおなじみの口調で挨拶をする。今回のライブを通してはじめて知ったことだが、日本で最初の本格的野外フェス「ワンステップフェスティバル」が1974年にここ郡山市で開催され、オノ・ヨーコやキャロルなどとともに内田裕也も参加し、5日間で7万人を超える観客が集まったという。いわば郡山は、日本のロックフェス発祥の地なのだ。自分の生まれ故郷のことを何も知らなかったことへの恥ずかしさと、今更ながらの誇らしさがこみ上げてくる。

その後も、こちらも福島県出身の渡辺がウォーカルを務めるTOKYO NO.1 SOUL SET、二組目のシークレットゲスト・ユニコーンが熱狂をつなげ、そして15時過ぎ、予定よりも30分遅れで会場が待ち望んだ地元の英雄・サンボマスターが登場した。
『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』『できっこないを やらなくちゃ』などのヒット曲でこの日一番の盛り上がりをみせる。あまりの興奮度合いに戸惑いをみせる年配の方も多い。だが、観客が一番待ち望んでいるのは別な曲だ。サンボ・山口の登場は、あの曲が歌われることを意味している。
『I love you & I need you ふくしま』。
猪苗代湖ズバージョンじゃなくても、一回でも多くこの「福島の歌」を口ずさみたいのだ。

恥ずかしがってんじゃねーぞぉ!福島ぁーっ
お前らのチカラはそんなもんかぁ?福島ぁーっ

観衆の想いを受け、それをさらに増幅させるために歌の合間も叫び続けるサンボ・山口。この日一回目の『I love you & I need you ふくしま』を歌い終わると同時に、私を含めた多くの観客が体力を使い果たしてその場に座り込んだ。そんな会場をクールダウンすべく、BEGIN、長澤まさみ、西田敏行のしっとりとした歌が後に続き、観衆も少し落ち着きを取り戻す。
そして本日のスペシャルゲスト・福山雅治を迎え、また会場は熱気に包まれ始める。「お世話なっているアサヒビールさん、ダンロップさんの工場が福島にあります!」とそれぞれのCMソングを奏で、「福島が誇る三春の“滝桜”を思い浮かべてこの歌を歌います。」と『桜坂』を歌いだした。まぶしいピンクの照明の向こうの空は、もうすっかり日が落ちていた。


<一人一人に、思い出の「福島」がある>

この日、ステージに立ったアーティストはそれぞれ、福島との思い出を語ってくれた。
西田敏行は阿武隈川でベコ(牛)の糞にまみれながら泳いだ少年時代の思い出を語り、福島への郷愁を語った。
福山雅治はデビュー当時、福島のイベント会場で厳しい下積み経験をし、それが今の自分に繋がったと語った。
猪苗代湖ズの渡辺は生まれた育った双葉町が原発からの避難区域のため実家は崩壊してしまったとつぶやき、でも帰る故郷がなくなったと思ったらここが帰る場所だった。と語った。

一人一人に、思い出の「福島」がある。そんな自分たちの故郷を思い浮かべながら、今日だけで何回「福島」と叫んだんだろう? 何回「福島」と呼んでもらえたんだろう?
だが今、「フクシマ」という単語は、基本的にマイナスイメージとともに使われている。震災以降、福島県からは2万人を越える人口が県外へ流失している。友人の小学校教師は「毎週のようにお別れ会がる。授業計画も建てられない」と嘆く。今、県に残る199万人は「なぜまだそんな危険な土地にいるのか?」と言われることもある。福島県民の多くが自信を失ってしまっている。だから、僕たちは叫ぶことで自信を取り戻したいんだと思う。愛を確かめたいんだと思う。

日も沈んだ18時過ぎ。大トリとして登場した猪苗代湖ズが本日2回目の『I love you & I need you ふくしま』を歌いだそうとしたその時、箭内氏は次のように語りだした。

「『I love you & I need you ふくしま』を聞いた方にこんなことを言われたのを思い出します。<この歌を聴くと福島から逃げ出せなくなる。福島にずっといて頑張らなきゃと思ってしまう>…それは僕たちの本意ではありません。避難していく人、避難しない人、避難したくても避難できない人。避難したくないのに避難しなければならない人。それぞれがさまざまな状況の中で「福島が好き」という気持ちだけ共通で持っていたい。それだけの歌です。」

今、そしてひょっとしたらこれからずっと、福島で生まれたということ、福島と縁があるということは、何か恥ずかしい、隠したいことになってしまうかもしれない。元々、取り立てて名産も名物もない福島県に対して自信を持っていない福島県民は多い。私自身がそうだった。でも、それでも、僕たちは福島が好きなのだ。福島の人間であることをもっと誇らしく思えるようにならなければならないのだ。

恥ずかしがってんじゃねーぞ!福島ぁーっ

泣きながら叫ぶサンボ・山口の姿が、福島と共に生きることの覚悟を認識させられる。
アンコールで今日参加してくれた出演者のほとんど勢揃いし、本日三回目の、そして最後の『I love you & I need you ふくしま』の大合唱が繰り広げられた。スピーカーの大音量に耳を塞いでいた隣の老婦人もいつの間にか両手を空に掲げ熱唱していた。歌い終わるとともに漆黒の闇に打ち上がる花火…

明日から 何かがはじまるよ ステキな事だよ

そんな言葉を本気で信じたくなる、長くて熱い一日が終わった。
(オグマナオト)