出産費用を募るクラウドファンディングに批判殺到「まず行政を頼るべき」「プライベートの切り売り」
「CAMPFIRE」の下書きページより

大学生ブロガーのイシイさんが、妻の出産費用を募るクラウドファンディングの立ち上げを宣言。しかし、「まず行政を頼るべきではないか」といった批判が殺到している。



経済的に厳しくても出産できる社会を


学生結婚をしたことを公表しているイシイさんは10月6日、ブログを更新。新婚であるにも関わらず、貯蓄のためにお互い実家暮らしをしているとして、「妊娠中の妻との新婚生活が別居ってありえないじゃないですか。でも今の僕にはそれを支えるだけの経済力がない。悔しいです」と吐露。出産費用を募るクラウドファンディングを立ち上げることを宣言した。

その後もイシイさんはクラウドファンディングについてつづっており、10月29日には、クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」での下書きページを公開。「経済的に厳しくても出産ができる社会を証明し、みんなでこの子を育てていきたい!」と題されたプロジェクトで、経済的な理由から出産を諦める人々に“個人であっても資金集めをすることができる”というメッセージを送りたいことなどをつづっている。


また、支援に対するリターンとしては、夫婦による感謝のビデオメッセージ、妻による手描きイラスト、ブログでのPR記事や広告掲載などが用意されている。目標金額は当初50万円に設定していたが、その後30万円に引き下げることが発表された。


出産費用はどのように計算されたもの?


ネット上では、「クラウドファンディングの間口を広げる」という好意的な意見もあるものの、出産クラウドファンディングに対して批判が殺到している。とくに多い批判が「まず行政を頼るべきではないか」というものだ。健康保険を支払ってさえいれば、被保険者及び被扶養者が出産する際に1児につき42万円の“出産育児一時金”が支給される(全国健康保険協会への申請が必要)。クラウドファンディングより先に、そのような公的支援について学ぶべきなのではないかと指摘されている。

しかし、イシイさんも出産育児一時金については把握しているらしい。
プロジェクトの下書きページでは、出産費用の内訳を「妊婦健診:15万円分娩 入院:40~50万円 マタニティ用品:5万円 ベビー用品:20万円」と計算しており、そこから出産育児一時金と妊婦検診を公費の補助で受けられる受診票を引いた、個人が負担する金額を4、50万円としていた。とはいえ、そもそもの内訳がどのように算出されたものなのか不明なところではあるが……。計算の根拠がわからない点も、人々に違和感を覚えさせる一因なのだろう。


大量の批判に反論「やってみる価値ある」


他にも「自分の子供なのだから、とりあえず自分でなんとかしようとすべき」「母子を人質に金を出すよう迫っているようだ」といった批判が上がった。批判を受けて、イシイさんは11月2日、「クラウドファンディングで出産費用を募ることは『悪』なのか?」というタイトルで再びブログを更新。単純にお金を集めるだけでなく、クラウドファンディングの“周りの人を巻き込める”点を使うことで、「みんなでこの子を育てていきたいんです」「支援したプロジェクトって自分ごとのように気になるんです。ひとたび支援すればもうこの子の『ソーシャル上の親』となります」と説明した。


また、「昔だったら、借金したり親に土下座することでしか解決できなかったことが、今の時代はクラウドファンディングによって解決できる可能性があるんですよ。だったら、勇気は必要だけどやってみる価値あるじゃないですか」と訴えている。


子供のプライバシー侵害につながる?


イシイさんの言う通り、個人がカジュアルに資金援助を募ることができる世界が実現すれば、それによって選択の幅が広がる人もいるだろう。しかし、それにしても出産、子供というテーマはあまりにセンシティブだったのかもしれない。イシイさんは、「産まれたあとも僕のブログを通じ、あたかも自分が子育てをしているかのような体験を提供したいです」との考えを述べているが、自身の育児記録が出資者に対して公開されることを子供は将来どのように感じるのだろうか?

一般的にクラウドファンディングが炎上した場合、「嫌なら出資しなければいいだけ」という意見が上がることが多い。しかし、子供のプライバシー侵害になる危険性があるのならば、興味関心を持つ人も多いのだからGOという判断はいささか無責任なのではないか。
クラウドファンディングの“なんでもあり”な風土が希望ではなく、得体の知れなさを感じさせるものとならないよう、丁寧に議論されるべきテーマだろう。
(HEW)