国政政党の代表を務めるような政治家が、選挙直前に借り入れた総額8億円もの莫大な資金を「個人的に借りた。選挙や政治資金には使っていない」などと弁明しても、多くの国民には「裏政治献金」ではないかと映る。
「週刊新潮」(新潮社/4月3日号)のスクープを契機に多くのメディアが騒いでいる、みんなの党代表・渡辺喜美氏への「裏金疑惑」。実は、この問題の背景には「財務省・国税庁の存在があるのではないか」と永田町周辺では囁かれ始めているのだ。

 渡辺氏にお金を貸したとされるのが、化粧品やサプリメント大手のディーエイチシー(DHC)創業者で現会長の吉田嘉明氏。いったんは渡辺氏の政治理念に共鳴し、8億円もの資金を提供しておきながら、なぜ、今になって週刊誌で手記を暴露するのか。吉田氏も「週刊新潮」記事の最後の部分で「お金に関しては、一度納得して貸したものですので、とやかく言うつもりはありません」と述べている。そして、脱官僚を掲げる渡辺氏の志はなんだったのか、なぜ貸した金が適切に処理されていないのかを、渡辺氏や世間に問うてみたいから筆を執った旨が書かれている。

だが、果たしてその言葉を額面通りに受け止めていいのか。

 永田町情勢に精通しているある記者はこう解説する。

「創業者利益で莫大な資産を持つ吉田氏は、金の使途などが常に国税当局から目を付けられているため、8億円の使途を明らかにする必要に迫られた。これが世間に明らかにされれば、捜査当局も政治資金規正法などでの立件が視野に入り、渡辺氏は窮地に陥る。公務員改革を主張する渡辺氏は財務省とっては邪魔な存在なので、渡辺氏の政治家としての影響力が削がれれば、これほどありがたいことはないという構図です。おそらく財務省の外局である国税当局が吉田氏をつついて、この問題が暴露されたのでしょう」

 みんなの党が分裂した際に渡辺氏は安倍政権にすり寄り、連立政権を組んであわよくば内閣改造で大臣ポストを射止めようとしたのも、「閣内に入れば、自身の政治信条のひとつである公務員改革が推進できやすくなることに加え、財務省への発言力が増すと考えたから」(同記者)と見られている。

しかし、財務省や国税庁は、それは絶対に受け入れ難かった。安倍政権になり、ばらまき予算と天下り黙認で息を吹き返した霞が関のキャリア官僚が、「その流れを渡辺ごときに潰されてたまるか」と考えても不思議ではない。だから、吉田氏を使って渡辺氏の政治生命を断とうと狙ったのではないかというのだ。

●猪瀬前都知事と同じ道か

「党分裂のごたごたなどの際に、銀座の元ホステスでやり手の妻に操られる」(同記者)渡辺氏の政治家としての器量のなさが見え隠れしていただけに、有権者もみんなの党にはそっぽを向き始めており、自分の存在感を示す唯一の手段が公務員改革という「錦の御旗」だったのであろう。しかし、「裏金」をもらっておきながら、そもそも渡辺氏に公務員改革を語る資格があるのか。借り入れ金の使途をめぐる渡辺氏の「熊手を買った」などという弁明も国民を馬鹿にしている。

 昨年、医療グループ徳洲会側から5000万円を受け取った問題で東京都知事の職を辞任に追いやられた猪瀬直樹氏が、本日(28日)、東京地検特捜部により公職選挙法違反の罪で略式起訴された。渡辺氏は自身の通帳をみんなの党の倫理委員会に提出して調査を委ねるそうだが、釈明に窮すれば、猪瀬氏と同じように、妻の責任にしてしまうのであろうか。早くも永田町界隈では、「渡辺氏の行く末は、猪瀬氏のそれと重なってしまう」との声が広がっている。
(文=編集部)