シェイクスピアの不朽の悲劇『ハムレット』と、シューベルト最晩年の傑作歌曲集『冬の旅』。時代もジャンルも異なる二つの名作を重ね合わせ、人間の「喪失」と「彷徨」を描く舞台『ハムレット、冬の旅 HAMLET’S WINTER』の上演が決まった。
【写真】ハムレット役を東出昌大、シューベルトの『冬の旅』を体現する現代の「作曲家」役を栗原英雄が演じる
1827年、フランツ・シューベルトが作曲した歌曲集『冬の旅(Winterreise)』。ヴィルヘルム・ミュラーの詩によるこの作品では、愛を失った一人の男が町を捨て、凍てつく冬の荒野をさまよう姿と、その孤独な精神世界が描かれる。一方、『ハムレット』のデンマーク王子ハムレットもまた、父王の死と母の再婚によって、それまで信じていた世界を失った男。亡き父の復讐という運命を背負いながら、「To be, or not to be」と問い続け、生と死、現実と幻影の境界をさまよう。
失恋によって居場所を失った『冬の旅』の旅人。父の死によって世界とのつながりを失ったハムレット。異なる時代、異なる物語を生きる二人を深く見つめると、そこには社会からの疎外、喪失、孤独、死への誘惑、そして自らの内面へと沈んでいく姿という、いくつもの共通点が浮かび上がる。本作では、その二つの“さまよえる魂”を、時も場所も自在に行き来することのできる「舞台」で出会わせる。
出演には、ハムレット役に年初に上演された『サド侯爵夫人』に次いで本年二度目の舞台出演となる東出昌大、シューベルトの『冬の旅』を体現する現代の「作曲家」役にミュージカル界の重鎮、栗原英雄。そして、この二人とともに物語を語るダンサーとして元東京バレエ団のプリンシパル渡辺理恵らが出演。
東出が演じるのは、デンマーク王国の王子ハムレット。
演出・振付を担当するのはダンサー、俳優としても活躍する首藤康之、台本監修をシェイクスピア研究者・河合祥一郎、音楽監督・演奏をピアニストの斎藤龍が務める。
さらに、『冬の旅』を 本作で日本語の「ことば」として響かせるのは、日本を代表する作詞家松本隆による訳詞。通常ドイツ語で歌われるシューベルトの『冬の旅』を、本作では松本隆による日本語訳詞で紡ぎ、シューベルトの旋律とシェイクスピアの言葉が交錯する、新たな劇空間を立ち上げる。歌われる言葉は、ある時はハムレットの心の声となり、ある時は荒野をさまよう旅人の呟きとなる――。
シェイクスピアの戯曲とシューベルトの歌曲を単に並置するのではなく、言葉、音楽、身体を通して二つの作品の精神世界を重ね合わせる『HAMLET’S WINTER~冬の旅~』。すべてを失った者は、彷徨の果てにどこへ辿り着くのか。二つの古典から、現代を生きる人間の孤独を見つめる。
舞台『ハムレット、冬の旅 HAMLET’S WINTER』は、11月20日~30日東京・新国立劇場 小劇場、12月12日・13日大阪・サンケイホールブリーゼにて上演。
※スタッフ、キャストコメント全文は以下の通り
【スタッフ、キャスト コメント全文】
◆松本隆(日本語訳詞)
30年ほど前に初めてシューベルトの『冬の旅』に日本語の詞をつけたとき、目指したのは翻訳や対訳ではなく、日本語としてすっと頭に入り、心ですぐに反応できる歌にすることでした。
『冬の旅』は、絶望の物語です。けれど、絶望というのは決して醜いものではなく、意外といいものであり、深く、美しいもの。今の日本の『冬』のような時代を生き抜くためにこそ、そういう徹底した美意識が必要なんじゃないかと思っています。
◆河合祥一郎(台本監修)
シューベルトの『冬の旅』が、こんなにも『ハムレット』とぴたりと重なるなんて、驚きです! シューベルトを通して見ると、ハムレットはどんな新たな顔を見せてくれるのでしょうか?
東出昌大さんのハムレットに大きな期待が高まります。首藤康之さんの演出・振付で、栗原英雄さんの歌唱と重なりあい、新たな化学反応を経たハムレットの誕生に立ち会えるとは! 今からとてもワクワクしています!!
◆首藤康之(振付・演出)
もともとシューベルトの『冬の旅』は多くの振付家が舞踊作品として発表しており、楽曲自体はよく存じ上げていました。ただ松本隆さんの訳詞があることは全く知らなくて。それを読んだ時、また別の感動が湧き出てくるような感覚がありました。やはり言葉というのはとても雄弁ですし、この詞の中に松本さんの人生観すら感じる。今回はとにかくこの言葉を大切に。ただ言葉を直接舞踊にするというのは、すごくナンセンスなことだと思うので、東出昌大さんと栗原英雄さんが演じるふたりの“心の旅”と言いますか。
◆東出昌大
シューベルトの『冬の旅』と、松本隆さんの訳詞、そして首藤康之さんの演出。それを聞いた時、私自身全く観たことがない、やったことがない舞台が現出されるんだろうなと思いました。そんなプロジェクトに携われるなら、ぜひやりたいなと。なによりプロデューサーのおふたりが、この世界の先輩として心から尊敬する、常に本物を追い求めている方々なんですね。であるならば、自分がハムレットになる、ということにも本物を求められている。
◆栗原英雄
非常にチャレンジングな企画だと思いましたが、最初は頭の中が「?」でいっぱいでした。シューベルトの『冬の旅』に、松本隆さんの訳詞が加わり、さらにシェイクスピアの『ハムレット』も絡んでくる。僕が歌う曲数もかなり多かったので、「これは無理ではないか……」というのが正直なところでした。でも実際にやれたら絶対に面白くなると思いましたし、僕にとっても非常に大きなチャレンジ。

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