レビュー
身の回りには、手で触れたり目で見たりすることができるモノが実在しているということは、私たちにとって疑いようのない実感だ。そうして実在するモノの構造を分析して、その運動の法則を導き出し、数学的な計算で描き出すのが物理学だとする考え方も、一般的だろう。
しかし、現代の物理学における標準的な理論の1つ、量子力学では、日常的な直観と反する在り方を説明する。物質を構成する素粒子が確率的な波動として振る舞い、その「量子もつれ」の関係性における観測が、状態を確定させるというのだ。この観点では、確率的な存在である素粒子は、実在するモノというよりも、情報として存在していると理解される。
さらに、最新の理論によれば、ブラックホールは空間的な三次元ではなく、平面的な二次元の上に生じているホログラムのようなものなのだという。これと同様に、私たちが当たり前のように手で触ったり目で見たりしているモノは、量子情報によって構成されているといえる。この情報は、観察されることではじめて形を見せる。その点で、モノは実在せず、そこにあるのは「無」である。
このような本書の主張は、荒唐無稽な議論ではなく、物理学の理論に基づいた、れっきとした科学的な主張だ。私たちの日常的な感覚からはかけ離れているが、これこそが、世界の姿をより上手く説明する考え方である。本書を通して、現在の物理学が描き出す宇宙や時間の在り方がどのようなものか、わかりやすく理解できるだろう。
本書の要点
・古代ギリシアのパルメニデスは、真の無とはそれについて話すことも思考することもできないものだとした。実証科学としての物理学における無とは、私たちが普段その存在を生々しく感じているものが、実はなかったとするようなものだ。
・量子力学では、モノは実在せず、全ては情報だとされている。
・複数の宇宙の量子的な重なり合いにおいては、時間も存在しない。
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