俳優・髙嶋政伸さん(59)が、6月に初のエッセー集『おつむの良い子は長居しない』(新潮社)を上梓した。高島忠夫さんと寿美花代さん夫妻のもとに生まれ、兄の政宏さんとともに芸能一家で育った59年間。

“髙嶋政伸”を演じてきたという日常のなかで体験した、さまざまなエピソードをつづる。


 ──エッセーを書き始めたきっかけは。


 詩やショートショートを書いていたら、作家の川上未映子さんが新潮社を紹介してくださって。エッセーはどうかと提案があり、父の三回忌のタイミングで書き始めました。取り掛かってみるとハマグリがパカッと開くように、思い出がどんどんとあふれてきました。


 ──第1回に書かれているお父さまの“冷凍尿”の思い出から強烈です。


 心温まるメモリーをと思っていたのですが、あんな感じになっちゃいました(笑)。


 ──お母さまの飄々とした人柄が伝わるエピソードも印象的です。


 子供の頃、家族と泊まっていたホテルオークラのプールに、眼鏡をかけた白人の方と息子さんがいて、僕は息子さんと一緒に遊んでいたんです。後年、母からその方はジョン・レノンだったことを教えられました。2年続けて会っていたのに、写真の一枚も撮っていなくて。母いわく「ただの眼鏡の青年やったよ」と(笑)。


 ──他にも驚いたエピソードがあったとか。


 実家にあった古い色紙をよく見たら「小津安二郎」と署名がありました。仲良くさせていただいたようで、自慢するでもなく「小津さんからもらったんだよ」と。そんな母の女優姿をしっかり見たのは僕が40歳を過ぎてから。宝塚時代の『華麗なる千拍子』では、こんなにすごい人だったのかと打ちのめされました。



なぜ性的なシーンでは煙たがられるのか

 ──NHK『大奥』Season2で徳川家慶を演じた際の「インティマシーコーディネーター」の回は大きな反響を呼びました。


 台本を読み、インティマシーコーディネーター(IC)をつけていただくことを条件にお受けしました。最初の打ち合わせで、ICの浅田智穂さんになぜか壁を感じました。それで、これまで現場で煙たがられたご経験がありますか?とお聞きすると「あります」と。これはいけない、と思い、この『大奥』の経験を何かに書き残そうと、時系列で書き始めました。僕は、99%は段取りだと思っていて。


 ──「段取り」ですか。


 リハーサルの「段取り」で決まった動きに基づいて、カメラポジションや照明、音声マイクなどをセッティングしていきます。アクションには殺陣がつき、危ないところはスタントマンがやってくださる。なのに、なぜ性的なシーンでは煙たがられるのか。「僕も不安なので、腹を割って話しましょう」とお伝えして進めていきました。


 ──同エッセーは角田光代さんや三浦しをんさんが編纂委員を務めた『ベスト・エッセイ2025』(光村図書)にも選出されました。


 純粋にうれしかったです。村上春樹さんや沢木耕太郎さんといった方々が名前を連ねてらっしゃるので、誇らしいですよね。届いた本を拝んじゃいました。


 ──10月には還暦を迎えますが、心境の変化は。


 20代の頃は、60代になったら、どんな名優になるんだろうと思っていました。ですが、この年齢になってびっくり。何も変わってない。

相変わらず芝居が下手な役者のまんまです(笑)。還暦って、もう一度赤ちゃんに戻るという意味で赤いちゃんちゃんこを着るらしいのですが、僕もイチから出直す感覚です。いただいた作品が常に僕の代表作になるようにと考えて、これからも取り組んでいきたいと思います。


(聞き手・写真=望月ふみ)


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