2026年8月22日、真夏の欧州が、目に見えない脅威に揺れている。欧州連合(EU)の感染症専門機関である欧州疾病予防管理センター(ECDC)が公表した最新データによると、欧州12か国もの広い地域で、蚊が媒介する恐ろしい感染症「ウエストナイル熱」の市中感染が次々と確認されたというのだ。
すでに感染報告はイタリアやギリシャ、フランス、ドイツ、スペインなど、日本人も大勢訪れる観光名所にまで及んでおり、実に21もの地域で初めての市中感染が報告されている。ECDCで感染症部門の責任者を務めるセリーヌ・ゴスナー博士は、「ウエストナイルウイルスの広がりと外来種の蚊の拡散は、欧州全体で蚊の防除能力を劇的に強化しなければならないことを示している」と強い危機感を露わにした。

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トルコのアナドル通信や、ドイツの公共放送ドイチェ・ヴェレ、イタリアのアンサ通信、WHOといった現地報道機関や国際機関の発表によれば、事態は極めて深刻な局面に突入している。一見すると、日本でも馴染みのある「デング熱」とよく似た虫刺されの病気のように思えるかもしれない。だが、このウエストナイル熱には、デング熱とは似て非なる恐ろしい毒性と、独特の感染システムが隠されている。

そもそも、このふたつの病気は犯人となる蚊の種類と活動時間からして全く違う。デング熱を広めるのは、主に日中に外で元気に飛び回るヒトスジシマカなどのヤブカであり、公園や庭の草むらで刺されるパターンが多い。一方で、ウエストナイル熱の主な運び屋は、夜間から明け方にかけて家の中に忍び込んでくるアカイエカなどのイエカ類なのだ。さらに驚くべきは自然界での感染の輪の違いである。デング熱はヒトと蚊の間で感染が回っていくため街中で爆発的に拡大するが、ウエストナイル熱の本当の宿主は野鳥である。鳥と蚊の間でウイルスが循環しており、その感染した蚊がたまたま人間や馬を刺すことで病気が移るため、人間は感染の終着駅を意味する終末宿主と呼ばれる。

そして何より恐ろしいのが、病気が重症化したときに体に起きる症状の違いである。
デング熱の場合、激しい発熱とともに骨が砕けるような猛烈な関節痛や全身の発疹が現れ、重症化するとデング出血熱と呼ばれて全身から血が止まらなくなったりショック状態に陥ったりする。対するウエストナイル熱は、感染しても約8割の人は無症状で通り過ぎ、残り2割が発熱などのインフルエンザに似た症状を起こす。だが、本当に怖いのは感染者の1%未満に起きる脳への侵入だ。ウイルスが脳や神経に届くとウエストナイル脳炎や髄膜炎を引き起こし、高熱とともに体が激しく震え、意識障害や手足の麻痺を起こして死に至ることもある。しかも現時点でヒト用の特効薬も承認されたワクチンも存在せず、医療機関でも対症療法しか打つ手がない。

では、なぜ今、欧州でこれほどまでに感染が広がりを見せているのだろうか。アナドル通信やドイチェ・ヴェレが伝える現地専門家の分析によれば、その背景には地球規模で進む猛暑と気候変動が大きく関係しているという。記録的な高熱と暖かい冬によって蚊の体内でのウイルス増殖スピードが速まり、干ばつと集中豪雨の繰り返しが街中に蚊の繁殖源を作り出している。それに加えて、デング熱を媒介する外来種のヒトスジシマカまでもが12年前の2倍にあたる欧州16か国で定着しており、複数の感染症が同時に蔓延するダブルパンチのリスクが現実味を帯びているのだ。

アンサ通信などが報じる現地当局の動きを見ても、イタリアやギリシャといった南欧諸国を中心に、消毒作業やボウフラを減らすための水管理が急ピッチで進められている。ダブリューエイチオーは、行政による防除対策はもちろんのこと、長袖長ズボンの着用や虫よけスプレーの使用、家の周りの溜め水を捨てることなど、住民一人ひとりが蚊に刺されない工夫を徹底することが唯一の防御策だと訴える。欧州で猛威を振るうこの脅威は決して遠い国の他人事ではなく、海外との行き来が盛んな現代において、いつ日本に新たなウイルスの波が押し寄せてきてもおかしくないのだ。

【編集:af】
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