【その他の写真:朝鮮中央通信 日本語版サイトから】
昼の海岸では、若者たちが歓声を上げながら水上バイクを走らせ、カラフルな浮き輪やボートが波間に揺れる。砂浜ではビーチバレーのボールが弾み、笑い声が絶えない。水上スキーの疾走、オートバイ競走の轟音、そして夕暮れの潮風。そこには、かつての閉ざされた国のイメージを覆すような「解放の夏」が演出されている。
各地の特産料理が並び、観光客は冷麺や海産物を味わいながら「ここはまるで外国のリゾートだ」と口々に語る。夕方になると、宿泊施設のロビーでは家族連れや学生たちが談笑し、スマートフォンで記念写真を撮る姿も見られる。「誰もが楽しい追憶を残すユニークな観光の日々」と報じるが、その背後には国家が描く“幸福の演出”が透けて見える。
夜が訪れると、明沙十里劇場が光に包まれる。ステージでは、中央芸術団体と江原道芸術団の歌手・舞踊団が総出演。民族衣装の女性たちが舞い、白いスーツの男性歌手がマイクを握る。観客席からは拍手と歓声、そして花火のようなスパークが舞台を照らす。
観光客の声も通信に紹介されている。「東・西海岸の海水浴場にも行ったが、ここほど海辺の情緒を味わえる場所はなかった」「一度来れば離れがたい」「来年も家族と必ず訪れたい」――その言葉は、単なる観光の感想というより、国家が描く理想の市民像を代弁しているようにも聞こえる。
元山葛麻海岸観光地区は、金正恩政権が「国民の幸福」を象徴するモデル地区として整備を進めてきた。近代的なホテル群、整備された道路、電動バス、そして海岸沿いの遊興施設。だが、その華やかさの裏側には、経済制裁下で苦境に立つ現実がある。観光地の賑わいは、国内向けの宣伝効果を狙った「希望の舞台」でもあるのだ。
それでも、写真に映る人々の笑顔は確かに生き生きとしている。波打ち際で子どもが笑い、若者が肩を組み、劇場では観客が立ち上がって拍手を送る。そこにあるのは、政治の枠を超えた「人間の夏」の瞬間だ。国家が演出したとしても、歓声は本物だ。北朝鮮の通信が伝える「観光文化の新時代」は、少なくともその一瞬だけ、現実の喜びを映している。
元山の夜風が海から吹き抜ける。ライトアップされた劇場の屋根が波のようにうねり、音楽が響く。観光客たちはその光景を胸に刻みながら、列車に乗り込む。誰もが語る――「ここは離れたくない場所だ」と。
その言葉が、どこまで真実なのかは分からない。だが、写真に映る笑顔の群れは、北朝鮮が見せたい「幸福の物語」の中で、確かに輝いている。
【編集:af】








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