太陽系の準惑星、冥王星の周りを回る最大の衛星「カロン」の北半球には、弓なりに連なる奇妙な山地がある。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校とスイス連邦工科大学チューリッヒ校の研究チームは、この山地がカロンの自転の減速によって作られた痕跡であることを確認した。
カロンは誕生した頃、今よりずっと速い周期で自転していたが、その後の減速で赤道方向のふくらみが解消され、その過程で地表が押し縮められて山地ができたとみられる。
この研究成果は『Nature Communications[https://www.nature.com/articles/s41467-026-75069-7]』誌(2026年7月14日付)に掲載された。
冥王星の衛星カロンの北半球にある奇妙な山地
冥王星は太陽系の外側にある準惑星で、その周りを回る最大の衛星がカロンだ。
カロンの直径は約1200kmで、冥王星のおよそ半分にあたる。母惑星に対する比では太陽系で最も大きな衛星で、表面は氷におおわれている。
カロンの北半球には、オズ・テラと呼ばれる山がちな高地がある。そこには弓なりに曲がって連なる奇妙な山地があり、長さは200km以上に達する。
ふつう天体の表面がのびて割れると、まっすぐな崖や溝ができる。オズ・テラの山地はそれとは違う奇妙な形をしていた。
自転の減速により奇妙な山地が形成されていた
カリフォルニア大学ロサンゼルス校とスイス連邦工科大学チューリッヒ校の研究チームがこの山地を詳しく調べたところ、斜面の片側はゆるやかで、反対側は急になっていた。
地面が左右に引っぱられてのび、割れてできた地形なら、切り立った崖ができて左右はもっと対称に近くなるが、カロンは地面が押し縮められていたのだ。
では、何がカロンの山地を歪めたのか?研究チームは、カロンの自転が遅くなっていることに着目した。
潮汐力(天体どうしが互いに及ぼしあう引力の差で生じる力)によって、天体の自転はゆっくりと減速していく。
冥王星の引力は、カロンの冥王星に近い側を強く引っ張る。
カロンが自転してこのふくらみが冥王星の正面から少し先へずれると、冥王星の引力がふくらみを元の位置へ引き戻そうする。
こうして自転にブレーキがかかり遅くなっていったのだ。
研究チームはニュー・ホライズンズのデータをもとに、コンピューターモデルで地形を再現した。すると、自転の減速によって赤道付近の地殻が横方向に押し縮められた場合に、この山地の形をうまく再現できた。
その結果、赤道付近では表面が余って横方向に押し縮められ、山地ができたと考えられる。
研究チームはニュー・ホライズンズのデータをもとに、コンピューターモデルで地形を再現したところ、自転の減速によって赤道付近の地殻が横方向に押し縮められたことが確認できた。
山地ができた当時、カロンの表面をおおう氷の殻は少なくとも30~36kmの厚さがあったとみられる。
赤道付近の地殻が約1%短くなり、その縮んだ分の力が既存の断層(地形がずれてできた割れ目)に沿って吸収され、せり上がって山地ができたと考えられる。
誕生直後のカロンは約14.3時間で速く自転していた
速く自転する天体は遠心力で赤道方向にふくらむため、自転が速いほど扁平な姿になる。
研究チームが地殻の縮んだ量から逆算した結果、誕生した頃のカロンは約14.3時間周期で自転し、赤道方向にふくらんだ扁平な姿だったと考えられる。
カロンの自転はその後、潮汐力によって徐々に減速した。
減速するにつれて赤道方向のふくらみは解消され、その過程で地表が押し縮められて山地ができた。
現在のカロンは冥王星に対して常に同じ面を向ける潮汐固定という安定した状態にあり、自転周期は約153.3時間まで延びている。
初期の約14.3時間と比べると、10倍以上も遅くなった計算だ。
40億年前の記録が地形に残っていた理由
カロンの表面は約40億年前と古く、その後に大きく作り変えられた跡が少ない。
他の氷衛星の多くは表面が新しく塗り替えられて初期の記録が失われやすいが、誕生して間もない頃の自転の変化が地形として残っているカロンは、初期の姿を知るうえで貴重な天体になっている。
モデルの仮定や力の見積もりには不確かさが残るものの、天体の地形から大昔の自転の変化を読み取れたのは貴重な成果だといえる。
References: DOI: 10.1038/s41467-026-75069-7[https://www.nature.com/articles/s41467-026-75069-7] / The spin of Pluto's moon, Charon, may be slowing down[https://phys.org/news/2026-07-pluto-moon-charon.html]











