優れた嗅覚を武器に、活躍する探知犬たち。その能力を、湖や川の生態系を守るために活かしている犬たちがカナダにいる。
カナダ・アルバータ州の州境近くに設けられた船舶検査所で、3匹の探知犬たちがボートの周囲を慎重に歩き回っている。
彼らが探しているのは麻薬や爆発物ではない。船体の隙間や排水口に潜む、わずかな貝のニオイである。
ここアルバータ州では、州を越えて侵入しようとする外来種の淡水生二枚貝への対策として、訓練を受けた犬たちが最前線で活躍しているのだ。
外来種の侵入を水際で阻止する探知犬たち
カナダ・アルバータ州で活動している、「Conservation K-9 Unit(保全探知犬部隊)」。彼らの主な任務は、生態系や水道設備などに大きな被害を及ぼす恐れのある外来種の貝を探し出すことだ。
彼らは船舶検査官らと協力し、高度に訓練された嗅覚を駆使して、州内へ持ち込まれるボートなどのニオイを嗅ぎ、見えにくい場所に生息する貝を探知する。
2026年夏、このチームに新たな仲間が加わった。ラブラドール・レトリバーのジェーンとウィニーである。これで同州を守る探知犬は、万全の3頭体制となった。
新たに任務に就いた2頭は、過去10年以上にわたって活動してきたベテラン探知犬ヒロとともに、アルバータ州の水域を外来種から守る役目を担っている。
この犬たちが主に探しているのは、カワホトトギスガイ([https://bishogai.com/pic_book/data18/r001796.html]ゼブラ貝)[https://bishogai.com/pic_book/data18/r001796.html]、クワッガガイ[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AF%E3%83%83%E3%82%AC%E3%82%AC%E3%82%A4]、カワヒバリガイ[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%83%92%E3%83%90%E3%83%AA%E3%82%AC%E3%82%A4]という、3種類の外来性二枚貝である。
カワホトトギスガイとクワッガガイは黒海・カスピ海周辺を原産とし、1980年代に北米の五大湖周辺で確認されて以降、カナダや米国の各地へ広がった。
また、カワヒバリガイは東南アジア原産で、2024年10月、カリフォルニア州のサクラメント・サンホアキン川デルタで北米で初めて確認された貝である。
これらの貝は船体や水上レジャー用品などに付着したり、幼生が船内に残った水に紛れ込んだりすることで、別の水域へ運ばれる。
そしていったん定着すると大量に増殖し、水中の餌をろ過して食物連鎖に影響を及ぼすほか、取水管や発電設備、灌漑設備などにも密集して付着する。
アルバータ州政府によれば、メスは年間最大100万個の卵を産むことがあり、定着後の駆除は非常に困難になるという。
州内へ入る船舶への徹底した検査制度
つまり、侵入してから駆除するのではなく、そもそも州内へ入れないことが重要なのだ。そこで同州では、他地域から来る船舶を検査する制度を設けている。
州境などには検査所が設置されており、営業中の検査所を通過する場合には、ボートなどを運ぶすべての車両が停止して検査を受ける必要がある。
特に5月1日から9月30日までの間に、東側または南側から州内へ水上艇を持ち込む際は、たとえ最寄りの検査所が閉まっていた場合でも、必ず検査を受けることが義務付けられている。
その場合は7日以内、または州内の湖や川に実際に水上艇を浮かべる前までに、検査を受けなければならないのだ。
検査対象となるのは大型のモーターボートだけではない。カヌーやカヤック、パドルボード、ゴムボートなど、非動力式の水上艇も含まれている。
万が一、検査所を無視して通過した場合には4,200カナダドル(約47万5,000円)の罰金が科される可能性があるそうだ。
また、船を陸上輸送する際に排水栓を外していなかった場合にも、600カナダドル(約6万8,000円)の罰金が科されるとのこと。
下は検査所の様子を写した動画である。陸路で運ばれる船舶は、もれなく検査を受けるとともに、オーナーは外来種に関する知識を学べるようになっている。
人間には見えにくい場所も「鼻」で検査する犬たち
検査ではまず人間の検査員が、船体やトレーラーを確認する。アンカーや船底、エンジン、救命胴衣、パドル、収納部分など、水や泥、そして外来種が付着していそうな場所を細かく調べていくのだが、そこに探知犬が加わるのだ。
犬は水面より下になる場所や排水口などのニオイを重点的に嗅いでいく。必要に応じてアンカーやブイ、救命胴衣なども、船から出して検査することも。
そして外来種の貝のニオイを感知すると、犬たちはその場に座りこみ、鼻先でニオイの発生地点をハンドラーへ知らせる。
探知犬を使った検査は、人間だけで行う場合のおよそ半分の時間で済み、目では確認しにくい場所にいる微小な幼生の臭いも察知できるんだとか。
なお、無事に仕事を終えたあとのご褒美は、オヤツなどの食べ物ではなく、ハンドラーと遊ぶための特別なオモチャなんだそうだ。
犬たちは人間による検査を補ってくれ、船に何が付着している可能性があるのかを、より正確に把握するのに役立っています。
州の水生外来種対策と探知犬プログラムを担当するシンディ・ソーチャックさんは、犬たちの活躍についてこう語る。
シンディさんによると、カワヒバリガイは既にアメリカ・カリフォルニア州に定着しており、ブリティッシュコロンビア州を経由してアルバータ州に侵入する可能性が生じているという。
こうした貝は湿った暗い場所を好みます。
しかも、その多くは非常に見つけにくいのです
6週間の訓練で「貝探し」のエキスパートに
アルバータ州の探知犬チームは、野生生物保護に探知犬を活用するアメリカの非営利団体「Working Dogs for Conservation[https://www.wd4c.org/]」の訓練を受けている。
犬たちはまず6週間の専門訓練で、対象となるニオイを見つけ、その正確な場所を特定し、決められた方法でハンドラーに知らせる訓練を受ける。
一方、ハンドラー側も犬の行動の変化を読み取り、船の周囲を効率よく捜索させる方法を学ばなくてはならない。
ジェーンとウィニーは数か月にわたる訓練を終え、カワホトトギスガイ、クワッガガイ、カワヒバリガイのニオイをそれぞれ識別できるようになった。
彼らの初期訓練にかかった費用は、1頭あたり約15万カナダドル(約1,700万円)で、これとは別に、今後も継続的な訓練費が必要になるという。
この、探知犬の力を借りて、外来種の貝の侵入を水際で防ごうというプログラムが始まったのは、2015年のことだった。
当時はヒロ・スース・ディーゼルの3頭体制だったが、スースは既に亡くなり、ディーゼルも9年間の活動を終えて引退した。
ヒロだけがその後もチームに残り、たった1頭で任務をこなしてきたのである。そこに2026年、新たにジェーンとウィニーが加わり、再び3頭体制が復活したのだ。
下の写真の右上がウィニー、左下がジェーン、そして右下がヒロである。
ヒロはもともとアメリカで盲導犬になるための訓練を受けていたが、その後はカナダへ移ってキャリアチェンジし、10年以上も探知犬として貝を探し続けてきた。
ジェーンもキャリアチェンジを経験してここに来た犬で、任務への並外れた集中力が評価されているそうだ。
一方のウィニーはもとは保護犬で、カワホトトギスガイの侵入が深刻化している、マニトバ州のウィニペグ湖にちなんで「ウィニー」と名付けられたんだとか。
奇遇なことに、この3頭はいずれも黒いラブラドール・レトリバーで、意図したわけではないものの、「黒ラブ部隊」とでも呼べるチームになっている。
外来種の侵入を水際で阻止する努力が続く
2025年、州内で検査を受けた船舶は2万1,995隻で、前年より8,495隻増加した。このうち13隻から外来種の二枚貝が確認され、州内への侵入が阻止された
2026年も7月29日までに、外来種の貝を付着させた水上艇6隻が、アルバータ州へ入るところを水際で阻止されている。
訓練団体が行ったテストでは、犬たちは外来貝の付着した船をすべて発見できたのに対し、人間の検査員が発見できた割合は75%だった。
さらに、犬による検査にかかる時間は、人間だけで行う場合のおよそ半分で済むそうだ。犬たちは肉眼では見えない幼生のニオイも検出したという。
検査で疑わしい貝が見つかると、専門スタッフが状況を確認した上で、必要に応じ50~60℃の温水と高圧水を使って船体を洗浄する。
場合によっては、船事態を隔離して対応することもあるそうだ。
2026年8月現在、カワホトトギスガイ、クワッガガイ、カワヒバリガイはいずれもアルバータ州への定着は、幸いにして確認されていないとのことだ。
もしも州内で外来種の二枚貝が定着してしまった場合、飲料水設備や発電施設、灌漑設備の維持や交換、漁業や観光への影響などを合わせ、なんと年間約7,500万カナダドル(約84億7,000万円)もの損失が生じると州政府は推計している。
3頭体制となった今、優れた嗅覚で小さな侵入者を探し出す探知犬たちの活躍は、生態系を守る重要な切り札となっていくだろう。
References: Do-Good Doggies Fight Invasive Mussels on Team ‘Conservation Canines’[https://www.goodnewsnetwork.org/do-good-dogs-fight-invasive-mussels-as-conservation-canines/]











