着るキノコ。生きた菌糸で作られた自己修復するドレス
キノコ(サナギタケ)の菌糸を素材にした試作のドレス全体(左)と模様付きの飾り襟(右)/image credit:Ke Li.

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 キノコの一部を文字通り”そのまま生かす”新たな布が開発された。そのキノコはサナギタケという冬虫夏草の仲間で、日本の雑木林にも生息する。

 中国の研究チームが開発した新素材は、サナギタケの菌糸でできている。栄養液を与えると菌糸が伸びて表面が再生し、生きた菌をあてがえば破れた部分も自然にふさがる。

 ただ布になるだけでなく、酵母を使って色をつけたり、紫外線耐性をもたせることもできる。この新素材を使ったドレスに海外ユーザーからもいろいろな声が寄せられた。

 この研究成果は『Science Advances[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aed6937]』誌(2026年7月24日付)に掲載された。

キノコの菌糸体を”死なせず生かす”素材を模索

 話題の素材はサナギタケ[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%8A%E3%82%AE%E3%82%BF%E3%82%B1](学名:Cordyceps militaris)の菌糸体から成る。

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 サナギタケとは、ガの幼虫やさなぎに寄生して育つ冬虫夏草の一種で、日本の雑木林の落ち葉の下にも潜んでいる。また菌糸体とは、キノコの根にあたる糸状の組織のことだ。

 菌糸体を使った素材自体は過去にもあるが、今回の素材は今までのものとは一線を画す。

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 従来のものは、乾燥や加熱工程を経るもので、プラスチック包装材や革の代用となる安定した素材として普及しつつある。

 その工程は菌を死滅させるため、生きた菌糸体の成長力や修復力は当然失われる。

 中国科学院・深圳先進技術研究院のKe Li氏と、研究室を率いるChao Zhong氏ら研究チームは、それらの力を維持するべく、菌を生かしたまま素材に仕立てる方法を探った。

サナギタケの菌糸を休眠させてシートに

 研究チームがたどりついた手段はこうだ。まず球状に育てたサナギタケの菌糸の塊を型に入れ、45度で6時間乾燥させてシート状の素材にする。

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 できた素材は完全に死んでもいないが、かとって活発に成長しているわけでもない。代謝がごく低い、いわば休眠に近い状態となる。

 この工夫により、菌は死なずに形を保ち続ける。さらに仕上げにグリセリンを染み込ませれば、しなやかになり、折り曲げたり伸ばすことも可能だ。

 このように生物を基盤に作られ、最終的な形に加工された後も生物としての活動を保ち続ける素材は、人工生体材料(Engineered Living Materials:ELM)または「生きた材料」と呼ばれている。

栄養液で目覚める性質

 ほぼ休眠中のサナギタケの菌は、一定の条件がそろえば再び目覚めることもできる。

 じゃがいもの茹で汁を使った栄養液を与えると、菌糸が発芽し、新たな菌糸を空気中に伸ばし始める。この菌糸は「気中菌糸」とも呼ばれる。

 この性質を応用し、栄養液を与える場所を工夫すれば、素材表面に狙った模様を描くこともできる。

自己修復の仕組み

 それでだけではない。破れたり傷ついたりしたときも、この性質で修復できる。傷口に新鮮な生きた菌糸の小片をあてがい、栄養液を与えると、その隙間を埋めるように生きた細胞が成長する。

 接着剤や縫い糸を使わずとも自然にかつ、なめらかに傷がふさがる。さらに驚くことに、このような傷の修復を10回繰り返しても、素材の強度は元の状態の約9割を保っていた。

撥水性と自己洗浄性に分解性も

 新しく伸びた気中菌糸には、もう一つ、重要な性質がみられた。そこに垂らした水滴がほぼ球形のまま転がり落ちる撥水性だ。

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その際、水滴が汚れの粒子も一緒に運んで落ちてゆく。この仕組みにより、汚れにくく自己洗浄性のある表面となる。

 なお乾燥直後の基材自体には、さほど強い撥水性は見られない。気中菌糸が育って初めて、防汚性と自己洗浄性がある表面に変わるという。

 またこの素材で作った小さな箱を土に埋めたところ、41日でほぼ完全に分解され、環境負荷の低さが確かめられた。

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酵母で色もつけられる

 サナギタケの菌糸でできた素材には色もつけられる。今回研究チームは色素を作る酵母(サッカロミセス・セレビシエ、学名:Saccharomyces cerevisiae。出芽酵母とも呼ばれる)を遺伝子操作し、その表面にサナギタケの細胞壁と結合しやすいたんぱく質(キチン結合たんぱく質)を持たせた。

 その酵母を菌糸体に混ぜて培養すると、酵母がしっかり菌糸に定着し、色素を作り出す。

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 今回は青色を出す酵母を使うことで、ダークネイビー色の布を作り、そこからドレスの試作もできた。

 研究チームは青のほかに、赤、オレンジ、紫の色素を出す酵母株も作った。 色によっては時間が経つと薄くなったりしたが、将来的にはこれらをうまく混ぜ合わせることで中間色も再現できる見込みだ。

 このように不安定な側面もあるが、染料なしで色がつくため、従来の染色工程で必要な大量の水や薬品を減らす可能性もあるという。

カビで紫外線耐性を付加

 キノコの菌糸でできたこの素材には、表面に紫外線耐性もつけられる。

 菌糸体の表面に、メラニンを豊富に作るクロコウジカビ(学名:Aspergillus niger)の胞子を吹きつけてから育てると、紫外線を吸収する層ができる。

 その効果を確かめるため、キノコの胞子の上にクロコウジカビを吹き付けて育てた層を配置し、紫外線を3時間当てたところ、キノコの胞子はほぼ通常どおりに発芽した。

 一方、そうした層に覆われず紫外線を直接浴びたキノコの胞子は、発芽率が大幅に減った。この結果から、クロコウジカビを吹き付けた菌糸体の層に、日焼け止めのような効果があることがわかった。

ドレスは展示品で未着用

 今回ドレスの試作を手がけたのは、ドイツ・ベルリンを拠点とする素材開発企業ピールスフィア社だ。

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 同社の創業者YouYang Song氏はLi氏の友人で、デザインも担当した。

 ただ色がついているだけでなく、飾り襟に葉形の模様、裾には気中菌糸を密生させて作った花びら形のフリルが施されているなど、この素材でできるバリエーションをいくつも使った凝った作りだ。

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 ここまできたら衣類としての着心地も知りたくなるが、このドレスは展示用の一点物で、サイズも小さく、まだ誰も袖を通したことはないとのこと。

 なお研究チームは次なる試作も考えているようだ。Li氏は、今度は小柄でチャレンジ精神のある人が着てくれるかもしれない、と語っている。

ポテンシャルと今後の課題

 自ら再生し、環境に反応するこの素材は、新たなポテンシャルを秘めている。Li氏が考える主な用途は、視覚的表現と製品寿命が明確なものだ。

 この素材がもつ生物由来の着色、コントロールできる修復機能、さらに生分解性という特長から、概念的なファッションやアクセサリー、装飾的な生地、展示作品、生分解性の包装材などが適しているという。

 一方で、耐久性や耐湿性、安全性や製造の一貫性が求められる日常着や恒久的な建物にはさらなる改良が必要だと述べていた。

「ゲームそっくり」「なぜ作った」「最後はサラダ?」の声

 なかなか興味深い素材だが、この研究は米ニュースサイトSlashdotでも紹介され、こんなコメントが寄せられた。

  • 「The Last of Us(ザ・ラスト・オブ・アス)」の始まりそのものでは?
  • 冬虫夏草って昆虫とかに寄生してゾンビ化させるんでしょ?生きた冬虫夏草と人間が物理的に接触するようなものをなぜわざわざ作るの?
  • 突然変異が心配
  • 洗濯機で洗えるの?
  • その服のお手入れは?冷蔵庫で保管するのか?お洗濯は食洗器でいいのかな。寿命が来たら切り刻んでサラダにしたり、庭に撒いたり、クリスマスプレゼントのラッピングにできるのか

 なお「The Last of Us」とは、アメリカのPS向けサバイバルホラー・アクションアドベンチャーゲームシリーズ。人間の脳に寄生する謎の菌が蔓延する世界で繰り広げられる。

 その寄生菌がまさに冬虫夏草系なうえ、感染者は末期になると頭部がキノコそっくりになるそうで、思わず想像をたくましくしたユーザーもいたようだ。

 まあなんだ、生きたキノコの菌糸製ならやっぱ洗剤使っちゃダメな気がする。いつか洗濯機ではなく、水やりのお手入れが必要な服を着る未来がやってきたりするんだろうか。

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References: DOI: 10.1126/sciadv.aed693[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aed6937] / Dress made of living mycelium can renew and repair itself[https://www.dezeen.com/2026/08/05/dress-living-mycelium-renew-repair/] / Why the future of fashion might involve wearing live fungi[https://phys.org/news/2026-07-future-fashion-involve-fungi.html]

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