哺乳類の祖先は、卵を産んで育てていたと長年考えられていた。
ところが、アルゼンチンの研究チームが、約2億3600万年前の哺乳類の先祖であるキノドン類の骨の化石を調べたところ、卵ではなく、母体から赤ちゃんがそのまま生まれたことを示す痕跡が見つかった。
これまで、哺乳類が赤ちゃんを産むようになったのは1億4000万年前頃とされていたが、9000万年以上さかのぼる可能性がある。
この研究成果は『Frontiers in Mammal Science[https://www.frontiersin.org/journals/mammal-science/articles/10.3389/fmamm.2026.1845319/full]』誌(2026年8月13日付)に掲載された。
哺乳類の祖先は長らく卵を産んでいたとする説
哺乳類の祖先は、キノドン類[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%8E%E3%83%89%E3%83%B3%E9%A1%9E]と呼ばれる脊椎動物である。
ペルム紀後期に誕生し、三畳紀に多様化して、哺乳類の特徴を少しずつ備えていった。哺乳類は、キノドン類の中から現れた。
見た目はトカゲやワニに近かったが爬虫類の仲間ではない。単弓類というグループに属していて、爬虫類とは3億年前に枝分かれした別の系統にあたる。
胎生は哺乳類だけのものではない。魚類や爬虫類など脊椎動物のさまざまな系統で、150回以上も別々に生まれてきた。
哺乳類につながる系統でいつ始まったのかが、長く分かっていなかった。
キノドン類はこれまで、卵を産んでいたという見方が一般的だった。
その根拠は、現在の哺乳類の分かれ方にある。
今の哺乳類は3つのグループに分かれていて、最初に枝分かれした最も古い系統が、カモノハシとハリモグラをふくむ単孔類(たんこうるい)である。
単孔類は哺乳類でありながら、今も卵を産んでいる。残る2つのグループ、カンガルーなどの有袋類と、人間をふくむ有胎盤類は、どちらも赤ちゃんを産む。
一番古い枝が卵を産んでいるのだから、その手前にいる祖先も卵を産んでいた「卵生」と考えるのが自然だった。
赤ちゃんを産む「胎生」という繁殖形態は、有袋類と有胎盤類が枝分かれした約1億4000万年前ごろに身についたとされてきた。
化石の骨の内部に残された成長線
ブエノスアイレス大学の研究チームは、アルゼンチン北西部で見つかった1体の成体の化石を詳しく分析した。
約2億3600万年前の三畳紀後期に生きていたキノドン類の一種で、チニクオドン・テオトニクス(Chiniquodon theotonicus)と呼ばれる鋭い犬歯を持つ肉食動物だ。
研究チームが化石の骨を薄く切って顕微鏡で観察したところ、骨の内側に、胚の時期につくられた組織が残っていた。
骨は内側から外側へ層を重ねて太くなるため、大人まで育った個体でも、一番内側には生まれる前の記録が残る。
胚の組織と、生まれたあとにつくられた組織の境目には、はっきりとした線が引かれていた。
これは新産線(しんさんせん)[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E7%94%A3%E7%B7%9A]と呼ばれ、生まれた直後に成長の速度が急に上がることによってできる成長線である。生きている動物の骨や歯でも確認されている。
卵の化石がなくても、この線で生まれたときの体の大きさがわかる。
線の位置はこの個体が生まれた瞬間の骨の太さを示し、骨の外側の表面は死んだときの太さを示しているからだ。
両方を測れば、同じ1頭が生まれたときと死んだときの体重を推定できる。
卵ではなく赤ちゃんとして生まれていた可能性
計算の結果、このチニクオドン・テオトニクスが生まれたときの体重は約1.7kgで、死んだときが約12kgであることがわかった。
誕生時には、大人になったときの体重の14%もあったことになる。
卵を産む動物と赤ちゃんを産む動物とでは、生まれた子の大きさがまるで違う。
卵から孵る子は、卵に入る大きさまでしか育たないが、赤ちゃんを産む子は、母親の胎内で子を育ててから産むため大きくなる。
研究チームは、現生の5000種以上の動物と比較していった。
- カメやヘビ、ワニ(卵生)のうち大人の体重が8kgから14.5kgのものは、孵ったばかりの子が9gから53g。大人の0.1%から0.6%にすぎない
- 卵を産むカモノハシなどの単孔類と、未熟な子を産んで袋で育てるカンガルーなどの有袋類は、生まれたときが大人の0.15%にも満たない
- 人間やシカのように胎盤を持つ有胎盤類は、生まれた子が大人の18%を超えることもある
チニクオドンの誕生時の体重の比率は14%で、人間やシカと同様の有胎盤類に近かった。
有胎盤類は現生の哺乳類の約95%を占めるグループで、母親の体の中で子を十分に育ててから産む。
統計的な分析を重ねた結果、チニクオドンは高い確率で有胎盤類と同じグループであることがわかり、爬虫類や鳥類とははっきり区別された。
哺乳類が赤ちゃんを産み始めた時期は9000万年さかのぼる
キノドン類の一種、チニクオドンが赤ちゃんを産んでいたのなら、哺乳類が赤ちゃんを直接産むようになった時期は、定説だった約1億4000万年前頃から、9000万年から9500万年にさかのぼることになる。
ただしまだ疑問が残る。
チニクオドンのみがいち早く赤ちゃんを産むようになったのか、キノドン類全体が赤ちゃんを産むようになったのかはわかっていないからだ。
チニクオドンだけが例外なら、チニクオドンと今の哺乳類とで胎生になったタイミングが異なることになる。
キノドン類全体がそうだったのなら、胎生になったのはもっと早く、そこから枝分かれした哺乳類全体が受け継いだことになる。
だとすると、今も卵を産むカモノハシとハリモグラは、後から先祖返りして卵生に戻ったことになる。
論文は、今はどちらが正しいか決められないとしている。
調べたのは1個体だけで、体重の計算式も現生の食肉類をもとにしたものだからだ。
また、研究チームは、三畳紀という時代の環境も指摘している。
ペルム紀末の大量絶滅のあとで、食べ物をめぐる競争も、天敵に襲われる危険も激しかったし、乾燥も進んでいた。
そうした環境では、母親の体の中で子を育てるほうが、卵よりも子を守りやすかったのかもしれない。
研究チームは今後、ほかの標本でも胚の組織を探し、哺乳類が卵生から胎生に変化した時期を正確に特定しようとしている。
References: doi.org/10.3389/fmamm.2026.1845319[https://www.frontiersin.org/journals/mammal-science/articles/10.3389/fmamm.2026.1845319/full] / New fossil evidence challenges the story of mammalian birth | EurekAlert![https://www.eurekalert.org/news-releases/1139026]











