人間の詐欺師よりAIの方が人の心を巧みに操り、うまく騙すことができるとする研究結果が報告された。
4カ国の合同研究チームが、AIチャットボットと人間のそれぞれに、1週間にわたるテキスト会話を通じて、相手の信頼を勝ち取るテストを行った。
その結果、AIは人間の2倍以上の確率で相手を信頼させ、要求をのませることに成功したという。
今後、AIが自律的に人を騙して詐欺へと誘導する手口が蔓延する危険性が警告されている。
この研究成果は査読前のプレプリント『arXiv[https://arxiv.org/abs/2512.16280]』(2026年4月18日付)に公開された。
近年増加するAIを使用したロマンス・ベイティング詐欺
近年、「豚の屠殺(ピッグ・ブッチャリング)」詐欺が世界中で蔓延している。
まったく知らない相手に近づき、恋愛感情や親近感を抱かせて長い時間をかけて信頼関係を築き、最後に偽の投資話を持ちかけて全財産を奪う手口だ。
ロマンス詐欺と投資詐欺を組み合わせたものだが、被害者を豚に例えるのは配慮に欠けるとして、国際刑事警察機構は2024年に「ロマンス・ベイティング(romance baiting)」への言い換えを呼び掛けている。
日本でもロマンス詐欺の被害額は2025年に546億円にのぼり、前年より増え続けている。
莫大な被害を生むこの詐欺ビジネスで、詐欺師たちはターゲットを騙すための補助ツールとしてAIを使い始めているが、AIだけで自律的にターゲットを騙すことが可能なのだろうか?
インドのアムリタ大学、イタリアのカ・フォスカリ大学、オーストラリアのメルボルン大学、イスラエルのベン・グリオン大学からなる合同研究チームは、生成AIチャットボットが詐欺においてどれほどの能力を発揮するのかの検証を行った。
研究チームは、詐欺のプロセスの中で最も時間と労力を要する「長期的な信頼構築」の段階において、AIチャットボットと人間の詐欺師を直接対決させたのだ。
圧倒的な騙しのテクニックでAIが勝利
2025年初頭に行われた実験では、「人々がオンラインでどのように友達を作るか」という名目で集められた22人の被験者が参加した。
被験者は、1週間にわたって2人の「人物」とテキストメッセージでやり取りを行った。
被験者には知らされていなかったが、やり取りの相手の1人は詐欺の手引き書をもとに訓練を受けた人間であり、もう1人は研究チームが作成したAIチャットボット「Claude(クロード)」のエージェントだった。
ClaudeはアメリカのAI企業が開発した、人間のような自然な会話ができる高性能なAIである。
1週間のやり取りの終わりに、人間とAIはそれぞれ被験者に対して「アプリをダウンロードしてほしい」という要求を出した。
本物の詐欺なら、偽の投資アプリを入れさせる場面にあたる。ターゲットが詐欺師の言葉にどれだけ従うかを測るための要求である。
その結果、人間の要求に応じてアプリをダウンロードした被験者はわずか18%だったのに対し、AIチャットボットの要求に応じた被験者は46%にのぼった。
AIは人間の2倍以上の確率で、ターゲットに要求を飲ませることに成功したのである。
根気強さと寄り添いと記憶力。AIが被害者の信頼を勝ち取る理由
実験の後、被験者に、やり取りした相手をどれだけ信頼したかを答えさせたところ、感情面も、全体としての信頼も、AIの方が人間より明らかに高かった。
さらに、被験者が1週間に送信したすべてのメッセージのうち、7割から8割がAI宛てに送られていた。
被験者は本物の人間よりもAIと会話することを好んでいたのだ。
AIがここまでターゲットの心を掴んだ理由は、AI特有の性質にある。
AIは相手の些細な情報を正確に記憶し、一切の疲れを見せずに延々と会話に付き合うことができる。
そして、人間が一般的に抱かないような強い関心をターゲットに示し、徹底的に相手に寄り添い「親密な関係」を完璧に演じきったのだ。
人間が親身になっているふりをするよりも、AIの方がはるかに上手に親身になっているふりをした結果と言える。
さらに厄介なことに、AIは「自分が人間だ」という嘘を完璧につき通した。
会話の最中に相手をAIではないかと疑った被験者はわずかで、AIであることを怪しまれた際にも、AIはそれを完全に否定し、辻褄を合わせるための説得力のある作り話までしたため、信じるようになったという。
実験の最後に相手がAIだったと明かされると、完全に騙されていたことにショックを受ける被験者が多数いたという。
詐欺師がAIにとってかわり、騙される人がさらに増える危険性
この研究は、専門家による査読を受ける前の段階で公開されたもので、参加者が22人と少なく、期間も7日間にとどまるという限界がある。
それでも研究チームは、ネットに慣れた人たちですら見抜けなかったのだから、より無防備な人が狙われればもっと危ないと警告している。
現在、東南アジアを中心とする詐欺拠点では、AIを翻訳や文章の手直しに使うだけで、会話そのものは人身売買などで連れてきた人々に強制的にやらせている。
低賃金、あるいは無給で働かせるほうが、AIを動かすより安上がりだからだ。
AIの利用料が下がり、詐欺拠点への取り締まりが強まるにつれ、AIチャットボットが近い将来、強力な詐欺エージェントとして人間の詐欺師に取って代わる危険性が示唆されている。
AIを使って詐欺の最初の信頼関係の構築段階を自動化し、金を引き出す最後の場面だけ人間が出ていけば、摘発されるリスクも少なくなるからだ。
毎日優しい言葉をかけ、話を聞き、こちらが一度だけ話した些細なことまで覚えている相手。
人がそういう相手を信じてしまうのは自然なことだ。ただし、その相手が人間だとは限らないのだ。
References: [2512.16280] Love, Lies, and Language Models: Investigating AI's Role in Romance-Baiting Scams[https://arxiv.org/abs/2512.16280] / AI Chatbots Are Better at Scamming People Than Human Scammers, Study Finds[https://www.vice.com/en/article/ai-chatbots-are-better-at-scamming-people-than-human-scammers-study-finds/]











