地方の中小企業が低コストで海外進出する方法は何か。『世界最強のEC戦略』の著者でAmazonトップコンサルタントの伊藤祐太氏は「創業80年、従業員40名の下請けメーカーの海外進出に伴走したことがある。
彼らは薄利多売を卒業し、地球の反対側から指名買いされるまでに成長した」という――。
■いいものを作っても価格を下げても売れない
日本の、ある地方都市。その、ごく普通の住宅地の一角に、その会社の工場と物流センターはあります。社員は40人ほど。つくっているのは、カップホルダー、ドリンクホルダー、スマホホルダー、ナンバーフレーム――クルマに乗る人なら、一度は手に取ったことがあるはずの、地味なカー用品です。
創業は戦後すぐ。もとはガラスの文具を手がけていた町の製作所でしたが、車社会の到来とともに、自動車用品メーカーへと姿を変えてきた、典型的な日本のものづくり企業です。
国内では、これまで全国の大手カー用品チェーンに商品を卸し、堅実に商売を続けてきました。しかし、その足元は静かに揺らいでいました。
国内の新車販売は伸びず、人口は減っていく。店頭の棚は限られ、価格競争は年々きつくなる。
「このまま続けていて、10年後、この会社はあるのだろうか」――経営者の頭から、その問いが離れることはありませんでした。

■「海外で売る」という選択肢
そこで賭けたのが、海の向こう、アメリカ市場でした。
どのように展開したか。
もちろん、現地に営業所を構えたり、大手商社に頼むような余裕はありません。
まず行ったのは、Amazon.comに自社で出品し、アメリカの消費者へ直接モノを売る、いわゆる「越境EC」という手段です。
これまで日本の市場だけで展開していた、設備も人も限られた地方の、たった40人の会社が、いきなり地球の裏側の市場にネット一本で挑む。
一見、無謀にも思える挑戦でした。
■人気車にぴったり収まるカップホルダー
ここで、ひとつ面白い発想の転換が起きます。
アメリカで、ただ「日本のカー用品」を並べても埋もれるだけです。
そこで狙いを定めたのが、アメリカ人が熱狂的に愛する“定番車”でした。
ジープ・ラングラー、トヨタ・タコマ――彼らが自分好みに改造し、何年も乗り続けるあの無骨なSUVやピックアップトラックです。
その人気車「だけ」に、ぴったり合うカップホルダーや小物を、日本品質でつくる。
これが、刺さりました。

じつは、アメリカにも同じような車種向けのアクセサリーはいくつも存在します。
市場は、むしろ競争が激しい。
それでも選ばれた理由は、ただ一つ――「収まりの良さ」と「仕上げの質」でした。
特定の車種の、あのコンソールのへこみに、寸分の狂いもなくはまる。
取り付けると、まるで最初からメーカーが用意していた純正部品のように見える。
現地の購入者からは、「まるでトヨタが造ったかのようだ」「純正そのものに見える」「内装のダイヤルと完璧に合う」といった声が並びました。
価格は、この種のアクセサリーとしては強気の一個およそ50ドル(約7500円)。
それでも評価は星4.6、ひと月に50個以上が売れていきます。
「たかがカップホルダーに50ドル」と迷った人ほど、取り付けたあとの“純正のような収まり”に納得していました。
日本では「合って当たり前」の精度と仕上げが、アメリカでは“多少割高でも欲しい”という価値として認められたのです。
■立ちはだかった三つの壁
もちろん、道のりは平坦ではありませんでした。
アメリカで売るということは、日本の常識を一度、すべて脇に置くことでもありました。
立ちはだかったのは、大きく三つの壁です。
・「見せ方」の壁
アメリカの買い物客がどんな言葉で商品を探し、どんなページなら安心して買うのか。
それは日本とはまるで違いました。
「タコマ カップホルダー」「ラングラー アクセサリー」――現地のオーナーが実際に打ち込む検索の言葉を一つずつ拾い上げ、商品名も写真も説明の並べ方もアメリカの感覚に合わせて組み直していきました。
出発点は、レビューゼロ。誰の目にも留まらないところからのスタートです。
アメリカの買いもの客は、レビューの数と星の数を日本以上にシビアに見ますから、ここを地道に積み上げることが、最初の正念場でした。
・「知ってもらう」壁
アメリカの広告は、できることもルールも、日本とは別物でした。
しかもその手法は、半年もすれば様変わりしました。
昨日の正解が、今日にはもう通用しない。つねに最新のやり方をキャッチアップし、この市場に合うかたちへ翻訳し続ける必要がありました。
・目に見えない「物流」の壁
どれだけ広告で注文を取っても、商品が手元に届かなければ意味がありません。

国内の自社工場から、海を越えてアメリカのAmazon倉庫まで、どのルートでどれだけの時間をかけて運ぶのか。
関税、輸送ルート、リードタイム――それらをすべて計算に入れて、「いつ何個つくり、いつ送り出すか」を設計する。お客さまの「頼めば、すぐ届く」という当たり前の体験を守るための、地味で、しかし決定的に重要な仕事でした。
■そして年商100万ドル(1億5000万円)へ
転機は、“勘”をデータの上に乗せ替えたときでした。
どの商品が、どの車種の、どんな検索語から売れているのか。
広告費を1ドル投じれば、売上は何ドル返ってくるのか。
数字で見えるようになると、打ち手が一変します。
勝っている商品に資源を寄せて、負けている広告は迷わず止める。
その積み重ねで、アメリカでのEC売上は、出品当初のゼロから、わずか1年間で5000万円に。
さらにここからの展開がすごかった。
Amazon.comでの販売が順調であることを知った、アメリカの自動車ディーラーやパーツ販売店が、「この製品を、リアル店舗でも扱いたい」と言ってきたのです。
リアル店舗でも扱われるようになると、ECもさらに売上が伸びていきました。

結果、アメリカでのECにおける年商は約100万ドル――日本円にして、およそ1億5000万円の規模にまで育つことになったのです。
■薄利多売の下請け業から世界ブランド企業へ
私はこの挑戦に、戦略づくりから広告運用まで伴走しました。
けれど、最後までやり切ったのは、この会社の40人の社員たちです。
私がこの仕事でいちばん胸を打たれるのは、売上の数字そのものではありません。
長い間「言われたものを、決められた値段でつくる」側にいた会社が、自分たちのブランドを掲げ、地球の裏側の消費者から“名指しで”選ばれる側へ回った――その一点です。
下請けの薄利多売から、自分の名前で世界に売る商売へ。
立っている場所が、180度、変わったのです。
日本の中小企業には、世界で通用する技術と気くばりが、まだ眠っています。
本当は価値があるのに、薄利多売に甘んじている会社は少なくありません。
足りないのは技術ではなく、「どこで、誰に、どう届けるか」という戦略と、それを支えるデータの仕組みだけです。
この小さな地方のカー用品メーカーが教えてくれるのは、世界市場はもう、大企業だけのものではない、というシンプルな事実なのです。

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伊藤 祐太(いとう・ゆうた)

ECコンサルタント

Meets Consulting代表取締役社長。
4年半のAmazon Japan G.K.在籍中に3年連続で全社最高評価を獲得。トップコンサルタントとして、グローバル企業から中小企業まで幅広い規模・業種のクライアントのEC事業拡大を支援し、平均成長率120%以上を達成。独立後も上場企業から中小企業まで200社以上のEC戦略・AI活用・デジタルマーケティング・新規事業開発を支援。同時に、自らもEC事業を立ち上げ、たった2人でわずか4年で年商10億円を突破し、その理論の正しさを実践で証明。東証プライム上場企業やグローバル金融機関などで講演活動も行っている。初著書『Amazonトップコンサルが教える世界最強のEC戦略』2026年7月31日発売。

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(ECコンサルタント 伊藤 祐太)
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