私立大学職員だった男性は副業として焼肉店を開業し、SNSを駆使して看板商品を見事にバズらせて店は連日大行列。だが、新型コロナ・ウイルスの蔓延で一気に客足が遠のいた。
男性が生き残りのために次に手がけたのは「フルーツ大福」。これまた大人気となり、店舗数は急拡大したがその後、失速。いったい何があったのか――。
※本稿は、鈴木智哉『バズらせない地域SNSでひとり起業』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。
■フルーツ大福とともに、東京進出
背筋が凍るような予感は的中しました。新型コロナ・ウイルスの蔓延で店(焼肉店「令和ホルモン」)の前から行列がきれいさっぱり消え失せたのです。当然、売上は激減。それでも、なんとか生き残ろうと試行錯誤しました。SNSで仕入れた情報をもとに「カップ入りお好み焼き」などを売り出したりもしましたが、なかなかうまくいきませんでした。
そんな中、新しい商売のタネを探していた僕の目に留まったのが「フルーツ大福」でした。イチゴやみかん、キウイフルーツなどの果実が、大福の真ん中にまるごと入ったスイーツです。
「SNS×グルメ」の世界を研究してきた感覚から、「これはいける!」と直感しました。

一番のポイントは、断面のビジュアルの強さ。カラフルで、みずみずしく、可愛らしい。特に女性の心をつかめる商品だということはすぐにわかりました。参入にあたって大規模な投資が必要なわけではなく、ギフト需要や通販での展開も見込めます。商品力の高さに惚れ込みました。
2020年9月、事業化を目指して行動を開始。独学でフルーツ大福の研究を進める一方、名古屋にある和菓子店で短期間ながら修行もしました。
■「絶対に東京で勝負すべきですよ!」
いったん大阪に戻って作戦を立てよう――そう思っていたときです。
ある友人から、こんなふうにハッパをかけられました。
「智哉さん、大阪に帰ってどうするんですか? ちっちゃい経営者で終わるつもりですか? 絶対に東京で勝負すべきですよ!」
その友人は、僕よりも年下でありながら大きな夢を描いて会社を経営しています。熱い言葉をかけられて、僕の心にも火がつきました。
大阪に帰るのをキャンセルし、逆方向の新幹線で東京に向かったのです。
そこから怒涛のスピードで準備を進めました。
金沢の、甘さ控えめの上質な白あんを使うことをブランドの中心に据えることとし、急ピッチで生産工程を確立。そして11月22日、東京スカイツリーの近くに「金沢フルーツ大福 凛々堂」1号店をオープンしました。
■集客力抜群の“これなに動画”
わずか2か月ほどだった準備期間にも、TikTokを中心に、SNSでの発信を続けていました。その一つが“これなに動画”です。
フルーツ大福とSNSの相性のよさの一つに、「タコ糸で大福をカットする様子が面白い」というものがあります。大福にタコ糸を一周巻きつけ、縛るようにして半分に切ると、きれいな断面が現れるというわけです。
“これなに動画”とは、僕が「これなに、これなに?」と歌いながらタコ糸で大福を切る動画のこと。
視聴者は「中に何が入っているのかな」「どんな断面が現れるのかな」というのが気になって、つい最後まで見たくなる仕掛けです。
そうやって動画の視聴時間を長くすると、バズにつながりやすくなります。実際“これなに動画”は数十万回の再生数を稼ぎ、フォロワーの増加に大きく貢献しました。広告費はゼロ。
SNSの特性を生かせた実例だと思います。
その成果は、開店当日に表れました。まだまだコロナによる外出自粛の雰囲気が強かった中にあって、お店の前には約30人もの行列ができていたのです。
フルーツ大福に賭けた僕の第二の挑戦が、こうして始まりました。
■接客ライブ配信で熱狂的ファンが続出
フルーツ大福に大きな可能性を感じた僕は、一気にシフトチェンジを進めました。
東京で1号店を開店した翌月の2020年12月には、コロナの影響でほぼ稼働できない状況だった「令和ホルモン」を閉店。お店だった場所をフルーツ大福の工場として利用し始めました。
そこで商品をつくり、知り合いの飲食店の前で路上販売させてもらいました。テーブル一つの簡素な“2号店”でしたが、大通りに面していたこともあり、よく売れました。やはりそれも、目を引くビジュアル、パッと見で「おいしそう」「食べてみたい」と思ってもらえる商品力があったおかげだと思います。
勢いはさらに加速し、出店が続きます。2022年には「凛々堂」は、FC店も含めて全国19店舗まで拡大しました。

■手間をかけずに多くの客にリーチできる
これほどの勢いが生まれた背景には、やはりSNSの力がありました。特にTikTokを継続的に活用して、タコ糸で大福を切る“これなに動画”も出し続けました。当初ほどは再生されなくなったとはいえ、それでも3000回は再生される。ほとんど手間をかけずに3000人にリーチできるわけですから、やる意味は十分にあると考えました。
また、商品を並べたディスプレー棚を移した映像に「どれが食べたいですか?」という字幕をかぶせた動画なども投稿。こうしたコンテンツはユーザーからの回答コメントを誘発することでエンゲージメント(愛着度)が上がり、バズにつながりやすくなります。
TikTokを活用した施策の中で、とりわけ顕著な成果を生んだのが、店員による接客の様子をライブ配信する試みでした。
当時、実際の接客の様子をライブ配信している唐揚げの屋台があり、好評を博していました。それを参考にして「凛々堂」でもやってみることにしたのです。
直営店で始めてみたところ、配信を視聴してくれるお客さんがどんどん増えていきました。店員さんはあくまで一般人ですが、単純接触効果で、その人の顔を繰り返し見ているうちにファンになっていくものです。
また、店員さんには若い女性が多かったこともあり、アイドル的な要素も掛け合わさって、熱狂的なファンがつくようになりました。
この接客ライブ配信に取り組んでいた頃は、ファンの方々のパワーの凄まじさを見せつけられました。
たとえばライブ配信で、店員さんが「今日は雨なのでお客さんが少ないです」とちょっと悲しそうに話すと、わざわざ店に駆けつけ商品を大量に買ってくれるファンの方が現れたり。ギフティング(投げ銭)で1カ月に20万円も稼ぐような店員さんが現れたりもしました(利益は店舗と折半することにしていました)。
また、店を辞めることになった店員さんの最終出勤日に全国から数十人ものファンが集まり、店内がプレゼントでいっぱいになったこともありました。
■バズによって想定と異なる客層が増えた
僕自身も店員さんも、最初は楽しみながら接客ライブ配信を行っていましたが、人気が高まったことでいろいろな弊害が出るようにもなってきました。
たとえば、配信を通してファンになってくださったお客さんが、お店の近くで出待ちをするようになったり、店員さん個人のSNSにプライベートなメッセージが届くようになったり。そうした事態を受けて、店員さんの安全管理を含めたマネジメント業務の負担が大きくなっていきました。
また、「令和ホルモン」がそうであったように、お店がもともと想定していたのとは異なる客層がバズによって増えた結果、ターゲットとしていた客層がお店に近づきにくくなる、という状況が生じつつありました。
フルーツ大福は、40代以上の女性層が本来のターゲットでしたが、ライブ配信でファンになってくださったのは主に男性でした。
■一過性の“もろさ”
「令和ホルモン」と「凛々堂」での経験を通じて、僕は“バズ”というものが持つ二つの側面を目の当たりにしました。
一つは、威力の強さです。うまく利用できれば、ただの焼肉店が観光客が行列をつくる「大阪ランチの定番スポット」に生まれ変わります。
新規参入のスイーツ店を流行らせ、猛烈な勢いで全国展開させることもできます。バズの圧倒的なパワーを、二つの業態で身をもって体感しました。
ただ、バズにはもう一つ、目を背けてはならない一面があります。それは、コントロールの難しさです。SNSの特性をしっかりと学び、それに合った施策を打てば、一定の確率でバズを起こすことは可能です。ただし、不確定要素が大きいのもまた事実です。
来てほしい人にだけ来てもらう、というのはかなり難しい。意図したのとは違う方向に拡散していく可能性が高いのです。
コントロールが利かなくたってかまわない、と思う方もいるかもしれません。バズでお客さんが押し寄せて、儲かるんだったら、事業者側のコンセプトと多少ズレていたって別にいいじゃないか、と思われるかもしれません。
しかし、僕が経験的に思うのは、それでは長続きしないということです。バズに引き寄せられてくるお客さんは「一度体験してみたい」という欲求が満たされると満足しやすいのです。すでに期待値が相当上がっているので、実際のサービスでそれを上回ることが難しい、という一面もあります。
事業者側もそれをわかってくると、強気の価格設定にするなどして、リピートをあまり期待しなくなります。590円から2490円まで値上がりした「令和ホルモン」のステーキ丼がいい例です。
■ビジネス成功に最も大切な“唯一のこと”
結果、お客さんとお店・ブランドの間には、ごく浅い関係性しか生まれません。半永久的に新規客が供給され続ける超有名観光地などであれば、それでいいかもしれません。でも、そうではない場合、バズは一過性のブームとして過ぎ去っていくのです。
大きな波に飛び乗ったはいいけれど、その結果、商品やサービスは短命に終わってしまう。
そんな事実に僕は気づき始めていました。最大で全国23店舗(直営6店舗)にまで急拡大した「凛々堂」ですが、その売上はみるみる落ちていきました(現在は2店舗に縮小)。その要因は「飽きられた」という一言に尽きます。バズに支えられた“もろさ”を露呈した形です。
僕の心には、成功したという実感はなく、不完全燃焼の思いがありました。
「凛々堂」のビジネスに、事業としての完成度も再現性も見出せていなかったからです。こんな、砂のお城のような結果で終わりたくない。次こそは、一過性のブームではなく、自分自身が心から納得できる「本物」をつくりたい。そう強く願い、僕はまた新たな挑戦に向けて歩み始めました。

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鈴木 智哉(すずき・ともや)

C&C 代表取締役、地域創生フランチャイズ「まちアカ」主宰

飲食事業にて複数ブランドを立ち上げ、短期間で多店舗展開を実現。その後、地域に眠る魅力と人をつなぐ仕組みとして「まちアカ」を立ち上げる。SNS・リアル・コミュニティを掛け合わせ、地域の集客・採用・ブランド化を支援。現在は、地域発のビジネス創出と全国展開をテーマに、企業・自治体・個人に向けた支援を行っている。

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(C&C 代表取締役、地域創生フランチャイズ「まちアカ」主宰 鈴木 智哉)
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