職場の雰囲気を変えたいと思ったら、何から着手したらいいのだろうか。東京大学大学院 客員研究員の安斎勇樹氏は「現場の声によって経営層の意志を変えるプロセスは4つのフェーズに整理できる。
まず2つのフェーズの実例を紹介するので参考にしてほしい」という――。
※本稿は、安斎勇樹、水野祐『組織の成果を最大化する ルールのデザイン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■第一歩は「褒められる行動を決める」
フェーズ(1)日常のルーティンに「称賛」を埋め込む
組織文化が「組織を特徴づける共有されたパターン・規範」であることはこれまで述べてきた通りです。その組織文化は、組織内において「何が称賛されるか」「どんな行動が理想的か」を明らかにすることによって形成されやすくなります。
経営者がどれだけ理念を語っても、現場で実際に称賛される行動が理念と矛盾していれば、メンバーは理念ではなく称賛される行動のほうに従います。逆に言えば、日常のルーティンの中で「望ましい行動」を称賛する仕組みを埋め込むことで、理念が現場の行動として体現されるようになるのです。
これは組織文化を変える最初の一歩であり、最も着手しやすい取り組みと言えるでしょう。表彰制度やアワード、あるいは日常的なコミュニケーションによって、組織として「こういう行動が望ましい」というメッセージを発信し続けることができます。
成果を出した社員だけでなく、行動指針(バリュー)を体現した社員を称えることで、組織文化の浸透を図ることができるのです。
■20年以上続く「手挙げの文化」
丸井グループが2005年以来取り組んでいるのが、ボトムアップの基盤となる「手挙げの文化」の醸成です(注1)。
その一端が表れているのが、中期経営推進会議や次世代経営者育成プログラム、公認プロジェクト・イニシアチブ、グループ間職種変更異動、外部ビジネススクールへの派遣など、さまざまな場に一般社員が「手挙げ」で参加できる仕組みです。
さらに2023年からは「失敗を許容し挑戦を奨励する文化」への変革を掲げる「企業文化2.0」をスタート。
誰もがチャレンジできる環境をつくるため、「打席数(自らの手挙げによる挑戦の場への参加数)」や「試行回数(成功も失敗も含め、イノベーションに向けた挑戦の回数)」といった行動KPIを設定しました。成果だけでなく「失敗したことも評価する」仕組みを整備することで、その行動を称賛することにしたのです。
注1:「私たちの目指す姿|企業文化」(丸井グループ、2025)
■「知的な変わり者」を評価
ヤッホーブルーイングでは前述の通り、仲間を称賛し合う習慣があり、同社の「ガッホー文化」で提示されている「知的な変わり者」的な行動が共有され、チャットツールや対面の場で称賛されています。
ただ、「知的な変わり者」という言葉が厳密に定義されているわけではなく、明確な採用基準というわけでもありません。けれども社内では「出る杭を伸ばす」と表現されるように、個人の強みを伸ばし、得意なことや興味を積極的に仕事に生かす文化があるのです。
例えば対外的な授賞式の場で、他社がフォーマルな服装で参加する場にあえて仮装して参加したり、絵を描くのが好きなメンバーにメルマガの4コマ漫画を描いてもらったり、あるいは「エベレスト級の登山に挑戦したい」と数カ月会社を休んだりするなど、直接的に仕事に関係ないことも称賛されます。
チャットツールでそうした行動を可視化し、称賛し合うことで、挑戦する文化が日常的に強化されていくのです。こうした組織文化は、『インドの青鬼』『有頂天エイリアンズ』といったユニークな商品開発や国内初の球場内醸造所(そらとしば by よなよなエール)の設立など、大胆なアプローチに表れていると言えるでしょう。
■社内SNSをヒントに現場を改善
スープストックトーキョーでは「世の中の体温をあげる」という理念を浸透させ、現場の改善につなげるため、社内SNSを活用して各店舗やメンバーの取り組みを共有しています。
社内SNS「Smash」では、新メニューや社長コラムといった社内報的なコンテンツはもちろん、各店舗の社員やパートナー(アルバイト)が自由に投稿し、リアクションできるプラットフォームとなっています。そこでは店舗での工夫や挑戦していること、困りごと、あるいは新たなグレード(等級)に昇格したパートナーによる「自分が『世の中の体温をあげる』ためにどんなアクションをするか」という宣言などが投稿され、スタンプやコメントで反応が寄せられています。
「世の中の体温をあげる」をそれぞれが解釈し、課題や挑戦を共有することで、その解決や支援を後押しする文化が生まれているのです。

例えばとある店舗で、ユニバーサルデザインを学ぶ大学生のパートナーが、視覚障がいのあるお客様に対し「時計の文字盤(クロックポジション)に見立てて料理の配置を説明する接客方法」を共有したところ、他店舗から「うちでも参考にしたい」「ぜひ使わせてほしい」と称賛する反応が続き、全店へ展開することになりました。
店舗運営というオペレーティブな業務形態でありながら、現場のメンバーが自律的にサービス改善や新しい試みに取り組む文化が醸成されているのは、そうした行動が社内SNSで可視化され、称賛される仕組みがあるからです。
■失敗したらチーム全員で「祝う」
イノベーションに失敗は欠かせないとはよく言われますが、失敗を奨励することをルール化している企業もあります。『クラッシュ・オブ・クラン』などで知られるフィンランドのゲーム会社Supercellです。
Supercellでは、開発中のゲームが「面白くない」「基準を満たさない」と判断されてボツになったとき、チーム全員でシャンパンで祝杯をあげるそうです(注2)。
失敗したプロジェクトについて、チームで反省会を実施することはあるかもしれませんが、前向きに反省を活かすことまでを仕組み化できている企業はそう多くありません。このようなルールによって、「失敗しても大丈夫」だという共通認識が生まれ、失敗を指摘しやすい職場環境や組織文化を醸成しているのです。
注2:「WIRED Japanese Edition:失敗にはシャンパンの祝福を──世界が夢中になるモバイルゲーム『クラロワ』を生んだミニマルな組織論」(コンデナスト・ジャパン、2017)
■やらされ感をなくす「意思決定の共有」
フェーズ(2)「意思決定の背景」を開示する
フェーズ(1)で日常の称賛によって「望ましい行動」の共通認識が生まれたとしても、戦略の転換、事業の撤退、制度の刷新といった組織の方向性に関する重要な経営判断がブラックボックスのまま降りてくるのでは、現場のメンバーは依然として「やらされ感」から抜け出せません。
組織文化を形成する強力なレバレッジポイントは、経営上の重要な意思決定の背景を共有することです。どんな課題に対し、どんな議論のもと、なぜこの判断をしたのか。何を優先し、何を諦めたのか――。そうした意思決定の文脈を共有することで、組織の価値観が可視化されます。
メンバーは経営者の判断基準を「自分の判断基準」として内面化できるようになり、自律的な意思決定が可能になるのです。
■経営会議を全従業員に公開
サイボウズでは「チームワークあふれる社会を創る」という企業理念を体現するように、約1300名規模となった今でも経営会議を全従業員に公開しています(注3)。
会議の開催前には起案内容や報告事項が公開され、Zoomでオンライン配信されるため誰でも参加することが可能。多いときで100人以上の従業員が会議に参加することもあるといいます。会議では「プレゼン禁止」のルールで、各自共有された資料を読み込んだ後、質問や議論を行うため、会議に参加できないメンバーとの情報格差をできる限り減らせるような運用がなされています(注4)。
経営会議では一般的な大企業と同様、経営戦略や事業戦略、大規模投資や組織変革などさまざまなテーマが議論されていますが、とりわけ特徴的だったのが、東京証券取引所の市場区分見直しに伴う市場変更に関する議論です。サイボウズは当時、東証一部に上場しており、東証からもプライムへの上場基準を満たしていると通知されていました。

注3:「日経ビジネス電子版:サイボウズ、社長提案に『ダメ出し』歓迎 経営会議を全社員1300人に公開」(日経BP、2025)

注4:「THE HYBRID WORK:サイボウズの経営会議は『プレゼン禁止』『とことん全社公開』──組織の一体感をリモートでも保つ経営会議の運営術」(サイボウズ、2022)
■現場のアイデアを採用しプライム上場を決定
ところが本部長などから「チャレンジングな姿勢を示すため、あえてグロースに移行するのはどうか」という意見が出たのです。これに対し、従業員から「営業や採用面を考えると、プライム市場のほうが信頼感やブランド力につながる」といった50件以上の意見や助言が集まり、プライム市場への移行が決定されました。
経営会議を社内公開する会社はあまり多くないかもしれませんが、重要な意思決定がなされてから現場から批判や懸念の声が上がることは少なくないでしょう。経営会議の全社公開は、こうした「経営は現場のことをわかっていない」という認識のズレを減らし、全従業員にとって納得感のある意思決定につなげることができるのです。
■アップデートされた「20%ルール」の中身
Googleと言えば有名な「20%ルール」がGmailやGoogleマップなど数々のプロダクトを生んだと知られていますが、実は20%ルールも今やアップデートされています。


20%ルールは勤務時間の20%を自分の関心のある分野のプロジェクトに使えるというルールでした。しかし、そのルールはあくまで奨励されていたのみで、雇用契約書に記載されるなど十分に制度化されていませんでした。
また、そもそも本業に高い目標が設定されているため、運用されていくにつれ、実質的に「勤務時間120%」になってしまったり、上司に申告しなければならなくなったりと、形骸化が進んでしまったのです。
そこでGoogleは2016年に「Area 120」という社内インキュベーション機関を立ち上げ、新規事業開発にフォーカスする組織をつくりました(注5)。
その後、現在の“AIファースト”の流れを受け、事業整理によるいくつかのサービス終了を余儀なくされているものの、Googleが確かな存在感を示しているのは、時流を読むさすがの意思決定と言わざるを得ません。
もともと20%ルールは、「ポストイット」などを生み出した3Mの不文律である「15%カルチャー(ルール)」にインスパイアされたものだと言われています。
なお、日本における20%ルールは、福井県「ふくい式20%ルール」や長野県「創造的活動支援制度」など、行政職員のキャリア形成や組織の活性化を目的として導入されています。彼らは勤務時間の最大20%を使い、所属部署以外の業務や県政の企画提案に挑戦しており、他の行政にも広がりつつあります。
このように、ルールには場所や組織の特性に応じて、組織を超えて適応・順応したり、変化したりする可能性があるのです。
注5:「日経クロステック:グーグルがあの『Area 120』をリストラ、スターAI研究者の社外流出も相次ぐ」(日経BP、2022)
■目標管理の指標「OKR」もGoogle発
さらに、今やさまざまな組織における目標管理のフレームワークとして利用されている「OKR(Objectiveand Key Results:目標と成果指標)」もGoogleが生み出したものです。「OKR」とは、個人の目標と組織の戦略目標との整合性を取る仕組みで、
・目標(Objectives)は野心的で定性的

・成果指標(Key Results)は測定可能で定量的

・達成率60~70%を目指す(常に100%達成する目標は逆に設定が低すぎる)

・全員に公開し、進捗状況を見られるようにする

・評価制度とは切り離して運用

・評価が低い場合は、次のOKRを改善するデータとして捉える

という趣旨ですが、これらは20%ルールが意味する「自分の時間を創造的な活動に活用して良い」という組織文化と「異論を述べて良い」「リスクを取れる」という心理的安全性がベースにあってこそ機能するもの。この仕組みによって、メンバーは失敗を恐れずに高い目標を設定し、挑戦することができます。

つまりここで重要なのは、一度決めたルールを固定化するのではなく、アップデートしながら最適解を探り続け、「統制」と「創造」のバランスを取り続けようとするスタンスなのです。

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安斎 勇樹(あんざい・ゆうき)

MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学大学院 情報学環 客員研究員

1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。人の創造性を活かした新しい組織・キャリア論について探究している。主な著書に『ルールのデザイン』『静かな時間の使い方』『冒険する組織のつくりかた』『問いのデザイン』『新 問いかけの作法』などがある。Voicy『安斎勇樹の冒険のヒント』放送中。

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水野 祐(みずの・たすく)

法律家/弁護士(シティライツ法律事務所、東京弁護士会)

Creative Commons Japan理事。慶應義塾大学SFC非常勤講師。note、アミタホールディングスなどの社外役員。グッドデザイン賞審査員(2018-2020年, 2022-2025年)。
テック、クリエイティブ、都市・地域活性化、サーキュラー分野のスタートアップから大企業、公的機関まで、新規事業、経営戦略等に関するハンズオンのリーガルサービスを提供している。著作に『法のデザイン −創造性とイノベーションは法によって加速する』(フィルムアート社)、連載に『新しい社会契約(あるいはそれに代わる何か)』(WIRED日本版)など。

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(MIMIGURI 代表取締役Co-CEO/東京大学大学院 情報学環 客員研究員 安斎 勇樹、法律家/弁護士(シティライツ法律事務所、東京弁護士会) 水野 祐)
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