※本稿は、越智啓太『恋愛の科学 交際戦略編』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。
■モテる人生とモテない人生、どちらが幸せか
よく「学生時代はまったくモテなかった、もし、モテていたらもっといい人生を送れたのに」と言う人がいます。
たしかに大学時代などいつもたくさんの女性に囲まれていた先輩は、私もとてもうらやましいと思っていました。しかし、本当にモテている人は人生で幸せになるのでしょうか。
この問題を研究したのがリトアニアの研究者レグカウスカスとスタンケヴィチェネです(※1)。彼らは、リトアニアの夫婦41カップルを対象にして、過去の性経験と現在の結婚満足度の関係について調査を行いました。
この研究に参加したのは、男性は34歳から60歳で平均年齢は43.69歳、女性は30歳から53歳で平均年齢は38.24歳でした。彼らは離婚・再婚歴はなく、結婚期間は12~25年、平均18.4年でした。
リトアニアはバルト三国のひとつで、日本とは遠く離れていますが、カトリック色が比較的強く、家族形態や家族観は日本と比較的似ています。
彼らはカップルそれぞれに性的な経験についての質問に回答してもらい、また、結婚生活についての満足度を16項目の3段階の尺度で評定してもらいました。
■ 結婚前の性的活動は、満足度を下げる
具体的には「配偶者との感情的な親密さを感じる」「私たちは対立や衝突をうまく処理できる」「私は配偶者のそばにいることを誇りに思う」「配偶者の長所は短所を上回っている」などの項目で、各項目は0~2点、最大得点は32点です。
結婚満足度についての平均は、夫が19.90と妻が18.98で、これは有意な差はありませんでした。しかし、結婚前の性的パートナー数と結婚満足度には男女ともに有意な負の相関があり、パートナーが多かったほど、結婚に満足していないという傾向が見られました。
また、結婚前性交渉の有無と結婚満足度に関しては、有意に達さなかったものの、性交渉があったもののほうが、満足度は低くなりました。
さらに結婚前の同棲経験についても、ある場合のほうが満足度は低くなりました。さらに、女性は初性交年齢が低いほど結婚満足度が低い傾向にありました(r=0.348, p<.05)。
まとめてみると、結婚前の性的活動は、結婚後の結婚満足度の低下を予想する傾向があり、とくに男性でこの傾向は顕著でした。つまり、昔モテなかったほうが結婚後に幸せになるということです。
■何人目につきあった人と結婚すればよいのか
私たちは人生の中で何人もの人と交際する(しない人もたくさんいると思いますが)わけですが、出会った人の中でもっとも条件(これはとりあえず、性格やルックス、経済的能力などの総合的評価と考えましょう)の良い人と結婚できればベストです。
しかし問題は、いま交際中の人と結婚してしまったとして、その後にもっと条件の良い人が出てくる可能性があることです。
だからといって、その人との結婚をやめたとしたら、それ以上の人は二度と出てこないかもしれません。この「結婚決定問題」は人生にとって大変重要な意思決定問題です。では、この問題に「最適解」はあるのでしょうか。
じつは、この問題をある程度単純化して、数学的に表すと「最適解」が得られることがあります。最適停止問題のひとつである「秘書問題」がこれと類似の問題なので、適用することができます。
■結婚相手を導く「秘書問題」の計算式
秘書問題とは、以下のような問題です。
①あなたは秘書をひとり採用しようと思っている。
②N人の候補者がランダムな順番で面接に来る。
③応募者のN人は既知である。
④あなたは、候補者と面接してその採用/不採用を即座に決定する必要がある。
⑤一度不採用にした人を後から採用することはできない。
⑥目標は応募者の中でもつとも評価の高い(相対評価)秘書を採用することである。
⑦もし、N人まで面接して採用者がいなかった場合、採用者なしとなる。
この問題を数学的に解くと、少し興味深い結論が出ます。つまり、「最初の約N/e(注1)(約37%)は、選ばずに観察だけをし、以降はそれまでの誰より優れている応募者が現れた時点で選ぶ」というものです。
具体的には100人応募者があった場合(Nは既知)、最初の37人は誰も採用せずに、そこでの最高点数を記録し、その後この点数を超える人が出た場合に即採用して選考を打ち切るというものです。
この方法で、もっとも優れた人を採用できる確率は37%となります(証明は少し難しいので、解説書を当たってください)。
(注1)N/eのeは、自然対数の底でe=2.718
■結婚候補者の37%を絞るには
とすると、結婚の場合も最初の37%の人とはおつきあいだけして結婚せず、最高の相手だけ選んでそれを基準にし、その人を超える人が現れたら、即決という方向が良いということになります。
しかし、問題はN=既知、つまりあらかじめ人生で自分の前に現れる結婚候補者の人数がわかっていなければ、最初の37%というのが何人かはわからないということです。では、Nが未知の結婚決定問題は解けないのでしょうか。
この点について、著作家のブライアン・クリスチャンと計算認知科学研究者のトム・グリフィスは、ベストセラー"Algorithms to Live By”(※2)の中でひとつの近似方法を提案しています。
それは、Nを数でなく時間と考えるのです。結婚問題の場合、パートナー探しに費やせる期間を仮に18歳から40歳までとして、この間にコンスタントに候補者が現れるとすれば、だいたい全体の37%というのがどのくらいかを計算することができます。
■見極めのボーダーラインは「26歳」だ
計算してみると、18+(40-18)×0.37=26.14となります。つまり、26歳までは結婚せずに交際をして、その中の最高得点の基準を設定し、それを超えた最初の相手が現れたら即決するという方法です。
実際の結婚行動を見てみると、多くの人がこれに近い行動をとっているのではないでしょうか。
また、秘書問題では、最後のN人まで面接して採用者がいなかった場合、採用者なしとなってしまいます。
どうしても結婚したい場合には、⑦の条件を「N人目まで採用者がいなかった場合には、強制的にN人目を採用する」という前提にして、この問題を解けばよいことになります(これを強制採用条件といいます)。
その結果は、37%を少し緩めればよいという結果になります。結婚問題でも、「一生独身でも可」という制約条件はオリジナルの秘書問題に近く、「一生独身はなんとしても回避したい」という制約条件の場合は、強制採用条件に近くなります。
現実的にも、「独身回避」が重要な人は、26.14歳よりも早い時期から即採用ルールを適用しているのではないでしょうか。
(※1)Legkauskas, V., & Stankeviciene, D.(2009). Premarital sex and marital satisfaction of middle aged men and women: a study of married Lithuanian couples. Sex Roles, 60, 21-32.
(※2)Christian, B., & Griffiths, T.(2016). Algorithms to live by: The computer science of human decisions. Macmillan.(田沢恭子訳 アルゴリズム思考術:問題解決の最強ツール 2017 早川書房)
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越智 啓太(おち・けいた)
犯罪心理学者・法政大学文学部心理学科教授
1965年、神奈川県横浜市生まれ。92年、学習院大学大学院人文科学研究科心理学専攻修了。警視庁科学捜査研究所研究員、東京家政大学文学部助教授(当時)、法政大学文学部准教授を経て2008年より現職。著書に『美人の正体』『犯罪捜査の心理学』、『法と心理学の事典』(共著)ほか多数。
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(犯罪心理学者・法政大学文学部心理学科教授 越智 啓太)

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