■年金12万円だけではとても暮らせない
氏名:堀田恒夫(68歳)
現住所:神奈川県大和市
家族構成:単身、結婚歴なし
年金額:12万6000円
その他の収入:診療所の患者送迎ドライバー、月収5万3000円前後
住居形態:賃貸アパート
維持費:家賃4万7000円
健康状態:脂質異常症、肩関節周囲炎
今日は待望の年金支給日。昼イチで郵便局へ行き、振り込まれた2カ月の年金を全額引き出し、大通りの反対側にある信用金庫に直行。半分を来月用として預け入れた。振り込まれた金額は2カ月分で25万2000円、1カ月分は12万6000円だ。これで1カ月暮らすのは難しいので今もアルバイト的な仕事をしている。
「職を転々としていたし請負で自営業もやっていたこともある。安月給の上に国民年金だけだった期間が15年ぐらいあるんです。これじゃ年金をたくさんもらえるわけない。働かなきゃ破綻しちゃうよ」
堀田さんは76年に地元の工業高校を卒業して水産加工会社に就職。工場の作業職として勤めていたが、82年前半に会社が倒産。数カ月後に隣県の木材加工会社に転職、数年は安定した生活ができていたが、87年に円高不況の影響でまたも会社倒産に見舞われた。
■バブル崩壊後にリストラで退職
「地元にいたのはここまでです。
ところが92年の前半にバブル景気がしぼみ不景気に。94年の暮れにリストラがあって退職することになった。地方の高校卒で現業職を転々、特技や資格はなし、年齢も37歳。世の中全体が不景気だったから、これでは簡単に新しい仕事が見つからない。そこで始めたのがバイク便のライダーだった。
「95年の春先から請負で始めまして。90ccのスクーターにリアボックスを付けて都内をあちこち走り回っていました」
完全歩合制で報酬は月30~33万円ぐらい。
ただし社員ではないので社会保険はなし、自分で自治体の国民健康保険と国民年金に加入。仕事に必要なガソリン代、オイル代、その他のメンテナンス費用も全て自己負担。
■もらい事故をきっかけに職を失った
「報酬の3分の1ぐらい天引きしておかないと後々の支払いに困ることがあるので、給料というか自分の自由になるのは20万円。
時々、社員採用の仕事を探したが、まず年齢で弾かれる。採ってもらえそうな仕事は日給9000円前後のものばかり。これならバイク便ライダーの方がまだ良かった。
「自分の裁量でペース配分できるし、嫌な野郎と関わらなくていい。だからダラダラ続けちゃったんだな」
営業所では売上上位のライダーだったが、11年5月にもらい事故で左足の甲と肋骨2本を骨折する重症を負ってしまう。社員ではないから休業補償などなく、「治ったらまた来てください」でおしまいだった。
治療費と当座の生活費は相手の保険で賄われたが、怪我が治ったらバイク便に戻る気はなくなった。車と違ってむき出しで走っているから、事故があったら怪我や死亡するリスクが高い。急に怖くなった。
■月15~16日働いて、5万円を稼ぐ
「職安に2カ月通って次に入ったのは不動産管理会社です。
1年ごとの雇用契約を繰り返して65歳まで続け、さらに半年間は半日パートで使ってもらった。自分が仕事を選べるような人間じゃないのは分かっているから、使ってくれたことには感謝している。
「年金は65歳で支給申請をしたのですが、何しろ少ないでしょ。やってやれなくはないだろうけどお金は邪魔になるものではないし、収入があれば安心する。だからまた短時間パートを探して働いているんです」
求人情報誌で見つけた仕事は内科・透析クリニックの患者送迎ドライバーという仕事。
「軽のワゴン車で自宅からクリニック、クリニックから自宅へ送迎するわけです」
勤務時間は8~11時、11~15時、15~18時のシフト制で、時給は1180円。
「出勤日は3日出る週、4日出る週を交代でやっていて、月15~16日というところですね」
収入は月に45時間働いた場合、約5万3000円。これだけあればひと息つける。
「だけど収入を考慮したら毎月の出費は多いと思います。家賃の負担が重たい」
■月4万円弱は「将来の生活費」へ
前は同じ駅の反対側にあるアパートで暮らしていたが、建物が古くなったので転居してきた。
「4年半前で築42年の木造モルタルアパートだったんです。建物の外壁にはヒビが入っていたし、2階の部屋は雨漏りがして修理していた。建物自体が傾いている感じがして、これはいつ建て替えになってもおかしくないと思いました。だから早く移ろうと思ったんです」
当時の年齢は63歳の終わり頃。これなら年齢を理由に入居審査でハネられないと思った。でも65歳を超える高齢者になったら断られる確率が高そう。だったら家賃が数千円高くなっても新しい住まいを確保した方がいいと思ったのだ。
「今のアパートは1DKで家賃は4万7000円、横浜まで電車で25分もかかる場所だから都内と比べたらかなり安い。これに水道光熱費と通信費で2万円前後。国民健康保険料もあるので固定費は8万5、6000円になる。年金だけだったら残るのは4万円ぐらい、これでは窮屈すぎますよ」
だからパートで働けるのはありがたい。
「それにしても食べ物の値段が上がり続けているのは痛いね」
食費は月2万8000円まででやっているが、この金額で買える量はかなり減った感じだ。
■きゅうり1本98円でも買う気にならない
「最近は自転車で片道20分もかけて、ディスカウントストアとか業務スーパーへ遠征しています。値段が全然違うんだよ、近所のスーパーより2、3割安い。本当に業務スーパーは神だ」
ディスカウント店ではギフト解体品、賞味期限切れ間近の見切り処分品、包装にキズがある難あり品などを買って1円でもケチる。
「基本的には自炊でやってます。外食なんて月に2、3回だな。行っても800円が限度」
ちなみに昨日、一昨日の食事メニューはこうだ。昨日の朝は8枚切の食パン2枚とスライスチーズ1枚、昆布茶1杯。昼は冷凍炒飯を半袋とゆで卵。間食としてチョコチップクッキー4枚。
一昨日の朝はインスタントコーヒーとヨーグルトだけ。昼はイワシの味噌煮の缶詰と納豆。夜は冷凍のチキンカツ2枚とパックのマカロニサラダ、わかめスープ。金額的には1日600~700円でやっている。
「野菜は高いからあまり食べられませんね。レタス1個が398円とかきゅうり1本98円じゃ買う気にならない。野菜を食べないと便秘になるし肌がカサカサになるけど仕方ない」
電気、ガス、水道も無駄のないようにしているし、医療費も削ることがある。
■病気が見つかったら困るため健診は行かない
「年初に左の上腕から肩にかけて痛みが出まして。1カ月我慢したけど良くならないので整形外科医院へ行ったんです。そしたら肩関節周囲炎という診断だった。湿布と飲み薬を出してもらい、痛み止めの注射を3回打ったら楽になった。2カ月通って次の月の診察予約も取ったのだけど、自分でもう大丈夫だと判断して通うのを止めちゃった」
いまも左腕を真っ直ぐ上に上げようとすると少し痛いが、それ以外は普通にできているので問題ないと思っている。
「区役所から特定健康診査の案内が送られてくるが行ったのは3年前が最後。そのときはコレステロールの値が上限ギリギリだったけど、血圧は正常だったし糖尿もなかった。今もコレステロール値は高いと思うけど、特に不具合はないからほっといている。健診に行って何か問題が出たら困るんだよ」
年に2回定期的に通っているのは歯科クリニック。口腔内チェックとホワイトニングはやってもらっている。初期虫歯なら治療費はそれほどかからないが、進行して差し歯や入れ歯を作ることになったら費用がかさむ。それは避けたいからだ。
「特に趣味なんてないし近所付き合いもない。親しい友人もゼロ。だから遊びのお金や交際費的な出費はほとんどない」
だけど地域活動に関わるお金は出さなければならないことがある。
■300円の徴収にさえ怒りが湧いてしまう
「ここら辺は9月の第3週の土日にお祭りがあるんですが、300円の寄付を求められる。子ども神輿(みこし)を担いだ子や山車(だし)を曳(ひ)いた子に配るお菓子代だというわけですが、何で赤の他人の子どもの菓子代をせびられるんだと腹が立つ」
年末になると歳末助け合い運動で1世帯300円徴収される。任意のはずなのに半ば強制で金額まで決められているのは納得できない。
「たかが数百円でも、わたしには大金だよ。300円あればレトルトのカレーが3つ買える。そう思うと出すのは嫌だ。アパートに住んでいる若いのには『払わねえ、帰れ!』と追い返すのがいるし、近所には町会に入っていない人も数人いる。正直なところ、わたしも町会は脱退したいんです。特にメリットを感じないもの。市報は出張所に行けばくれるし、掲示板に諸々の情報が貼り出される。そもそも親しい人なんていないんだからさ」
高齢者になって経済的に恵まれていないと惨めなもの。年金保険料の未納があったとか、酒や博打で散財したというわけじゃないのに、こんな老後になるとは予想していなかった。
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増田 明利(ますだ・あきとし)
ルポライター
1961年生まれ。1980年都立中野工業高校卒。ルポライターとして取材活動を続けながら、現在は不動産管理会社に勤務。2003年よりホームレス支援者、NPO関係者との交流を持ち、長引く不況の現実や深刻な格差社会の現状を知り、声なき彼らの代弁者たらんと取材活動を行う。著書に『今日、ホームレスになった』『今日、派遣をクビになった』『今日から日雇い労働者になった』『今日、会社が倒産した』『本当にヤバイ就職活動』『今日からワーキングプアになった』『貧困のハローワーク』『今日、借金を背負った』『お金がありません』『限界労働者』『今日、50歳になった』(いずれも彩図社)、『不況!! 東京路上サバイバル ホームレス、28人の履歴書』(恒友出版)、『仕事がない! 求職中36人の叫び』(平凡社)、『ホープレス労働 働く人のホンネ』(労働開発研究会)がある。
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(ルポライター 増田 明利)

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