AI特需を追い風に、日本の半導体製造装置メーカーが好決算を相次いで発表している。一方、主要5社の中国向け売上比率はピーク時の45.0%から26.3%まで低下した。
伊藤忠総研の小林泰斗副主任研究員は「成長市場が中国からAIへ移るなか、リスクも『地域依存』から『顧客依存』へ変わりつつある」という。各社がAI特需の先に描く“次の勝ち筋”とは――。
■半導体株の急落に歯止めをかけた好決算
半導体製造装置メーカー(以下、装置メーカー)を取り巻く空気が大きく揺れ動いている。
AI向け需要への期待を背景に急上昇を続けてきた半導体関連株は、7月下旬に大きな下落局面を迎えた。相場の勢いが実需を超えているのではという過熱感への警戒や、拡大を続けるAI向け設備投資が果たして回収可能なのかという持続性に対する懸念が世界的に広がったためだ。
米国市場で半導体株が売られたのを契機に、日本市場でもキオクシアを筆頭に多くのAI・半導体関連銘柄で売りが拡大、7月の日経平均株価は月間でおよそ5700円(約8%)下落する事態となった。
こうした下落基調に歯止めをかけたのが、7月末にかけて発表された主要日系装置メーカー各社の好決算であった。
2026年4~6月期の各社決算は、アドバンテストが売上高3675億円(前年同期比39.3%増)、営業利益1900億円(同53.3%増)東京エレクトロンが売上高7323億円(同33.3%増)、営業利益2114億円(同46.1%増)と、いずれも大幅な増収増益となった。
■台湾向け67%増、韓国向け73%増
一連の決算を通じて示されたのは、AI用途の先端半導体向けの設備投資需要が依然旺盛であるという事実だ。
例えば東京エレクトロンでは、先端ロジック・ファウンドリ拠点の集積地である台湾向けの売上が前年同期比66.9%増、メモリ拠点の集積地である韓国向けの売上が同72.6%増といずれも大幅に伸長した。
今後の見通しについて、東京エレクトロンの川本弘CFOは「下期はメモリや先端ロジックを中心にさらに出荷が増加し、上期を上回る力強い成長を想定している」と述べた。このほか、アドバンテストのダグラス・ラフィーバCEOも「推論AIに関する領域では検査装置の需要が当初想定を上回る勢いで伸びている」と発言するなど、揃って強気の見通しを提示した。

各社の決算発表後には関連銘柄も含めて買い戻しの動きが広がり、特にアドバンテスト株に関しては終値ベースでも前日比10%超の上昇をみせた。
しかし、こうした好調の裏で、日系装置メーカー各社の事業環境にもう一つ大きな変化が生じていることにも目を向ける必要がある。これまで最も大きな割合を占めてきた中国向け売上の比率低下だ。
■中国向け売上比率が過去2年で45%→26%まで低下
ここ数年、日系装置メーカー各社の業績は、中国市場の旺盛な設備投資需要の恩恵を大いに享受してきた。かねてより「自立自強」を掲げる中国は、半導体についても自給率向上を目指し、日本や欧米などの海外企業から積極的に装置を購入してきた。
2022年に米国による先端半導体関連の輸出規制が始まると、さらなる規制強化の可能性を踏まえた「駆け込み需要」も発生し、2023~24年にかけて日系装置メーカーの中国向け売上は大きく増加。中国向け売上を開示している日系装置メーカー上位5社(東京エレクトロン、アドバンテスト、SCREEN、ディスコ、KOKUSAI ELECTRIC)の中国向け売上比率は、ピーク時の2024年4~6月期には45.0%にまで達していた。
しかし、直近で発表された2026年4~6月期決算においては、この比率が26.3%まで低下しているのだ。
これ自体は、先端半導体需要の拡大に伴う台湾や韓国向け売上の急増が主な要因であるほか、2026年4~6月期に関しては、SCREENにおいて中国向けの大型案件が下期に後ずれした影響も大きい。しかし、日系装置メーカーの中国向け売上がピーク時に比べて減少していることは事実であり、今後を展望した時にも、各社の中国向け売上が再びかつての勢いを取り戻すとは楽観視しにくい要素がいくつか存在している。
■中国で進む「装置の内製化」
まず、短期的な先行きを見るうえで注目すべきなのが、財務省貿易統計における半導体製造装置の中国向け輸出額の推移である。
一般的に、半導体製造装置は顧客工場への据え付けや検収が完了した時点で売上として認識されるケースが多く、輸出から企業の売上計上までには数カ月程度のタイムラグが発生する。
このため、厳密には海外現地法人経由の販売やサービス収入は対象に含まれないなどの違いはあるものの、貿易統計上の中国向け輸出額は、日系装置メーカーの中国向け売上の先行きを占うための有効な先行指標の一つと見ることができる。
その中国向け輸出額が、2025年以降、前年同月比で一貫して減少を続けているのである。もちろん、すでに販売済みの装置の保守点検等に係るサービス収入などによる一定程度の下支えはあるだろうが、こうした輸出額の傾向を踏まえると、今後、各社の中国向け売上が短期的に再び大きく伸びる展開は描きにくい。
また、より中長期的な制約要因として指摘できるのが、中国における「内製化」の加速である。先述の通り、かねてより半導体の自給率向上を国家目標としてきた中国だが、足元ではその対象が半導体そのものだけでなく、製造装置や材料を含むサプライチェーン全体に広がっている。
そうした動きを示すのが、中国政府主導の半導体専門ファンドである国家集成電路産業投資基金、いわゆる「大基金」だ。2期目(2019~2024年)までは主に半導体設計・製造領域を対象としていたが、足元で進行中の第3期は、過去最大となる3440億元(約7兆4000億円)規模の資金を調達。支援対象先のなかで製造装置・材料関連が占める比率も大幅に上昇したとみられている。
■中国の装置国産化率が上昇
さらに、ロイター通信が2025年末に報じたところによれば、中国当局は国内の半導体工場に対し、新規設備投資の少なくとも50%を国産装置とすることを求めているという。公式文書化されたルールはないものの、工場の新設・増設にあたって、調達入札を通じて国産装置の比率を示すことが求められている模様だ。
このように、海外製装置への依存からの脱却を図る動きが国全体で進んだ結果、中国地場の製造装置メーカーは、主にレガシー(成熟)領域が中心ながらも、急速に成長を遂げている。
例えば、日本経済新聞は今年6月、調査会社グローバルネットの分析を引用し、2025年には半導体製造装置メーカー上位20社(筆者注:検査装置は対象外)のなかに、5位の北方華創科技集団(NAURA)をはじめ、13位の中微半導体設備(AMEC)、20位の上海微電子装備(SMEE)と計3社の中国企業が名を連ねたと報じた。
2022年時点では8位のNAURA1社のみにとどまっていたことを踏まえれば、中国勢の存在感は短期間で大きく高まったことになる。
さらに、フランスの調査会社Yole Groupの分析によれば、中国における半導体製造装置の国産化率は、2021年の8%から2025年には23.2%まで上昇しており、2030年には39%に達すると見込まれている。
また、同分析は最先端プロセスのカギとなる露光装置はなお長期的な課題として残る一方、日系装置メーカーが一定の強みを持つエッチング、成膜、CMP等の装置群では代替が進んでいるとも指摘している。こうした動きが進めば、これらの装置群に一定の強みを有する日本勢にとっての影響はますます大きくなることが予想される。
■米国によるさらなる規制強化の予兆
そしてもう一つの大きな制約要因となるのが、米国による対中輸出規制の強化である。
2022年に始まった輸出規制は、最先端のAI半導体やEUV(極端紫外線)露光装置を対象とすることで、中国による最先端半導体の入手・製造を阻止する狙いがあった。しかし、2025年10月には、米議会下院の「中国問題特別委員会」において、「中国が規制の抜け穴を突き、2024年に世界の主要装置メーカーから合計380億ドル相当の先端半導体向け製造装置を購入していた」との報告が提出された。
このほか、中国のファウンドリ(半導体製造受託)大手である中芯国際集成電路製造(SMIC)や華虹集団が、EUV露光装置の1世代前にあたるDUV(深紫外線)液浸露光装置を用いて最先端レベルである7ナノ半導体を製造していることも報じられており、現行規制における抜け穴の存在と規制強化の必要性が度々指摘されていた。
こうしたなか、現在米議会において議論が進められているのが、「ハードウェア技術規制の多国間調整法」、通称MATCH法案だ。同法案は2026年4月2日に米下院で提出され、上院でも4月8日に姉妹法案が提出されるなど、超党派での検討が進んでいる。
現時点では成立時期など含めて未確定部分も多いMATCH法案だが、仮に成立すれば日系装置メーカーへの影響は決して小さくない。その最大のポイントは、輸出規制の対象を、先述のDUV液浸露光装置などの「準先端」領域まで拡大するだけでなく、日本やオランダなどの同盟国に対しても、「米国と同水準の厳格な輸出規制を150日以内に導入する」よう要請している点にある。

同盟国が期限内にこれに応じない場合、米国側は「外国直接製品規則(FDPR)」を適用できるとされている。これは、米国製の技術が用いられている製品であれば、米国が単独で輸出を差し止めることができるという強力な措置だ。
日蘭の製造装置にも、米国製の技術は設計・制御ソフトや部品といった形で使用されている。このため、同法案が成立すれば、日蘭が対応せずとも、米国の独断により中国向けの販売が制限されてしまう可能性がある。
■アフターサービスまで封じられる恐れも
さらに重要なのは、規制の対象が新規装置販売だけに留まらない点だ。
上院側の発表では、MATCH法案は、「同盟国との規制調和に加え、サービスや特定企業向けの抜け穴を閉じるもの」だとしている。つまり、中国に納入済みの装置に対する修理、保守、部品交換、ソフトウェア更新、技術支援といったアフターサービスまでもが規制の対象に含まれる可能性があるのだ。
装置メーカーにとって、これらのサービス事業は安定的な収益源であるだけに、実際に同領域まで制約が広がれば、各社の中国向け事業への影響はより大きなものとなる。
■「中国比率低下」の二つの側面
以上のように、短期的には貿易統計が中国向け売上の減少傾向を示唆しており、中長期的には中国の内製化進展と米国による規制強化が事業機会を狭める方向に働き得る。
中国市場はその巨大さゆえ、直ちに重要性を失うことはない。しかし、成熟領域では中国地場メーカーとの競争が強まり、先端・準先端領域では米国による規制のリスクが増していくなかで、日系装置メーカーが以前のように中国市場で売上を伸ばし続けていくためのハードルは確実に高まっている。
もっとも、中国向け比率の低下は、地政学リスクの分散という観点から見れば、必ずしも否定的に捉えられるべきものでもない。
米中対立が長期化するなかで、特定地域への依存度を下げ、台湾・韓国などAI半導体の主要生産拠点向けに成長の軸足を移していることは、リスク管理の面では前向きに評価すべきだろう。
ただし、ここで留意すべきは、中国向け比率の低下の影響が、単なる地域別売上構成の変化には留まらない点だ。
これまで中国市場は、世界の半導体市場が調整局面に入った際の「緩衝材」として機能してきた。先述の通り、2023~2024年にかけて各社の中国向け売上比率は大きく伸長したが、これはコロナ禍特需の反動で世界の半導体市場が調整局面に入り、韓国・台湾などの投資が落ち込むなか、中国勢による積極投資が各社の業績を下支えしていたことの表れでもあった。
しかし今後、この中国市場の「緩衝材」としての機能が弱まれば、装置メーカーの業績は、これまで以上に先端半導体向けの設備投資需要の影響を受けやすくなる。
先端半導体の世界は引き続き大きな成長ポテンシャルを有する一方、製造の担い手はTSMC、サムスン電子、SKハイニックス、マイクロンなど、世界的にもごく一部の企業に限られている。そのため、ここへの需要の集中は、少数の特定顧客への依存度の増大、および彼らの業績や市場サイクルの変動に対する脆弱性の増大にもつながりうる。
■「ブームの先」を見据えた収益基盤の盤石化が鍵
とはいえ、実際にはこうしたリスクを装置メーカー各社も見逃しているわけではない。特定の地域や顧客に依存しない、より盤石な収益基盤を構築するための取り組みを進めている。
その一つが、共同開発や技術協業を通じた顧客基盤の強化・拡大である。
装置メーカー各社は、顧客の次世代プロセス開発に早期段階から協力・関与することで、将来的な需要の開拓・獲得を図ってきた。さらに足元では協力の範囲は単一工程での技術開発に留まらず、複数工程をまたいでの最適化や、プロセス開発や量産時の制御におけるデータ・AIの活用にまで拡大している。

例えば東京エレクトロンは自社のDXソリューション「Epsira」において、データ連結を通じた装置側と顧客の現場双方の生産性向上に取り組んでいる。また、アドバンテストは検査工程で得られるデータをAIと組み合わせることで、同工程を製造プロセス全体の最適化や市場投入短縮のための重要データ基盤として再定義している。
このほか、中長期的な目線においては、東京エレクトロンのインドにおけるTata Electronicsへの技術開発協力や、日本におけるRapidusとの協業なども、顧客との早期からの関係強化を通じて、将来的な装置需要を獲得するための布石として位置付けられるだろう。
また、サービス事業の強化も重要な取り組みだ。MATCH法案の項でも触れたが、半導体製造装置は一度導入されると長期にわたり保守点検や部品交換などの需要が発生する。このため、アフターサービスは顧客の設備投資動向に左右されにくい安定収益源として、市況変動への耐性を高めるうえで重要な役割を持つ。
実際、東京エレクトロンは「アフターマーケットにおける収益拡大」を現行の中期経営計画における戦略の一つに位置付け、遠隔保守サービスやデータ・AIを駆使した予知保全などの高付加価値サービスの構築に取り組んでいる。また、SCREENも「ポストセールス比率の向上」を事業成長戦略の主要項目に掲げるほか、2027年3月期には同事業の通期売上が初めて1000億円を超える見通しとなっている。
■AI需要だけに依存しない成長戦略が不可欠
これらに加えて、車載、産業機器、パワー半導体、イメージセンサーといったAI以外の領域や、成長途上にある先端パッケージ市場の獲得なども、事業ポートフォリオの拡大を通じたリスク分散という観点で重要となる。
特に先端パッケージに関しては、東京エレクトロンの3次元積層向けウエハボンディング装置やSCREENのPLP向け塗布装置など、新たな工程領域への展開を通じた事業機会の拡大も図られている。
以上のように、最大の成長市場が「中国」から「AI」へとシフトし、それに伴いリスクの形も「地域依存」から「顧客依存」へと変化していくなかで、装置メーカー各社には、足元のAI需要の獲得だけに留まらず、その先の市場の変化にも柔軟に対応するための戦略が求められる。各社の真価は、現在の高成長のさらに先でこそ問われることになるだろう。

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小林 泰斗(こばやし・たいと)

伊藤忠総研 副主任研究員

2013年東京大学法学部卒業。同年に三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行し、産業・政策調査等に従事。2024年1月より伊藤忠総研にて、半導体産業の調査を担当。

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(伊藤忠総研 副主任研究員 小林 泰斗)
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