旭化成ホームズが住まいづくりで長年追求してきた「LONGLIFE」。それは、丈夫な建物を長く使うことだけを意味しない。
家族構成や働き方、持ち物、社会環境が変わっても、その変化を受け止めながら、人が長く安心して暮らし続けられる住まいをつくることでもある。

その実現のために、旭化成ホームズは建物だけでなく、そこで営まれる人の暮らしを見つめ続けてきた。約40年にわたる収納研究は、その象徴的な実践の一つだ。家族がどこで何をし、どんなモノを使い、何に困っているのか。生活現場で捉えた変化の兆しを、調査と検証を重ねながら読み解いていく。収納から見えてきた暮らしの変化、そしてそこに貫かれるLONGLIFEの思想について、LONGLIFE総合研究所の所長・河合慎一郎氏と、主席研究員・伊藤香織氏に聞いた。

1.収納は、暮らしの変化を映す鏡

「LONGLIFEを考えるうえで大切なのは、建てた時点の暮らしだけを見て住まいを考えないことです。社会も家族も変わり続ける。その変化を受け止めながら、長く安心して暮らせる住まいであることが重要です」と河合所長は話す。

その考え方を、約40年にわたって具体的に検証してきた研究テーマの一つが収納である。「収納研究の歩みを振り返ると、これは収納の歴史というより、暮らしの歴史なのだと感じます」と伊藤氏は振り返る。本格的な収納研究を始めた1987年は、バブル景気のただ中。モノを多く所有することが豊かさの象徴とされ、当初の研究は、生活動線を妨げず、限られた空間へより多くを収める方法に向き合った。


1990年代にはゴミの分別が進み、家庭内に資源ゴミの一時保管場所が必要になった。2000年代には開放的なLDKが広がり、家族の私物や情報機器が共用空間へ集まった。2010年代には東日本大震災を契機に、備蓄水や防災用品の置き場所が課題となる。そして2020年代、ECやふるさと納税、まとめ買いの定着によって、食品ストックや配送物、段ボールまで住まいの中で管理する必要が生まれている。

収納の対象も変化した。奥行きのある百科事典や高さのある一升瓶を収める時代から、スマホやタブレットといった小さなデジタル機器、細かな日用品、形も保管期間も異なるストックが増える時代へ。必要な棚の寸法も、置き場所も、出し入れの頻度も同じではない。

「収納は、時代や暮らしの変化を映す鏡です。家庭にあるモノや、その使われ方を見ていくと、その時代の家族のあり方や価値観まで見えてきます。だから私たちは、収納そのものだけではなく、収納を通して暮らしがどう変わってきたのかを見てきました」と伊藤氏は総括する。

LONGLIFEの答えは、暮らしの中にある。約40年の収納研究に映る、旭化成ホームズの住まいづくり。


2.研究室ではなく、お客様の家が研究の場

「私たちが研究の原点として大切にしてきたのが、生活者が実際に暮らす現場です」と河合所長は説明する。LONGLIFE総合研究所が一貫して掲げてきたのが、「生活現場主義」である。

「私たちLONGLIFE総合研究所は、住まいだけを研究している組織ではありません。
住まいを通して、人の暮らしや家族のあり方、そして社会の変化そのものを研究しています」と河合所長は続ける。

文献やアンケートで社会全体の傾向はつかめる。しかし、本人が「散らかっていない」と認識していても、訪ねてみると、課題だと思っていないモノが生活動線上に置かれていたり、収納からあふれていることがよくある。アンケート回答だけでは、日常の行動や実際の収納内部や周辺の様子までは捉えきれない。

そこで研究員はお客様のお宅へ足を運び、家具配置や収納の中を確認するだけでなく、家族の動きやモノの置かれ方を観察する。複数人で約1時間半~2時間をかけ、相当数の写真を撮り、モノの量や収納の寸法を測り、生活者と対話することもあった。ダイニングの消しゴムのカスから、子どもがそこで勉強していることが分かる。ソファ付近の充電コードから、家族が携帯端末を使う場所が見える。バッグや上着の位置をたどれば、帰宅後の動線も読み取れる。何気ない光景を、暮らしの仕組みとして捉え直すのである。

河合所長は、その姿勢をLONGLIFEと結び付ける。「LONGLIFEとは、単に建物が長持ちすることだけではありません。
子育て、共働き、子どもの独立、シニアライフへと家族構成や暮らし方、持ち物が変わっても、その変化を住まいが受け止めながら、無理なく暮らし続けられることだと考えています。収納研究は、その考え方を象徴する研究テーマの一つです。モノの変化は、暮らしの変化そのものだからです」

LONGLIFEの答えは、暮らしの中にある。約40年の収納研究に映る、旭化成ホームズの住まいづくり。


3.「3つのぱなし」が教えてくれたこと

住居学を学び、大学で助手を務めた後、転職してきた伊藤氏は、2005年に先輩研究員とお客様宅の調査(入居宅調査)を重ねた。廊下を減らしてLDKを広く取り、家族が同じ空間で過ごす間取りが増えていた頃である。

何十軒と訪問を繰り返すうちに見えてきたのは、家族が集まるLDKに、多様なモノが集まっているという事実。多くの家庭に共通な事象として、ダイニングテーブルの上には、子どもの文房具や教科書、宿題などが積み上がっており、その横には充電中の携帯電話。床には箱買いしたペットボトルなどの飲料、実家から届いた野菜や米、子どものおもちゃ、分別日を待つ資源ゴミ。椅子や手すりには、帰宅後に脱いだ上着やバッグが掛けられていた。

伊藤氏らは、これらを机やカウンター上の「だしっぱなし」、床上の「おきっぱなし」、椅子や手すりの「かけっぱなし」という「3つのぱなし」に整理した。さらに、なぜ元の場所へ戻さないのかを分析した。

使う場所の近くに収納がない。しまうまでの動線が長い。収納の奥行きが深いと二重置きとなり、手前のモノを動かさないと取り出せない。
片付かない原因は、住まい手の意識だけの問題ではない。そこには人の行動と収納計画の不一致があった。この調査結果を踏まえて、LDKの収納量を床面積ではなく収納の見付面積である「かべ面積」で算定し、日用品を重ね置きせず、一目で見渡せる浅い奥行きの収納という考え方につなげていった。

展示場では、整然とした完成写真だけでなく、「3つのぱなし」が起きている生活現場のリアルな写真の再現も提示した。「わが家も同じだ」という共感が、暮らしを見直す入口になるからだ。

LONGLIFEの答えは、暮らしの中にある。約40年の収納研究に映る、旭化成ホームズの住まいづくり。


「片付けのルールも大切です。ただ、人に努力を求め続けなくても、使う場所としまう場所が自然につながる住まいを、建築の側からつくれないか。私たちはそこを考えてきました」と伊藤氏は続ける。生活現場に現れた“散らかり”を、その人の性格や習慣だけで片付けず、行動と住まいの関係から読み解く。そこに、収納研究を暮らしの研究へと広げていく視点があった。

4.発見を、住まいのかたちに

生活現場で得られた発見は、研究報告だけで終わらない。収納システム「ARECS(アレックス)」をはじめ、住まいの具体的な提案として展開されてきた。

第1世代(1987年)は、「コの字マジック」。
壁面やコーナーを「コの字」に使い、生活動線を狭めず収納量を確保した。

LONGLIFEの答えは、暮らしの中にある。約40年の収納研究に映る、旭化成ホームズの住まいづくり。


第2世代(2006年)は、「かべ面積」による収納提案。オープンなLDKに日用品が集まる実態を受け、奥行き約30センチ、合計約7平方メートルの壁面を一つの目安とし、モノを重ねず見渡せる収納を考えた。

LONGLIFEの答えは、暮らしの中にある。約40年の収納研究に映る、旭化成ホームズの住まいづくり。


第3世代(2015年)は、収納提案として「リビングクローク」を開発。1帖の四周の壁と高さを使い切り、かさばるモノと細かな日用品、備蓄水や防災用品までを高密度に収める集中収納とした。

LONGLIFEの答えは、暮らしの中にある。約40年の収納研究に映る、旭化成ホームズの住まいづくり。


収納空間は家事行動にも大きく関わるため、研究対象は調理関連行動にも広がっていった。象徴的なのが、2014年の「マルチアイランドキッチン」だ。共働きの広がりと家事シェアの兆しを捉え、シンクとコンロを二列に分け、広い作業台と回遊動線を設けた。複数人が同時に調理できるキッチンを、業界に先駆けて提案した。

当時は男性の家事参加が今ほど一般的ではなく、社内にも「二列キッチンの使い勝手は大丈夫か」「商品として受け入れられるのか」などの慎重な声があった。研究チームは富士市の住宅技術総合研究所に試作したDK空間へ子育て中の社員とその家族を招き、実際に料理をしてもらった。1人、2人、3人以上で作業したときの動きを映像で記録し、四つのカウンタースペースや、あえてずらしたシンクとコンロの二列配置を検証。
男性の身体寸法も踏まえ、レンジフードの高さまで見直した。

LONGLIFEの答えは、暮らしの中にある。約40年の収納研究に映る、旭化成ホームズの住まいづくり。


現場で捉えた兆しから仮説を立て、実際の行動で確かめる。そうして「本当に必要とされるのか」という社内の疑問にも、検証結果をもって応えていった。マルチアイランドキッチンは、こうした研究の積み重ねを経て製品化へと至った。

「変化が一般化してから追いかけるのではなく、生活現場に現れた小さな兆しを捉え、暮らしの課題として読み解くことが研究には大切です」と伊藤氏は指摘する。こうした研究は収納空間だけにとどまらず、家事行動や家族のコミュニケーションへと広がり、キッチンや洗面など、暮らしの中心となる空間の研究へ発展していった。約40年にわたる収納研究と提案の変遷は、以下の収納研究会ページで詳しく紹介している。

▼収納研究の歩み

https://www.asahi-kasei.co.jp/j-koho/kurashi/kenkyu/storage/index.html/

5.暮らしの変化から、設計は始まる

そして近年は、暮らしやすさという機能性に加え、住宅設備が住まい全体のインテリアと美しく調和することへの期待も高まっている。そうした変化に対する旭化成ホームズの現在の回答の一つが、2026年8月にリリースされたHEBEL HAUSのオリジナル住宅設備ブランド「MODART」の誕生である。MODARTは単なる住宅設備ブランドではない。生活現場で見続けてきた「だしっぱなし」「おきっぱなし」「かけっぱなし」といった生活者行動の背景を読み解き、使いやすさと空間の美しさを両立だけでなく、住まい全体との調和と暮らしやすさを追及した、長年の生活研究の延長線上にある新たな価値の提案なのだ。

MODARTの誕生に合わせて、新しく開発した大型の二列型キッチンでも、すでに同タイプのキッチンを採用しているお客様への入居宅調査とアンケート調査を行い、実際の使われ方から課題やニーズを把握した。その一例が、「生活感の出る調理家電を隠したい」という声だ。これまで食器棚のカウンターに出して置くことが多かったオーブンレンジや炊飯器などを、使わないときには収納内へ収められるようにし、オープンなLDKをすっきり見せる工夫につなげた。

MODARTは、キッチン・洗面ともに、生活現場で積み重ねてきた使いやすさの追求と、設備単体ではなく暮らしの中へ自然に溶け込むインテリア性を両立するため、一つひとつの素材や形状を丁寧に検討している。そこにあるのは、美しさを足すためだけの意匠開発ではなく、暮らしの中の“ノイズ”を減らし、長く心地よく使い続けられる住まいを考える姿勢である。

MODARTは、約40年にわたり生活現場を見続けてきた旭化成ホームズが、「LONGLIFEとは何か」を問い続けてきた一つの到達点なのである。

LONGLIFEの答えは、暮らしの中にある。約40年の収納研究に映る、旭化成ホームズの住まいづくり。


MODART 大型二列キッチン Flagship Model LC

6.収納の本質とは何か

「モノは、持っているだけでなく、必要なときに使える状態にしておくことが大切です」と伊藤氏は言う。

どこにあるか分からない。手前のモノを動かさないと取り出せない。戻すのが面倒で、使った後は出したままになる。それでは、所有していても十分に機能しているとは言いにくい。必要なときにすぐ取り出せ、無理なく戻せる。伊藤氏は、その状態を「モノがスタンバイしている」と表現する。

実現にはハードとソフトの両方が要る。ハードとは、使う場所の近くに収納を配置する、壁面や高さを生かす、一重で見渡せる奥行きにする、家族の動線や身体寸法に合わせて棚や設備を設計するなど、建築や住宅設備としてつくり込む部分である。

ソフトは、それを使い続けるための知恵や支援だ。何をどこに収めるか、持ち物をどう分類するか、家族構成や年齢の変化に合わせてどう見直すか。旭化成ホームズでは、オーナー向けサイト「HEBELIAN NET.(ヘーベリアンネット)」などを通じ、整理収納の方法も伝えている。収納を設けて終わらず、入居後に使いこなすところまでを、トータルな提案と捉えている。

「私たちは収納そのものを研究しているわけではありません。収納を通して、人の暮らしや社会の変化を研究しているのです。収納のあり方を考えることは、人がどう暮らし、どう歳を重ね、どう安心して住み続けるかを考えることでもあります」と河合所長は捉える。

その理念を生活現場で実践してきたのが、伊藤氏ら研究員だ。「だからこそ私たちは現場に足を運び、『3つのぱなし』のような生活者の行動を観察し続けてきました。収納の使われ方を見ることは、暮らしそのものを見ることだと考えています」と伊藤氏は説明する。

河合所長は、その考えをLONGLIFEへとつなげる。「電気、ガス、水道が暮らしを支えるように、家も日常生活を安心して維持するための社会インフラです。LONGLIFEとは、その基盤が社会や家族の変化を受け止めながら、人の暮らしを長く支え続けること。収納は、その家の中の基盤の一つだと考えています」

収納が整えば、探し物や片付けの時間が減る。家事を共有しやすくなり、防災用品も必要なときに取り出せる。散らかりによるストレスが減れば、心の落ち着きにもつながる。収納はモノを隠すだけの設備ではない。時間の使い方、家族の関係、安心な日常を支える、暮らしの基盤なのである。

LONGLIFEの答えは、暮らしの中にある。約40年の収納研究に映る、旭化成ホームズの住まいづくり。

7.LONGLIFEを、次の40年へ

現在、LONGLIFE総合研究所の研究対象は収納だけではない。防災、高齢化、共働き家族、コミュニティ、ペットとの共生など、人の暮らし全体へと広がっている。少人数世帯の増加やデジタル化、気候変動、災害リスクなど、社会環境が変われば、住まいに求められる役割もまた変わっていく。

テーマが変わっても、研究の原点は変わらない。生活者のもとへ足を運び、目の前の日常をつぶさに捉える「生活現場主義」である。収納研究で培ってきたその姿勢を基盤に、暮らしの変化から新しい問いを見つけ、研究を更新し続けている。

「実現したいのは、人が安心して暮らし続けられる社会です。これからの社会では、少人数世帯の増加や高齢化、ペットとの共生、災害への備えなど、住まいが受け止める課題はさらに多様化していきます。だからこそ私たちは、住まいを通して暮らしや社会の変化を見続け、その先に必要となる住まいのあり方を考え続けたい。ただ、研究所だけで解決できることばかりではありません。企業や大学、行政など、さまざまなパートナーと連携し、共に考え、つくっていくことが必要です」と河合所長は語る。

生活現場から見いだした課題に、約40年の研究蓄積と異分野の知見を重ねる。共同研究や共同開発、講演や知見の共有を通じて、住まいを起点に社会の課題を考えることも、これからのLONGLIFE総合研究所が担う役割である。

収納という一つのテーマを掘り下げるだけでも、その先には家族の関係、働き方、防災、高齢化、そして人が何を豊かさと感じるのかという問いが現れる。だから収納研究は、収納だけで完結する研究ではない。暮らしと社会を知るための入口の一つなのである。

約40年にわたり収納を研究してきたことも、生活現場を見続けてきたことも、目指してきたものは同じだ。変化する暮らしを受け止め、人が長く安心して住み続けられる住まいを考えること。収納研究は、そのための実践の一つであり、LONGLIFEを追求してきた歩みの一部である。

そしてこれからも、旭化成ホームズは暮らしの現場から問い続けていく。生活現場を見続ける理由は、建物の寿命だけではなく、そこで営まれる一人ひとりの暮らしそのものを、長く支え続けるためなのである。

LONGLIFEの答えは、暮らしの中にある。約40年の収納研究に映る、旭化成ホームズの住まいづくり。


LONGLIFE総合研究所 ホームページ

https://www.asahi-kasei.co.jp/j-koho/kurashi/index.html/

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https://www.asahi-kasei.co.jp/hebel/index.html/
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