その飾らない名前が示唆するように音楽性にも見た目にも派手さはないが、20年前の結成以来、姉弟ならではの美しいボーカル・ハーモニーを主役に据えたインディ・フォークを、緩やかにアプローチを変えながら自分たちのペースで紡いできたアンガス&ジュリア・ストーン(Angus & Julia Stone)。

9月4日に6枚目にあたるアルバム『Karaoke Bar』を発表したふたりはシドニー出身、過去5枚のアルバムは全て全豪チャートでトップ10入りし、うち2枚はナンバーワンを記録しており、オーストラリア最大の音楽賞ARIA賞の常連であることは言うまでもない。
2nd『Down The Way』(2010年)では最優秀アルバム賞など5冠を達成し、ヨーロッパ中心に海外でも広くツアーを行なって厚いファン層を築き上げただけでなく、トラヴィスのフラン・ヒーリーのサポートを得て彼の自宅で1st『A Book Like This』(2007年)を録音し、事実上の解散状態にあった時期にリック・ルービンに請われて3rd『Angus & Julia Stone』(2014年)を作ってカムバックするといった、数々の逸話もある。

そんな姉弟は2年ぶりの新作となる『Karaoke Bar』で、シンプルでノスタルジックなフォーク・ソングライティングを引き続きベースにしつつ、ビートを強調し、時にファンキーですらあるエレクトロニックなプロダクションで実験。今回インタビューに応じてくれたアンガスの「毎回新しいアルバムに着手する時には、可能な限り心をオープンにして取り組んでいる」という発言通り、大胆に新境地を拓いている。ほかにも、これまでのキャリアや姉との関係、『Karaoke Bar』のメイキングなどなどを網羅する会話からは、彼が大の親日家であるのみならず、とことんピュアで誠実なハートの持ち主であることも判明。バンドの音楽の魅力を裏打ちしてくれた感がある。

Angus & Julia Stoneが語る『Karaoke Bar』──「東京に住むのが夢」インディ・フォークを紡ぐ姉弟、20年目の新境地

左からジュリア・ストーン、アンガス・ストーン(Photo by Sean McDonald)

実家のリビングルームから始まった20年

―今年はあなたたちのデビューEP『Chocolates & Cigarettes』のリリース20周年ですよね。何かお祝いのためのイベントやリリースを考えているんですか?

アンガス:いや、僕らにとっては毎日がセレブレーションなんだと思う(笑)。これまで本当に美しい旅をしてきたからね。特に前作『Cape Forestier』(2024年)に伴うツアーではかつてなく絢爛でマジカルな会場でプレイできて(注:ロンドンのロイヤル・アルバート・ホール、バルセロナのカタルーニャ音楽堂など歴史ある会場を選んで公演している)、最終公演を迎えた時にはなんだか、色んな意味でひとつの周期を完結させたように感じたよ。そもそもあのツアーを”Living Room Sessions”と命名したのも、バンドのスタート地点に人々を招きたいという気持ちがあったからで、要するに、アンガス&ジュリア・ストーンは実家のリビングルームで始まった。そこから、ふたりで試行錯誤を重ねつつ進むべき道を見極めて歩んできたんだ。そんなわけであのツアーは、本当に心に深く刻まれるスペシャルな時間だったね。


しかもその後に僕らは、南フランスにあるミラヴァル・スタジオから招待を受けた。ミラヴァルはかつてピンク・フロイドが『ザ・ウォール』をレコーディングしたり、偉大なアーティストたちに愛された素晴らしい場所でね。もしかしたら知っているかもしれないけど、最近俳優のブラッド・ピットが買い取って、彼が出資して施設を修復してアップデートし、改めてミュージシャンたちが集まるようになったんだ。僕らは本当に楽しい時間をあそこで過ごして、『Karaoke Bar』の収録曲も幾つかレコーディングできたよ。

2024年「Living Room Sessions world tour」の様子

―ならば、『Karaoke Bar』で新しいチャプターをスタートするような気分だったりするんでしょうか。

アンガス:そうだね……というか、どのアルバムも新たな始まりであり、脱皮して生まれ変わってきたと思っているよ。それどころか、どの曲も新しいチャプターであって、新曲を作るたびに一歩一歩自分たちの本質に近付いていくような感覚がある。つまり自分の心、自分の思考、自分と世界の関わり方を、現代のカオスの中で見極めていくような感覚だね。何が素晴らしいって、ソングライティングと音楽を介して僕らは、自分たちの心の中の一番居心地のいい場所に逃避することができるし、そういう意味でもあらゆるアルバムで、あらゆる曲で、一歩ずつ前進できる気がするよ。

―今のようにあちこちが壊れてしまっている世界では、よりいっそう音楽を作ることの意味を実感できますよね。

アンガス:そうかもしれない。音楽はみんなをひとつにすることができるし、今の世界で起きていることを考えると、例えば東京のカラオケ・バーでも場所はどこでもいいんだけど、複数の人が集まって一緒に歌って、場の雰囲気に呑まれて恥ずかしさも忘れて、みんなで同じ場所にいるんだという喜びに浸っている光景を目にすると、その儚い美しさに僕はいつも胸を打たれる。
それはほんの一瞬しか続かなくて、翌朝にはお互いの顔を忘れてしまうのかもしれない。でも、本当に美しい体験を分かち合えたという事実は残る。だから僕ら自身もライブを行なったり、新しい作品を聞き手に届ける機会を得るたびに、それが僕らにとっても世界にとってもいかにスペシャルなことなのか、しっかりかみしめているよ。

シドニー公演にて、アンガス&ジュリア・ストーンの代表曲「Big Jet Plane」でデュア・リパと共演。2010年の2ndアルバム『Down the Way』収録曲で、抑制の効いたアコースティック・サウンドと柔らかなハーモニーが溶け合う、彼らの名を世界に広めた一曲

―少し遡って伺いたいんですが、あなたとジュリアは元々独自に活動をしていたそうで、過去のインタビューでジュリアは「私たちの場合ふたりのソロ・アーティストが一緒にプレイしているような感覚があって、コラボレーションをするために相手に合わせて変わる必要があった」と語っていました。今もそう感じますか? 実際、ふたりともずっとソロ活動を続けていますよね。

アンガス:うん。僕らのパートナーシップは、お互いの人生でその時々何が起きているのか敏感に察知することで、初めて成立する。そうすることで、ふたりがコラボするスペースが生まれる。だから、どちらかが助けを必要としていたら手を差し伸べて、常にチームとして動く。そういう風にまるでダンスをするようにして活動してきたし、20年間ツアーをしたりアルバムを作ってきた今でも、さらにいいやり方を模索しているよ。だからこそ、ふたりがそれぞれにソロ・プロジェクトを持っていることが非常に重要なんだ。
”A change of work is the best rest(仕事を変えることは最高の休みになる)”というアーサー・コナン・ドイルの有名な言葉もあるし、時には別の形でしか表現できないこともあるからね。

―では、音楽的に独立した人格を持つふたりが共有する価値観ってどんなことでしょう?

アンガス:そうだな……ジュリアと一緒にいると何が素晴らしいって、ヒューマニティを実感できるってことなんだよ。つまり、人間はみんな同じで、誰もが日々試練を乗り越えるために努力をしているんだと思い出させてくれる。この世界で生きていくのは楽じゃないからね。そして、これはクリシェっぽく聞こえるかもしれないけど、例えば戸外を歩いて太陽の光を肌に感じることができたり、毎日自分が見たことや感じたことを日記に綴る時間を持てる自分たちがいかに恵まれているか実感させてくれる。うまく説明できないんだけど、ジュリアってそういう存在なんだ。とにかく、色々問題が起きてはいるけど、世界がどれだけ美しい場所になり得るのかっていう可能性に気付かせてくれるんだよ。

―ミュージシャンとしてコラボを続けてきたことが、究極的に姉弟としての関係にもいい影響を与えたと感じますか?

アンガス:そうだね。バンドを支えてくれるチームも本当に大切な存在で、彼らの貢献には感謝しかない。それも忘れてはならないんだけど、僕とジュリアもそれぞれにこれまでのハードワークを通じて人間として大きく成長した。同じような経験がある人なら分かるだろうけど、家族と仕事をするのは結構厄介なことでもあって、家族という近しさが、逆に円滑に物事を進める上でハードルになったりもする。そのハードルを乗り越えることを可能にするのが、往々にして音楽というアートへの愛情であり、お互いへの愛情であり、お互いに抱く誇りなんだよね。


「Chateau」:2017年の4thアルバム『Snow』収録曲。四つ打ちのビートを取り入れた軽やかでドリーミーなサウンドは、フォークを基盤にしながら表現の幅を広げてきた姉弟の進化を象徴している

『Karaoke Bar』での大胆な変化

―アルバム『Karaoke Bar』の話に戻りますが、最初に聞いた時に興味深く感じたのが、前半と後半のサウンド志向が異なって、2部作みたいに構成されていることです。前半ではブレイクビーツを使ったりとヒップホップ的な要素を取り入れていて、後半で聞かせるのは、シンセも多用した非常にポップなサウンドですね。

アンガス:これはすごく興味深いことなんだけど、アルバムの全体像って、完成してこうして色々質問される段階になってようやく見えてくるんだ。ここに辿り着くまでの足跡を振り返って、僕らがある時は走っていたり、またある時はのんびりと歩いていたりしたことが分かるから。でも曲を書いている段階ではその瞬間瞬間に完全に没入してしまっていて、立ち止まるまで大局的なものの見方ができない。で、なぜそういうふたつの方向性に分かれたのかという説明を分かりやすくするとしたら、それぞれの曲が生まれた場所に影響されたんじゃないかと思う。さっき言ったようにまず南フランスで作業を始めて、次にギリシャのイドラ島に滞在し、そのあとオーストラリアに戻って、僕らが所有するシュガーケイン・マウンテン・スタジオでレコーディングを続けた。名前の通り、サトウキビ畑に囲まれているんだ。作品がレコーディング環境に影響されたかと訊ねられることは多いけど、今回に関してはイエスと答えるよ。

―それにしても、かつてなく積極的に実験したアルバムではないかという印象を受けました。前作『Cape Forestier』がルーツに立ち返るようなアコースティック主体の作品だっただけに、本作の随所で聞こえるエレクトロニックなプロダクションには驚きましたし、「Brightest Place」ではヴォコーダーを使ったりもしていますよね。


アンガス:そうだね。さっきも触れたように、僕らは日々進化していると思うし、毎回新しいアルバムに着手する時、新しい曲を書き始める時には、可能な限り心をオープンにして取り組んでいる。それに自分たちのスキルもどんどん磨かれて、ツールを選ぶ際の知識も増えるし、僕らをインスパイアする音楽もその時々に違うし、アルバム作りの面白さは尽きない。そして、最初から最後までちゃんと聞いてもらえたら、アルバムはそのアーティストが辿った旅を浮き彫りにするんだよね。大きなキャンバスに自分たちの足跡が残るから。

―ソングライティングについては、活動を始めた当初はふたりがそれぞれに書いた曲を持ち寄っていて、その後共作するケースが増えたそうですね。今作ではどうアプローチしましたか?

アンガス:確かに僕らのやり方は変化を経ていて、昔はかなり内省的だったというかね。同じスタジオにいるんだけど別々に曲を書いて、完成したものをふたりで一緒に聞きながら、相手が書いた曲に自分がどう肉付けできるか検討する……という形で進めていたんだ。で、今回の曲はほぼ全て共作で、ふたりでテーブルを囲んで、楽器をプレイしながら曲を書いていった。それがいい結果をもたらしたと思うよ。

―歌詞も共作したんですか?

アンガス:そうだね。曲によって書いた時の状況に多少左右されるけど。
例えばイドラ島で「Karaoke Bar」を書いた時の話をすると、まず最近の僕は寝っ転がった状態で歌うのが好きで(笑)、ジュリアが地べたにマイクをセットアップすることから始まった。で、イドラ島は猫に支配されていて、あちこちに猫がいるんだけど、その一匹がいきなり僕の胸の上に飛び乗って、結局あの曲を作っている間ずっとそこに座っていたんだ(笑)。僕は目をつぶって、古いカラオケ・バーに入っていく時の気分を思い出していた。床はベトベトしていて、誰も知らない曲を歌っているオジサンがいて、寂しげな人がバーの一番奥に立ってそれを見ていて、別の席では恋人たちがお喋りしていて……。そういった断片的なアイデアをふたりで思い思いに重ねていって、ひと通り書き上げた時点で見直して、「ここはいい感じだから使おう」とか「ここにこんな表現を加えたらどうかな」といった意見を交換して練るという共同作業だった。ほら、1000ピースくらいあるジグソーパズルのコマをぶちまけて、最初にその中から四隅にはまるコマを探し出して、徐々に完成させていくような感じかな。1枚の絵を描き上げるまでにすごく時間はかかるけど、僕らはそんな風にして曲を完成させるんだよ。

―その「Karaoke Bar」のMVはジュリアが自ら監督していますね。しかも人気俳優のギャレット・ヘドランドが出演する、ポエティックな傑作に仕上がっていました。

アンガス:うん。ジュリアは以前『Dirt Music』(2019年公開)という映画に出て、ギャレットと共演したんだ。確か恋人を演じて、すごくいい関係を築けたらしくて、新作映画の撮影のために彼がオーストラリアに来るというから、ビデオ出演を打診したんだよ。

―なるほど、そうだったんですね。ちなみに『Karaoke Bar』はアルバム・タイトルでもありますが、アルバム・タイトルとしてはどんな想いを込めたんですか?

アンガス:僕にとってカラオケ・バーが象徴するのは、言うなれば、野生動物たちが集まる水場みたいなイメージなんだ。自然の中にある水場には色んな動物がやってきて、例えばライオンや豹が、普段だったら襲い掛かって食いちぎってしまうような草食動物たちと、仲良く水を分かち合っている。音楽ってそれに近くて、不死をもたらす万能薬みたいなものだと僕は思うんだよね。さっき話したことにも通じるけど、世界に蔓延するカオスの只中でも、音楽があれば人々はひとつになって、同じ時間を分かち合える。僕らにとってそれが全体的なテーマであり、『Karaoke Bar』こそアルバムを形容するにはぴったりのタイトルだと感じたんだ。

「Karaoke Bar」アコースティック・パフォーマンス映像

なぜ『北斗の拳』?「東京に引っ越すのが僕の夢」

―あと、ぜひ伺いたかったのは「Take Me Back To Japan」と題されたドリーミーな曲のことです。イントロにはアニメ版の『北斗の拳』のセリフが使われていますね。

アンガス:まず最初に伝えておきたいんだけど、ジュリアと僕は、別々にだけど日本各地を旅したことがあるんだ。先月も日本で数週間過ごして、去年のクリスマス前後には2カ月間滞在したよ。とにかく日本って、ディテールにすごくこだわったり、人と接する時にお互いを尊重したり、色んな面で洗練されていてすごく惹かれるんだ。自然も美しいし、本当にマジカルな場所だと思う。で、この曲を書いていた時にテレビで日本のアニメ番組が流れていて、どういう番組なのか分かっていなかったんだけど、たまたま耳に入った箇所がカッコ良かったから、テレビのほうに走って行ってスピーカーにマイクを当てて録音して、それをそのままイントロに使ったんだ(笑)。ふたりの侍が闘っているシーンだったっけ。

―曲そのものも日本での体験にインスパイアされたんですか?

アンガス:そうだね。歌詞で触れているように日本ではいまだ煙草を吸える場所があって、そこも気に入ってる(笑)。こないだも渋谷にある素敵なレストランで一服できて……最高の気分だった。世界で最後に残された、煙草片手にリラックスできるシネマティックかつロマンティックな場所かもしれないね。真剣な話、東京に引っ越すのが僕の夢なんだ。そしてもちろん、日本に行って僕らの音楽を日本の人たちと分かち合うというのも、バンドとしての夢だよ。

―ならば次回遊びに来た時には、ソロでも構わないのでぜひライブをやってくださいね。

アンガス:オーケー。いいライブハウスを教えてくれるとうれしいね。

Angus & Julia Stoneが語る『Karaoke Bar』──「東京に住むのが夢」インディ・フォークを紡ぐ姉弟、20年目の新境地

Photo by Sean McDonald

―この曲も「Karaoke Bar」もそうですが、もうすぐ消えてしまうものにすがっていると言うか、何かが失われていくことを予感しているかのような、この上なく切ない気持ちにさせられる瞬間が多々ありますね。あなたとジュリアの間でそんなことが話題に上ったりしましたか?

アンガス:恐らく僕らが歌っているのは、愛と喪失を介した成長、そして自己の再生なんだと思う。僕とジュリアは個人としてそれぞれ独立しているわけだけど、お互いに深く理解し合っていて、ふたりの間には言葉を必要としない生来のコネクションがある。だからそんなにたくさん会話をしなくても、お互いに何を考えているのか、どんな状態にあるのか、分かり合えるんだ。それは肉親ならではの本当に美しいコネクションで、ソングライティングにおいても、彼女が心に積もっていた気持ちをさらけ出すのを目の当たりにできるのは、本当にスペシャルな体験だと思うんだよね。自分独りで向き合うのは難しいこともあるし、それだけに大きなカタルシスを伴う。僕もやっぱり、ふたりで一緒に曲を書いていると普段は絶対に言えないようなことが自分の中から出てくるから。音楽って、そんな風に血管を切り開くようにして、自分の奥にしまってあったものが流れ出るのを促してくれるんだよ。

―最後に、アンガス&ジュリア・ストーンの音楽に初めて触れる日本のビギナーには、まずどのアルバムを薦めますか?

アンガス:正直なところを言えば、やっぱり最新作を聞いてもらいたいよね。今の僕とジュリアの心に一番近い場所にある作品で、ふたりが抱いている色んなフィーリングや、世界について考えていることが、ここには虹みたいに網羅されているから。

Angus & Julia Stoneが語る『Karaoke Bar』──「東京に住むのが夢」インディ・フォークを紡ぐ姉弟、20年目の新境地

アンガス&ジュリア・ストーン
『Karaoke Bar』
発売中
再生・購入:https://angusandjuliastone.lnk.to/KaraokeBar
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