◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 5月17日。一本の電話から全く予想もしていなかった2週間が始まった。

 「誰が乗らへん言うとんじゃい!」

 相手は岩田康誠騎手。アスクエジンバラとの日本ダービー2週前に京都で落馬事故に見舞われ、そのまま病院に運ばれた。夕方に「鎖骨骨折して明日かあさって手術」と連絡をもらい、「ダービー残念です…」と返信。その直後にスマホが震え、冒頭の言葉につながる。

 強烈なパワーの競走馬を時に動かし、時に抑える動作は相当な負担がかかる。利き腕の右の鎖骨骨折から2週間で実戦復帰。普通は絶対にあり得ない。しかし、落馬2日後の火曜には「1分1秒も無駄にできない」と早々と手術を行い、その4日後には調教の騎乗を再開した。「たかが鎖骨一本やから」。この言葉を何度も聞いてきた。

 相棒のアスクエジンバラには昨秋から調教につきっきり。ダービーを目指し、ずっと一緒に歩いてきた。

骨折直後には騎手時代の盟友だった福永調教師、広崎オーナーから「待っています」の言葉。絶対に戻らないといけなかった。「一人じゃないからね。チームが本当にいい雰囲気でレースに向かえる」。5月31日、全身全霊を込めた挑戦は10着に終わったが、レース後の表情は晴れやかに見えた。

 落馬後は声に力がなかったが、手術後の病院や退院直後、調教騎乗の再開後もほぼ毎日のように連絡を取り続けた。強い覚悟に触れるたび、何をどう聞けばいいのか自問自答の繰り返し。この2週間は“原点”に戻ったような日々だった。(中央競馬担当・山本 武志)

 ◆山本 武志(やまもと・たけし)2005年から中央競馬担当。ダービー取材も、もう20回を超えました。

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