◆報知プレミアムボクシング 後楽園ホールのヒーローたち 第36回 岩田翔吉

 プロボクシングWBC世界ライトフライ級チャンピオンの岩田翔吉(30)=帝拳=が7月20日に初防衛に成功した。生涯初のダウンというピンチに直面しながら、終始足を動かし主導権を奪い返すと、最後はTKO勝ちに持ち込んだ。

過去に経験した敗戦を機に、足りないものは何かと自問自答する中、ようやく見え始めた完成形へのスタイル。世界王者になってもまだまだ成長過程にあることを強調する。9歳から格闘技を始めたそのパワーの源は「反骨精神」だという。自身のことを疑われ、否定されても「世の中には例外がある」ことを証明するために歯を食いしばり、結果に結びつけた半生を明かした。(取材・構成=近藤英一、敬称略)

 V1成功から約1か月。すでに次戦に向け始動している岩田は、無敗の1位挑戦者エリック・バディージョ(メキシコ)を11回TKOで退けた試合を改めて振り返った。

 「やろうとしたことは結構できたが、4回のダウンは正直、びっくりした。効いたパンチではなかったが、初めての経験で『あっ、倒された』とはっきりと覚えている。9回には左手小指付近を痛めた。経験したことのない激痛で、『これはまずい』と思ったが、足を使えることができたので助かった」

 左手は試合後に検査を受け、骨折と診断された。7月22日に手術を受け、順調に回復している。まだパンチを打つ練習こそしていないが、ロードワークなどは再開。

年内にもう1試合行うことを希望している。

 「足を使えることができた」と岩田は振り返り、動き続けることでバディージョに的を絞らせなかった。1年前とは別人となり、指名試合(1位挑戦者との防衛戦)をクリアした。昨年3月のレネ・サンティアゴ(プエルトリコ)戦。WBO王者としての初防衛戦は、ジャブや軽い右を打ち動き回る挑戦者を捕まえきれずに終了のゴングを聞いた。判定負け。パンチを当てよう、当てようと力むあまり、動作がワンテンポ遅れる歯がゆい12ラウンド。再起を決めると、新たにコンビを組んだトレーナーの田中繊大と12ラウンド足を止めないスタイルへの取り組みがスタートした。

 「動ける状態で動かないのと、動けない状態で動かないのは違う」と田中から言われ、頭にたたき込んだ。足を動かすことで上半身の力みがなくなり、パンチも出しやすくなる。スタミナをつけようとロードワークやダッシュの量を増やしたが、あまり効果はなかった。それよりもジムワークで足を止める時間を作らず、動き続けることが重要だった。

「緩急をつけながら足を動かし、パンチを出す。この動作を連動させるのに苦労した。それを12ラウンド続けるとなると、スタミナと足への負担は相当なもの」。王座返り咲きに成功した今年3月のノックアウト・CPフレッシュマート(タイ)戦では、すねの内側にある頸骨(けいこつ)に痛みが生じるシンスプリントにかかり、両足はテーピングだらけでリングに上がった。疲労骨折と隣り合わせだったというほど負荷をかけたジムワークを消化したからこそ、バディージョ戦でのアクシデントにも動じなかった。

 岩田は逆境に立たされた時、それをエネルギーに変え、行動に移してきた。

 「よく『お前にはむりだ』と言われますが、否定されたり、疑われたりすると、世の中には例外があるということを証明したくなる。高校時代のこと、世界戦で負けた時などは特にその気持ちが強くなった。反骨精神というか、これが自分の原点」

 メンタル面を支えているのは「なにくそ」と思う気持ちであり、それは中学、高校時代の初恋の末に味わった屈辱から生まれたものだと、述懐した。

 「中学2年から高校2年まで付き合っていた彼女がいたんですが、その彼女は幼稚園からの幼なじみで、家は上場企業のオーナー一族。彼女の両親は、真面目な優等生タイプではない自分との付き合いに大反対して、よく家にどなり込んできたりした。2人で会うことが禁止されてからも、学校が終わってからコソコソ会っていたんですが、もう駆け落ちしようということになった。

貧乏でもいいから2人でやっていこうと…」

 高校2年になったばかり、多感な時期の2人は恋の逃避行という大胆な行動を計画するが、メールでのやりとりが彼女の親にばれる。激怒した両親から学校に抗議され、大問題となり結果的に高校を辞めざるを得ない状況に追い込まれた。子を持つ親となった今なら、娘を思う親の気持ちも理解できる。「何の恨みもない」と前置きしながら、当時彼女の両親から浴びせられた言葉は、一言一句忘れていない。

 「お前みたいなやつがボクシングでインターハイ優勝なんて、できるわけがない。笑わせるな」

 「お前みたいなやつは大学にも行けない」

 罵倒された。「30年生きてきた人生の中で一番、傷ついた時でした。とにかく、とにかく悔しくて…。必ず黙らせてやると決めた」。立教小、中学に通いながら高校はボクシングの強豪校への進学を希望し、駿台学園に推薦で入学したが、中退することに。インターハイ予選にすら出ることができない状況に追い込まれるが、幸運なことに突然、CM出演のオファーが舞い込む。出演したのは洗濯洗剤のCMで、俳優の吉田羊が母親を演じ、息子役の岩田がシャドーボクシングをする姿がテレビで流れ始めた。

その姿が関係者の目に留まり、2年の終わりに日出高(現目黒日大高)へと進み、3年でインターハイのライトフライ級で優勝する。準決勝で田中恒成(元世界4階級制覇王者)、決勝では井上拓真(WBC世界バンタム級王者)を破り頂点に立つ。同トーナメントには他にも、ユーリ阿久井政悟(元WBA世界フライ級王者)、9月27日に世界挑戦するアマ世界選手権金メダリストで同門の坪井智也とそうそうたるメンバーが名を連ねる中、インターハイ優勝という条件をクリアしたことで、早大への推薦入学も手にした。

 「(彼女の親に)めちゃくちゃばかにされて、その後すぐにCMに出て、インターハイ優勝、早大進学。彼女の親もさぞ、びっくりしたでしょう」と笑う。結果を出すことで、屈辱的な言葉を一つひとつ消し去っていった。そして一番感じたことは、逆境や怒りをエネルギーにした時に体からわき出るパワーの強さだった。「今振り返っても、刺激的な人生で最高だったと思う」とジェットコースターのような高校時代を振り返る。体は小柄でも、生まれながらにエネルギー量の多い肉食系。それを証明するように、小学校時代はクラスメートとまったく会話が成立しない毎日を過ごしていた。(26日に続く)

 ◇岩田 翔吉(いわた・しょうきち) 1996年2月2日、東京都渋谷区生まれ。9歳からキックボクシングを始め、中学2年からはボクシングに専念。

U―15全国大会を2連覇。日出高(現目黒日大高)3年でインターハイ優勝。アマ戦績は59勝(16KO・RSC)12敗。2018年12月に米国でプロデビュー。24年10月にWBO世界ライトフライ級、26年3月にWBC世界同級王座を獲得(1度目の防衛に成功中)。プロ戦績は17勝(14KO)2敗。身長163センチの右ボクサーファイター。家族は妻との間に1男。

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