スーパー歌舞伎「もののけ姫」(東京・新橋演舞場)が、23日の千秋楽まで1週間を切った。“モロの君”を演じ、その完成度の高さが評判を呼んでいるのが市川笑三郎だ。

澤瀉(おもだか)屋一門の実力派女形として知られるが、TBS系日曜劇場「VIVANT」(後9時)では“別班・高田”役で出演中。16日放送の第14話では拉致された別班員たちのショッキングな姿が映し出され、展開が気になるところ。舞台、ドラマと目が離せない人に話を聞いた。(内野 小百美)

 「VIVANT」第1シーズンで見せた、りりしい“別班・高田”で笑三郎を知った人は、「もののけ姫」での“モロの君”を見てさぞ驚いただろう。芸域の広さがこの人の強みでもある。シシ神の森を侵す人間を憎む“モロの君”。人間の子・サン(中村壱太郎)を実の娘のように育てる犬神だ。

 歌舞伎化が決まった時から「モロの君は笑三郎に」と待望の声は大きかった。「それは僕の方にもそれとなく伝わってはいました。決まった時は、やっぱりそうなんだな」と重く受け止めた。この役は、映画では6月に逝った美輪明宏さん(享年91)が声を演じたことで有名でもある。

 「僕も映画を拝見した時、やっぱり美輪さんの印象があまりに強すぎて。

『これは自分にはかけ離れた存在のものだろう』とずっと思っていたわけです。演じるにあたって『あー、似てるね』ということだけで喜ばれる役ではありませんからね」と覚悟した。モロの君の、あの高笑いと主人公の少年・アシタカ(市川團子)を一喝する「黙れ小僧」の箇所は役を象徴するため、熟考の末、映画を参考するに至ったという。

 稽古中、役がつかみ切れず、苦しんだ。しかし、幕が開き、役を重ねる中で気づく。敏感に反応する観客の力によるところもあるだろう。

 「傷から出た血を吸ってもらい、苦しんでうなっている時も、人間を意識した瞬間、神がかりな感じでピシッとなる。その部分が最初、完全に飲み込めなくて。どこか無理して気持ちを奮い立たせるところがあったかもしれません。でも『人間』というキーワードに対して体が瞬時に反応してしまうのだと理解したのです」。気高さから生まれる圧倒的な存在感は、見る者を引き込む。その力はすさまじい。

 初舞台から40年になる笑三郎の師は、2代目市川猿翁(2023年没、享年83)。アシタカ役で主演する團子はその孫だ。初舞台から知るだけに、芸の成長の軌跡の一方で、驚くほど似ているところがあるという。「びっくりしたのは、生え際にうねりのようなものができるところ。22歳の張りのある顔なのに。眉毛の辺りも似ているんですね。セリフを言う時の息づかいなどもそうじゃないでしょうか」。独特の観察眼。團子のことを話す笑三郎は、どこかお母さんのような感じにも映る。

 さて「VIVANT」の話へ。笑三郎演じる「別班・高田明敏」の経歴はドラマ内でも触れられているが、以下の通りだ。京大経済学部卒。

自衛隊に入隊し、5年後に除隊。3年間の空白期間を経て京大大学院機械工学専攻を卒業。その年に別班員となり、翌年、経済産業省に入ったことになっている。

 ドラマを経験して学んだのは、物語の順番に撮らない中での役への集中力だという。

 「今回は続編ということでしたから『初めまして』でなく『あ、お久しぶりです』から入っていけたのはよかったですよね。ずっとやってきた舞台だと最初から終わりまで基本的に順番に進みますよね。映像って全然関係のないお尻から撮ったり。あれだけバラバラに撮っていても出来上がった時、ちゃんとつながっている。すごいと思いますね」

 収録中、困惑することがあれば、疑問はそのままにしないようにした。「共演者の方に『いまのこれ、どこのあたりを撮ってるんでしたっけ?』と聞いたり。海外に行った時もちょっと戸惑っていたら『日本で撮ったあそこにつながるんですよ』と教えてもらって。その度に驚き、感心しますね」

 映像を中心に活動する俳優への思いも変わった。

「リスペクトが増しました。私は舞台の時のようについ、セリフの声を張ったりしますでしょ。指摘されて声を落としながら『こんなちっちゃい声でいいんだ』ということも勉強させてもらえた。オンエアでいろんな方を見ていると、確かにその方がリアリティーがあると分かるんですね」

 16日に放送された第14話の後半。拉致されていた別班員たちがはりつけにされている姿が映し出された。それも、顔にはひどい拷問の跡が。ショッキングなシーンだった。これからの展開が大いに気になるところ。「きっと、びっくりされると思いますよ。楽しみにご覧いただきたいですね」。いたずらっぽい笑みを向け、しっかり番宣することも忘れなかった。

【9月は“VIVANTトリオ”が南座に登場】

 〇…笑三郎は9月、京都・南座「流白浪燦星 碧翠の麗城(ルパン三世 へきすいのれいじょう)」(2~26日)に出演。

モロの君からは一転し、男の色気漂う次元大介を演じる。「ドラマもあって次元につながったわけでお仕事がどう転がっていくか分かりませんね」。片岡愛之助主演。坂東彌十郎、市川猿弥も出演し、「VIVANT」トリオがドラマとは全く違うキャラクターを見せる。

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