女優でエッセイストとしても活躍した岸惠子(きし・けいこ)さんが7日に老衰のため、横浜市内の自宅で死去していたことを19日、所属事務所が公式サイトで発表した。93歳だった。
戦争体験、女優デビュー、国際結婚と波乱万丈な生涯を送ってきた岸さんが、美しく人生の幕を下ろした。所属事務所関係者によると、大きな持病はなく「1か月前には『マンゴーが食べたい。あれも、これも食べたい』と食欲もあり、『95歳までいけるわ!』と意欲を口にしていた」が、94歳の誕生日を4日後に控えた7日に安らかに息を引き取ったという。葬儀にはフランスから長女や孫らが参列。関係者は「しわ一つなく、最期まで美しい大女優のままで旅立った」とした。
小説家志望だった岸さんは、高校時代に松竹大船撮影所を見学中にスカウトされ、芸能界入り。51年、映画「我が家は楽し」(中村登監督)で笠智衆さんの娘役で女優デビューした。
聡明(そうめい)なたたずまいと圧倒的な美貌(びぼう)で松竹の看板女優だった57年、映画撮影で知り合ったフランス人映画監督のイヴ・シャンピ氏と結婚。仲人は川端康成が務めた。結婚を機にパリへ移住。63年には娘をもうけたが、「女性は手を大事にしなければならない」と夫から料理を禁じられストレスをため込んだこともあり、75年に離婚した。
日仏を行き来しながら女優業を続け、“空飛ぶマダム”と称されるなど国際派女優の先駆者として活躍。75年には山口百恵さん主演のTBS系ドラマ「赤い疑惑」での“パリ在住のおばさま”役が話題に。「おとうと」(60年)や「悪魔の手鞠唄」(77年)、2002年に日本アカデミー賞主演女優賞に輝いた「かあちゃん」など市川崑監督の作品にも数多く出演した。
巧みなエッセーの書き手でもあり、世界各国を飛び回るジャーナリストとしても活動。イスラエル、パレスチナ、バルト三国での取材経験をつづった「ベラルーシの林檎」では、日本エッセイスト・クラブ賞を受賞するなど、著書も多数出版した。
所属事務所によると最後の出演作は、戦前戦後を生き抜いた女性を演じた、19年NHK主演ドラマ「マンゴーの樹の下で~ルソン島、戦火の約束~」だという。コロナ禍以降は外出の機会が減っていたが、「施設や病院に入るのは絶対いや」と住み慣れた自宅で執筆活動にいそしんでいた。
90歳を迎えた直後の22年8月にはトークショーを開催。ウィットに富んだトークと、自身の戦争体験をもとに「なぜ戦争が終わらないのか、世界の人間の知恵を出す時」と平和への思いを訴えていた。
◆岸 惠子(きし・けいこ)1932年8月11日、横浜市生まれ。51年、芸能界入り。映画「忘れえぬ慕情」の撮影をきっかけに、フランス人医師で映画監督のイヴ・シャンピ氏と57年に結婚し、渡仏。他の主な代表作に映画「雪国」(57年)、「約束」(72年)など。2002年にフランス芸術文化勲章オフィシエ、04年に旭日小綬章を受章。女優業と長年の作家活動が評価され、17年に第65回菊池寛賞を受賞。

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